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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第2部一章「百合葉と美少女たちの夏」
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第13話「コーヒーと百合」

「あっはぁ~っ!? やっぱり夏休みは青と緑! 自然オブファイヤーだぁ!」



「自然オブファイヤーって……?」



「ん……? そんなの勢いよっ! それに泥火山もあるらしいし! ドロドロファイヤー!」



「へ、へぇ……ドロドロファイヤー……」



 相変わらず仄香ちゃんは変なテンションの可愛い子であった。



 夏休みが始まって早々、僕らは旅行で阿寒湖に来ていた。マリモで有名なあの湖だ。冬には氷上フェスティバルやワカサギ釣り、砕氷クルーズなどもあるという。そんな時期にも来てみたいけれど、きっと寒くて来る気が起きないだろう。夏にさわやかな自然を浴びるくらいがちょうどいいのかもしれない。



 最近の猛暑はもう過ぎ去ってしまったのか、いやそうだと信じたいだけなんだけど、今日はほどほどな暑さだった。汗ばむには汗ばむ……でも、このくらいなら夏休みらしくて良い感じ。



 高速バスを降りた僕らは、仄香が喉が乾いたからと自販機の前へ。僕は高速バスの中で眠れなかったこのモヤモヤ頭を晴らすべく、色とりどりに並ぶジュースを眺める……ラインナップが微妙だなぁ。この内容で売れるのだろうかと思っていれば、可愛い咲姫がにこやかに可愛い表情で可愛くも僕の隣にトトトっと可愛く来たのが可愛い。彼女も喉が乾いたのだろうか。



「百合ちゃん、飲み物買うのぉ~?」



「うん。水は持ってきてるんだけど、眠気覚ましにコーヒー飲もうかなって」



「へぇ~そうなのぉ~。じゃあカバンを持っててあげるわねぇ~?」



「えっ、ありがとうっ。やっぱり咲姫は可愛くて気が利くなぁ」



「えへへぇ~。百合ちゃんの手荷物を手に持つ……てねぇ~っ」



「……」



 コーヒーガチャリンコ。咲姫の可愛さにニッコリ微笑んで、無言のまま落ちたブラックコーヒーを手に取る。それを言うのが狙いだったんだね咲姫ちゃん……。彼女は今日も絶好調だ。僕は何も言わずに微笑んで彼女の頭を撫でると、いつもの嬉しそうな顔ではなく、どこか企むようなしたり顔になって……。んんん? これはまだ何かあるな……?



「観光地で飲む缶コーちぃー……あっ、今の無し無しナシぃ~っ!」



 あぁ~! あああああぁあああー!!! かわいーーー!!! かわいー!! かわいぃ! かわい……! かわっ……か……。



 つい脳内の山頂で叫び、コダマを響かせてしまった。そのあまりにもの可愛さに悶絶してニヤケを我慢していると、それを面白がっていると勘違いしたのか、咲姫は失敗を悔しがりつつも、結果オーライと言わんばかりに軽く拳を握る。かわいい。



 ちなみに、観光地に缶コーヒーを掛けているのだから、缶こーちぃでも間違いじゃないんだよなぁ。



「ふふふっ、大事なところで噛んじゃったんだね。仕方がないなぁ咲姫は……。うっ……。このコーヒー美味しくない……期限ギリギリなのかな……」



 とにかく、僕は彼女を慰めるために、微妙な味わいのコーヒーを飲みながら咲姫の頭を撫でていたり。しかし、彼女はオチを噛んだのがそんなに悔しかったのか、唇を尖らせつつ呻くように一言。



「阿寒湖で飲む……アカンコーヒィ~」



「ぶっ……!」



「やぁ~んもうっ! 百合ちゃんったらぁ~。わたしのギャグが面白いからって噴かないでよぉ~」



「だって! 三連続なんてずるい……!」



「最初から笑いかけてたじゃなぁ~い! そうやって誤魔化すのは、怒りでカンカン、アカンコーチになっちゃうぞっ!」



「あっはっはっ! まさかの四連続! コーチッ! コーチってなにっ!? あははははっ!」



「だって、わたしはアナタのコーチをしてあげるんだから……ねっ?」



「あははっ! ……えっ」



 唐突に流れる不穏な風。怪しげな色気をまとった表情の咲姫がハンカチを手に、僕の顔へと近付く。



「だめねぇ、こんなに唇を汚して……。これはしっかりと、しっとりと……。指導して、あげないとねぇ」



「さ、咲姫……?」



 なんてことだ。突然タチタチレズの咲姫ちゃんが現れてしまった。ポカンと呆気に取られてしまった僕は彼女のなされるがままに、ハンカチで唇を拭われる。それも、人差し指の感触が伝わるように色っぽく。



