第20話「足の怪我と百合」
僕と蘭子が仄香と譲羽が残したリンゴ飴を食べてあげて、ようやく屋台巡りに繰り出せた僕らは、あっという間に満腹に。
そうして、夏祭りの最大の見せ場である、打ち上げ花火を見に向かっていた。
だがみんなで歩く中、どんどん遅くなる譲羽の足。やがて、僕のそばに来て、腕に抱きついてくる……かわいいけど、大丈夫かな……。
「どうしたの? ユズ。脚痛いの?」
「う、うん……」
「それは大変だ……っ」
僕は譲羽の足をいたわりつつ側の木陰に連れていき、そこで彼女を木に寄りかからせる。ベンチや椅子が無いならここしかない。
「うわっ! ゆーちゃんがインコーを始める気だ!」
「違うわっ!」
「なになにぃ~? どうしたのよぉ~?」
「ちょっとユズが……!」
お馬鹿なセクハラを言う仄香と何事かと質問する咲姫だが、しっかりと返事をする余裕が無かった……。木に寄りかからせた譲羽の足を持ち上げて、僕は色んな角度から眺め回す。
「やっぱりインコーじゃん! ゆーちゃんが足フェチの変態と化してる!」
「足の指が好きなのか……ちょっと想定外の性癖だな」
「違うっての! ユズが痛いって言うから……!」
そう言って、ようやく事の重大さが分かったのか、皆押し黙り、様子を伺うように。
「指は大丈夫……かかとも擦れてないみたいだし……」
そう言って、目立った怪我はなさそうだと判断した僕は、譲羽の足を藍色に紫の朝顔が咲いた下駄の上におろす。
「履き慣れない下駄で疲れたのかもね。おぶろうか?」
「ウン……ッ」
僕が言うと譲羽はぎこちなく、でも嬉しそうに頷いた。しかし、そこでムッとした顔の姫様。
「咲姫……どうしたの?」
「ふんっ……。分かってるくせにぃ」
「な、なんの事かな……」
でも、僕のハーレム本心を知られている以上は、誤魔化せる筈もなかった。だけど、今は怪我人優先だ……。咲姫に我慢してもらって、譲羽を僕の背にしょいあげて、少し歩いてみせる。かなりキツいけど、美少女のためならなんのこれしき……っ。
「ユズどう……? 背負われて、気持ち悪くなったりしない?」
「良い感ジ……すごく助かる……。アリガトウ、百合ちゃん」
「気にしなくていいよ。花火はこのまま見よっか」
「ヤッタ……」
なんだか小ずるい感じだけど、怪我の巧妙だと思って存分に甘やかそう……。
そうして、みんなに見守られる中、花火が見える場所に向かう。だけど、側でずっと僕を睨み付ける咲姫が、自然な桃色で塗られた短い爪で僕の二の腕をパチパチ摘まむ。
「い、痛いよ? 咲姫……?」
「なんだか我慢できないのよ……」
あらあらまあまあ。ジェラシーなプリンセス様である。ここまであからさまに八つ当たりとは珍しい……。痛いのは嫌だけど、嫉妬百合はまあ好きだし、甘んじて受け入れよう……。
そこで、僕の背中で静かに笑う美少女。
「後で復讐してやると言ったわ……フフフ」
「ん……? それを言うなら後悔だったと思うけれど……? 何これ復讐だったの?」
「足が痛いのはホント」
「そっか……。それじゃあ仕方がない……」
これもまた、美少女のためである。でもこれ、後悔要素も無かったり。なんなら、僕も譲羽も楽しい。一挙両得だ。
いや、譲羽の言葉が聞こえたのか、一層嫉妬の炎を燃やしている子が。未だにチクチクと痛みを与えてくる咲姫ちゃんである。
ああでも、こんなに複雑そうに表情を歪めても、やっぱりかわいい……。自分で言うのもなんだけど、やはり僕は罪深い女だ……。でも、美少女が大好き過ぎて、どんな表情でもドキドキするのだから、始末に負えないモノである。




