第16話「夏祭りと百合」
ドン、ドドドン、カカッカ。ドドンドン。
遠くでリズミカルに太鼓を叩く音が聞こえる。
熱帯夜ではない、微妙な温さの風が運んで来る音に耳を傾けつつ、目の前の道を眺める。
街灯だけで薄暗い夜だと言うのに、やけに女性と子供が多い。そして、至るところに咲く花と色鮮やかな群青。
やっぱり、濃い青色に明るい花の色は合うなぁ。
自分の脳内フォルダに保存すべく、バレないようにさりげなく行き交う人たちを眺めていると、近くでブーツを鳴らす足音が止まる。
「百合葉、浴衣じゃないのか……」
ここは待ち合わせ場所の大きな桜の木の下。声を掛けてきた黒髪ロングの長身美少女、蘭子ちゃんだった。
「それを言うなら蘭子もでしょ……。全く、僕らは色気が無いんだから……」
「まあそう言うな。シンプルな方が好きだし、百合葉の服装もそれで良いとは思う。ただ、浴衣も見てみたかっただけで」
「はいはい」
そんな蘭子の服装は、ゴツいベルトのジーンズに大きなVネックで鎖骨とシルバーのネックレスを見せつけ、七分丈のジャケットでまとめたクールなファッションだった。袖を軽くまくり現れる腕の筋肉の色気は、そうそう女子には出せるものじゃない。
でも、ジャケットの後ろ側が短く、くびれからお尻の美しいラインを出している当たりは、やっぱり美少女だ。日本人とは思えないプロポーションなのだ、彼女は。
「百合葉は半袖だが厚手のパーカーか。そんなキャップまで被って、中学生男子みたいだな」
「うるさいなぁ。いいんだよこれで。男か女か分かりにくくなって良いし」
これは、中二病時代から引きずる僕の好みでもあり、そして女らしさを極力出さない為のモノだ。丈の長いシャツはあえてインせず、ダボッと出す。でも、バランスを取るために、足下はライムグリーンのスキニーチノパン。これで、中性的な感じが出せていると思いたい。いや、野暮ったいのだろうか。
こう見えて、夜に出歩くのは少し怖いのだ。だから、出来るだけ夜は性別が分かりにくいようにしたい。
「だが、やっぱりレディースはレディースだ。この歳にもなってくると、胸とか腰回りの作りがよく現れてしまうものだからな」
「えっ、ほんと?」
蘭子の女らしさに気付いといて自分では気付かないだなんて、なんと間抜けなのだろう。もっと性別を隠せそうな服装を研究するか……。
そこにバッタバッタと駆ける足音が。聞き慣れたリズムで、誰だかすぐに分かる。
「ゆーちゃんおまた……なんで浴衣じゃないのぉーっ!」
「だから"おまた"を触ろうとするんじゃない!」
出会い頭でセクハラを受けそうになって、彼女の腕を取る。しかし、そこで冷静になって仄香を見ると、
「すごい……浴衣可愛いね仄香。頭のひまわりもよく似合ってるよ」
「まじぃ!? いやったぁー! ……って、そうじゃない! あたしにセクハラさせてよぉ!」
「無茶言うなっ!」
 




