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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第2部一章「百合葉と美少女たちの夏」
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第21話「花火と百合」

 花火をしっかりと見たい僕らはようやく、空いていて落ち着ける花火見ポイントを高台に見つけ、花火が夜空に打ち上がるのを今か今かと待っていた。



「この花火はねー。最後の大きな花火の時に告白すると、叶うっていうジレンマがあるらしいよー?」



「ジレンマじゃないよ……。なんで葛藤しちゃうのさ……」



「仄香ちゃんソレ違う……確か……ジングル?」



「それを言うならジンクスね。ジングルはラジオのCM明けとかの短い挿入曲だから……」



「なるほど! シャンシャン鳴らすんだねっ!」



「それはジングルベル!」



 まったく。相変わらずの連想ゲームであった。



 だけれども、楽しくコントをする傍らで、咲姫はより一層、僕の二の腕をつねる。痛い? 痛いよ? でも可愛いよ? 痕になっちゃう……けど、咲姫の嫉妬の証が僕の腕に残ると考えたら……いやいや、僕はマゾじゃない。ただ、美少女たちが僕に対して感情を高ぶらせている姿に興奮しているだけ……痛い痛い痛いっ。



「咲姫……そろそろやめない?」



「ん~んっ? 花火が終わるまでこのままよ?」



「でも、痛くてユズを落としちゃったらどうするの」



 僕が言うと、流石にそれは困ると思ったのか、苦虫を噛み潰したように顔を歪め、手を離す。



「……落とすのは困るわねぇ。でも、下ろしても良いとは思うけどぉ?」



「どうする? ユズ」



「うぅぅ……」



 咲姫がそう言って僕を見て、僕は譲羽の様子を。フルフル首を振る。ならば、甘やかすしかないのだ! このロリを!



「まあ落ち着け咲姫。ジンクスに頼るようでは、勝ち目が無いのを認めているように見えるからな」



「何を勝手なコトを……はぁ。でも、ジンクスなんかを当てにするだけ負けよねぇ」



 蘭子と争う気力も無くなったのだろうか。独り言のように言った咲姫は諦めたように、両腕で丸太の柵に寄りかかる。



 夜の中で賑わう祭りの明かりを見下ろし、黄昏る美少女。そこで、僕の鈍感さに気付く。



 ああなるほど。咲姫の不機嫌はジンクス……ジンクスのせいか。



 譲羽が背中に居ては、叶う叶わない以前の問題だ。



 でも、無理やり譲羽を引きずり下ろすような、荒業に出ないのは本当に助かる。そういうキャットファイトは望んでないなのだ。



 ハーレムを目指すだなんて、下手をすれば暴力や罵声が飛び交いかねないけれど、でも、その一歩手前で踏みとどまり続けてくれるのが一番心地良い。他の子と喧嘩さえしなければ、恋心を盛り上げる序曲に過ぎないのだから……。しかも僕らは女同士、親友……。他の男や娘に鞍替えは難しい……。ふふふっ、無敵の布陣じゃないか。



「おおっ! 上がった! 上がった! やっぱり祭りの後だと風情があるなーっ! とりあえずみんな花火を見ようぞうっ!」



「そうだな……。知名度の割に悪くない」



「隠れスポットを見つけられて良かったわねぇ」



「業火の花びら……キレイ」



 そうこうしているうちに、一発目の真っ赤な花火があがった。仄香の仲裁の声が聞いたのか、途端に皆の意識は花火に逸れて、感想を漏らすように。



 みんながジンクスを諦めきれているとは限らないけれど、少なくとも最初の数発はゆっくり見られるだろう。そう思って僕らは純粋な気持ちで空を見上げ……。



「百合葉ちゃん、こっち向イテ……」



「ん……?」



 花火が打ち上がる瞬間、誰もがみんな、空を見上げている瞬間。背中の譲羽に言われ、左に顔を向けると……。



「スキ」



 首に回されていた右腕が、僕の頭をぎゅっと押さえ込んで、



 サクランボみたいにぽってりとした唇が、



 僕の呼吸を止めたのだ。



 擦れ合う二つの果肉。混ざり合う蜜の味。頭の中でも火花が散る二つの化学反応。



 甘くて、そして、酸っぱくて。ほろ苦くて。



「プハァッ」



 再び花火が空に咲いたとき、二つの果実が弾けた。



「……っはぁ。まったく、困った子だなぁ」



「隙あらば……ネ。ほら、闇夜に咲く青色の花もキレイ」



「そうだね、青色も綺麗だ。僕らの化学反応かな」



「もうっ百合葉チャン……クサイ」



「ユズだって、闇夜とか言って」



「……カッコいいから、好きだから仕方がない」



「そうだね。好きなら仕方がないんだ」



 それは中二病に対してなのか、恋愛に大してなのか。



 でも、どちらでもいい。



 何かに夢中になる美少女は素敵なのだから。

 

 やがて、最後の花火が上がり終わり、みんなは僕を気にしていたけれど、横並びになって見る事が出来た。恋愛抜きにしても、こういう青春味でも良いものだ。



「さぁてさぁて、終わっちまったなぁー……あーっ! ゆーちゃんなんで口赤いのー!」



「えっ……? 」



 言われて、僕は何か赤くなる物食べたかなと。



「う~ん、リンゴ飴かなぁ。付かないように気を遣ってたけど、ずっと赤かっただなんて、恥ずかしいな……」



 だが、思い返す僕の予想とは裏腹に、仄香は地団駄を踏んで怒りアピール。こら、下駄が……。



「絶対ちがーう! さっきまで赤く無かったもーん! これはゆずりんとのインコー疑惑だねっ! あたしらが見てないうちに何してたのさぁ!」



「淫行って……そんな卑猥な事してないし……」



「じゃあヤらしく無いことしてたんだねーっ! ヤラシーッ!」



「矛盾してるよ!?」



 セクハラ娘に言われたくないし……。そして、仄香が言い出したせいで、他の子たちにも気付かれたわけで……。んん……? 意外と怒っていない?



「はぁ……。そんな堂々と抜け駆けだなんて……。ユズちゃんにはしてやられたわぁ……」



「とんだ伏兵だ……。これでは、どう詰めよればいいか分からないではないか……」



 咲姫も蘭子も顔をしかめている。だが、相手は譲羽。きっと、油断していたのだろう。それだけに、抜け駆けされたのが悔しいのかもしれない。



「くぅ~……。まさかゆずりんに出し抜きされるとは……次は負けないかんね……」



「出し抜かれた……ね。みんな仲良くしてくれると嬉しいんだけどなぁ」



 本音を言うも、黙り込んで聞く耳持たずな三人。そんな敗者に向かって、譲羽はピースサイン。



「アタシは決めたノ。強く、逞しく生きるっテ」



 その笑顔はダークチョコレートみたいに、苦味の強い甘さを秘めていた。

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