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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部一章「百合葉の美少女集め」
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第23話「授業中の手紙」

「あたしがお前らくらいのときにぁー、窓から飛び降りて数少ない焼きそばパンを取りに行ったもんだけどなぁー。いまどきの子はぁー、そういう、はっちゃけ具合ってーの? 足んねえよ。なあ」



「せんせー。それは危ないでーす」



「へっ。お嬢さまだろうがなんだろうが、自分で危険かどうか見極めて行動するもんよ? いまどきの子はちょっと冒険しなさ過ぎだな」



 なんて、先生の武勇伝やら、今時の若い子は~論を聞く保健の授業中。珍しく仄香がツッコミ役だ。



 しかし僕はそんな面白そうな話を聞いてられなくて、ちらと横を見る……見ている。



 教科書とノートを開いて、先生が話に一呼吸を付ける合間、横目で確認……めちゃくちゃ見られている……。



 蘭子との話だよなぁ。



 何か言われるのだろうか。そう思っているうちに、カツカツと先生が黒板に向かい板書を始めて、ようやく咲姫さきがペンを握り僕から視線を逸らす。



 良かった。これで授業に集中出来る。



 彼女に構いたくないというワケじゃない。ただ、学年トップの座は易々と他人に譲りたくないからね……。この学校がそんなにレベルの高い内容で無くとも、僕は元々が良い方じゃないし、一回の授業でも聞き落とすワケにはいかないのだ。確かに重要なところは予習復習しているけれど。



 とりあえず安心してノートを取れるかな……と、方程式を目立たすためマーカーを取り出してみれば……。



「……っ?」



 声にならない吐息が漏れる。何かが頭にぶつかった?



 木の葉が落ちるみたいにカサッと音のした足元を見てみる。染み一つ無い綺麗な木目調もくめちょうの中、小さく折り畳まれた紙屑が……。



 なんだこれ?



 とは一瞬思ったが、すぐに咲姫の様子を見る。黒板を見つつノートを取りながら、ちらりちらりと僕を覗き見ていたのだ。彼女の仕業だろう。



 手紙かぁ……。



 僕は拾った紙屑を開く。黒ウサギのシルエットに桃色キュートなゴシック調が彩るメルヘンチックな便箋だ。その中で上の部分、まあるく可愛らしい文字でこう書かれていた。



『鈴城さんとなに話してたの』



 えっと……。柔らかい見た目の割りに内容がストレート。彼女との携帯でのやり取りでは、もっとハートとか猫とかの顔文字など、何かしら語尾に付けていたんだけれども……。無くてちょっぴり怖いぞ?



 余白がたくさんあるってことはその下に返事をくれ――という事なのだろう。手紙のやり取りなんてルールは知らないけど、メモじゃなくて便箋で来たからには、相当長くなることを見越さないといけないかもなぁ。



『特に何も? 仲良くなりたいから本の話をしてたんだ』



 丁寧な折り目に沿ってたたみ、先生が再び板書をした隙に彼女の机の上に置く。



 そうして彼女は中身を確認すれば、睨むような不思議な目つきで僕を一度見やってから、サカサカと文字を書き出す。ちょっと可愛くて癖になりそう。



『でもかわいいかわいいってほめてたじゃない』



 ああそれなー。可愛いと思ったら考えなしに言っちゃうんだよなー。僕の悪い癖……と、再度受け取った便箋を眺めながら思う。



『面白いからイジってただけだよ(笑)』



 あういう大人びた子の焦る姿は見てて堪らないのだ――という本音だってあるし、何にも嘘は吐いていない。考える間もなくササッとペンを走らせ、手紙を彼女の元へと戻す。



 開いた彼女。少し浮かない様子で疑惑に似た視線を送ってくる。



『本当にそれだけ?』



 すぐに来た返事。たった八文字に満たない言葉。僕の心の奥にチクッとマチ針を刺すように、小さいけれど核心を突いてくる。そう、確かに"それだけ"では無い。



 やはり鋭いなぁ彼女は。僕の百合ハーレムにおいてオトす対象でありつつ、一番の要注意人物かもしれない。



『友だちになりたいからね』



 ひと時逡巡し考えあぐねるも、話を少し逸らしての返事。書き終えるやすぐに彼女の机の上に手紙を差し出すのだが――



「……ッ」



 重ねられた手のひら。手紙だけ取られ、読まれている。もう内容は予測済みだったのだろうか。驚きに身を駆られ引くことも出来ない。冷たい机と彼女の温かい手に挟まれ余計に感覚が鈍っていた。



『ほんとうにそれだけ?』



 声に出さず口の動きだけで伝えてくる。ジッと瞬くことのない真剣な瞳。そうして視線を交わしつつも右手をギュッと握られるものだから、心拍数が倍にまで跳ね上がりそうだった。



 鼓動しか聞こえなくて、お風呂で潜ったみたいに水の中で佇むよう。チョークが黒板を叩く音が遠い。張り詰める緊迫感のうちに、停止した僕の思考は次にすべき事を見つけられない。



 そんなとき、



「お前たち、何を見つめあってるんだー?」



 突如響き渡る声。その言葉に現実へと引き戻される。膠着した手を慌てて離し見れば、先生が訝しげながら僕らに注意しているのだった。



「いやぁ、彼女が消しゴムを落としたので拾ってあげてたんです」



 慌てて脳を急ぎ巡らせ、咄嗟の言い訳をする。



「……そっか。ま、早く授業へ戻るように」



 先生は一瞬疑問を抱いていたように見えたけれど、すぐに興味を無くしたみたいで黒板へと戻る。どうやら誤魔化せたみたい。



 しかし、



 いけないっ、消されてしまった。



 手紙のやり取りのうちに板書はかなり進んでいたようで、ノートに写しきれなかった。後で誰かに借りるか……。



 などと現状把握に勤しみつつも、僕は思索の海へと滑り込む。



 ……疑われているな。



 百合ハーレムを作るにあたって、仲が悪くてもいけないし浮気などという疑惑の念を持たれてもいけない。皆を僕にメロメロにさせるのはハーレムメンバーを整えてからと思っていたけれど、優先順位を変えないといけないようだ。



 咲姫を真っ先にオトさねば。

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