第03話「通常活動と百合」
「そういえば、ジュラルミンってお茶なの? 似てるじゃん」
「それは金属だね……」
「ならジュリエットはっ!?」
「それはロミオだよっ!」
この語感だけで遊ぶのは、頭が良いのか悪いのかよくわからない……。多分、直感で生きているのだろうけど、それがときどき、頭の回転が良いのでは……? と思ってしまう。
彼女の名前は仄香。小柄でぱっちりとしたおめ目に、オレンジ色のショートカットが眩しい、我が美少女ハーレムの元気っ子ムードメーカーである。いつもお馬鹿な事を言っては、場を和ませてくれたり。
「超合金ジュラルミン……カッコイイ……」
「ジュラルミンなら、世界大戦中に発明されたものだな。ジュラルミンケースなど、日常的に使われているぞ?」
「ナント……!? オリハルコンとかミスリルの仲間かと思った、のに……」
「残念だったわねぇ」
お母さんかのように咲姫ちゃんが慰める相手は、中二病をこじらせた譲羽だ。自分の好きな話をするとき以外はもじもじとしていて可愛らしい妹属性。座敷わらしみたいな黒髪パッツンだけど、和風よりも白黒洋風ゴシック系の世界観を好んでいたりするみたい。ただ、その世界観はコロコロ変わる事も。
こんな風に、僕の美少女たちがのんびりと時間を過ごせるこの場所は、お茶を飲む茶道部でも日本語で戯れる文芸部でもない、実は美少女たちの日常を残す写真部だったり。これがうちの部の通常活動なのだ。しかし、話が一段落しつつある中、仄香と譲羽がグデッと机に潰れて宿題を解き始めたので、こっそりとスマホで撮影。写真部らしく……ねっ!
「あーっ。ゆーちゃん盗撮ぅー。いっけないんだー」
「我が姿を写真に収めようとは……そのスマホは悪魔の機械となり、生命力を吸い取る呪いを秘めるであろうゾ……」
音を消したつもりなのに、すぐバレてしまった。もっと、違和感無く撮影しないとなぁ。
「ごめんごめん。でも、二人の姿が姉妹みたいで面白くてさ」
言いながら僕は、撮影したデータを彼女らに見せる。
「これはこれは……あたしらが魂レベルで繋がって事がバレてしまうなぁー」
「時空を超えても繋がる永遠の友……。動作までも自然とシンクロしてしまうほどに、魂が共鳴……。仄香ちゃん、ヤッタネ」
「おういえっ! 心の友だぜ!」
なんて、彼女らは抱き合う。ちなみに、二人とも寮生で同じ部屋に住んでいるから、ノリや行動がシンクロするのも無理はない。しかし、尊い。ほのゆずは尊いのだ。
「う~ん、可愛い写真……だけどねぇ~? 百合ちゃん、わたしは撮らないのぉ~?」
そう言いながら、僕のスマホのカメラを自分に向ける咲姫。ぶりっ子らしく、可愛らしいポーズをすぐに決め込んでしまうあたりあざと可愛い。
「違うな。咲姫の作られた姿なんぞ、撮る必要は無い。せっかく撮るのなら、私の自然と滲み出る美しさを撮ると良い」
今度は蘭子が僕のスマホを自分の方へと向ける。なんなんだこのナルシスト二人は。その痛々しさが可愛すぎるんですけれど?
「あらぁ? 黒くて重たい大女なんて、写真映えが悪いんじゃないかしら?」
「髪型だのポーズだの、小手先ばかりの技に頼らざるを得ない咲姫なんかよりも、シンプルな美しさを身にまとう私の方がぴったりではないか」
「なによぉ~」
「むむ」
鼻が付きそうなくらい近付いて向き合う二人。いつもの事だが、喧嘩勃発寸前である。でも、そこでパシャリと写真を撮ってみる。
「百合ちゃん? 今は撮る必要合ったのかしら……」
「そうだぞ。美しい私の隣に、こんな鬼の形相が並んでしまった」
「いやいや。喧嘩する二人もすごい可愛くてさ。どっちも美人だから、怒っていても綺麗なんだ」
「ううぅ~。そう言われちゃあ……」
「何も言い返せないな……」
頬をぽりぽり掻いたりして、恥ずかしそうに唇を結ぶ二人。こういう姿も拝めるから、喧嘩百合も悪くないなと思ってしまう。咲蘭、尊いっ!