 だが、そんな百合百合空間を壊す元気っ子が。



「へいへーい。そんな大笑いしてどうしたのー! あたしも笑わせとくれーよ! 咲姫ちゃんさんよー!」



「あら? ほのちゃんはいつも大笑いしてるから、笑わせる必要は無いんじゃないかしら?」



「ほほぉーう? あたしは笑わせてくれないと?」



 なんでか知らないけれど、バチバチ火花を飛ばし出す仄香と咲姫。しかし、その様子なんかお構いなしに、マイペースな譲羽が僕の手元をキラキラと見つめ空気をさらに壊す。



「百合葉ちゃん……ブラックコーヒー飲んでるノ……? 大人……だ!」



「うっわ! ホントだー! ブラックコーヒーなんてコジャレた物を飲んでるー! そこはホワイトコーヒーでしょ!?」



「ほ、ホワイト?」



 白いコーヒーってなんです? 仄香ちゃん。真っ白というのなら、どこかの飲料メーカーが開発してそうなものだけど。それに、ブラックコーヒーくらいでコジャレてるとは。ふ、普通だよ? 中学生の頃は背伸びして無理したものだけど。



「だってミルクたっぷりで甘くしてないとあたしが飲めないじゃん! ジャンジャンジャングルじゃんけんぽっ!」



「えっ……? うわっ!」



 そう言って突然じゃんけんを始める仄香。言われてつい、パーを出してしまうと、彼女はグーだった。



「うわぁ~。あたしが負けたからコーヒーになったー。せっかくならジュースにしたかったー」



「んなもん知らないよ……」



 どういうルールでじゃんけんしたのだろう。というか、彼女は大体グーを出す。僕は無意識でパーを出しやすい。めちゃくちゃ相性が悪いのでは無いだろうか。



「んー、しゃーないっ! 自分との約束だもん!」



「そのくらい好きにすればいいのに」



 そもそも負けたらコーヒーにするだなんて宣言してないんだからね。でも、そういう所に仄香の遊び心があるのだろう。



「やっぱ茶色いコーヒーよりも白いコーヒーだよねー……んんん? カフェオレにカフェラテ……どっちが白いコーヒーなんだっ……! ややこしいなっ!」



「ややこしい……まあややこしいよね。同じ自販機で並んでたら」



 確かに、僕だってどっちがどっちなのか判断つかない。なんなら、カフェモカ? とか言われた日には……う、うわぁー! って頭を押さえたくなる。カフェオレでカフェラテでカフェモカ。同じような文字ばかりでゲシュタルト崩壊が起きそうだ。カフェカフェカフェ……もう全部カフェインでいいんじゃないかな? えへへっ、カフェイン美味しいなぁ……。それは中毒者なのでは?



「カフェオレとカフェラテの違いは、そもそも、カフェオレはフランス語、カフェラテはイタリア語というところから始まる」



 そこに、いつもの説明屋さんである蘭子ちゃんが口を挟む。相変わらず博識だ。



「へぇー。違う国なのに似た言葉でめんどくさーい」



「それはそれぞれ土地が近く、それぞれがラテン語を元に言語が出来上がったからだろう」



「ラテン語……? あたしに勉強させようって気だね!? そういうおべんきょ時間は今はいらないんだよぉっ!」



「仄香が似てるって言ったんじゃないか……」



 ちょっと傷付いた様子の蘭子ちゃん。可愛いけどかわいそうだ。



「ごめんごめん! んで、違いは!?」



 流石の仄香もすぐにフォローする。いくら大人っぽい蘭子相手でも、傷付けられたら説明してくれないかもと思ったのだろう。自分勝手な子だけれど、そういう空気感は察知する……意外と馬鹿には出来ない子なのだ。いや、アホの子では間違いないけどね。



 蘭子も、そんな仄香の強い否定口調をジョークと捉え直したのか、コホンと調子を取り戻す。



「カフェオレとカフェラテの大きな違いはコーヒーにある。カフェオレはドリップコーヒーを使うが、カフェラテはエスプレッソコーヒーを使うんだ。そして何より、ミルクの量も違う。ここでまろやかさが大きく変わるな。カフェオレはコーヒーとミルクが半分ずつ、カフェラテはエスプレッソ2割、ミルク8割だから、仄香が言うホワイトコーヒーなら、カフェラテじゃないか?」



「なるほど! じゃあカフェラテ買おっ!」



「アタシはブラックデビュー……仄香ちゃん……乾杯」



「おおう! ゆずりんもコーヒー飲むのかぁ! 乾杯!」



 そうやって仄香と譲羽の二人は缶コーヒーと紙コップをぶつける……。あっ、あのブラックコーヒー美味しくないのに……。嫌な予感がする。もしかしたらこの自販機はハズレが多くて……それを二人同時に飲んでしまったら……。



「ぶぇっ!」



「うわまっず!」



 地面に噴き出した。どうやら外れを引いてしまったみたいだ。

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