第21話「勧誘」
「なんだ? また君たちか」
一瞬戸惑うも、僕の背後で様子を伺う三人を見て、蘭子ちゃんは迷惑そうに言う。
「入ってくれれば楽しいと思うんだぁ。駄目かな?」
「お願い」と微笑みつつ、僕は両手を合わせ頼みでる。
「写真部の勧誘か。あいにく、そういうのは興味が無いな」
パタリと文庫本を閉じたと思えば、右手でつややかなロングヘアーを大きく払う彼女。うーん、悔しくも予想通り。
「そっかぁ。邪魔しちゃってごめんね」
「いや、大丈夫だ。すまんが他を当たってくれ」
おおっと、これは意外なセリフかも。根っこから冷酷なのかと冷や冷やしたけど、人当たりが悪いワケでは無いようだ。
そうして話は終わりと言わんばかりに彼女が本の世界へと戻ったので、僕もさっと振り返り元の位置へ。
「ほーらぁー。だから誘うことないのにー」
「仄香、本人に聞こえるからやめなよ?」
「ちぇー」
さも当然のようにする非難へ注意すると、彼女はふてくされてしまった。ただの食わず嫌いならぬ、話さず嫌いだと思うんだけど。
やっぱり諦めるべきかな? んなワケない。あんな個性派美少女ほかには居ない。ふと、振り向けば読書に夢中……と見せかけて、僕らの会話に耳をそばだてているみたいだし。そのページはタイトルページのままだよ? かっわいいなぁ~。
「まーしょーがないしっ。残り一人はそこら辺の名前埋めようぜぃっ!」
「いや普通に駄目だからねそれ」
「じゃあ架空の名前を書くやつだ!」
「犯罪くさっ!」
サラッと違法に手を出そうとする仄香ちゃん。怖いぞ?
「となるとぉ? 仲良い子に頼むしか無いわよねぇ~」
冷静に状況判断した咲姫はそう言うが……。
「咲姫、知り合いとかって他にいる?」
「えぇ……」
ピシャリと彼女の表情が固まる。あっ、やらかしたな。入学して僕が初めての友達だと言うんだから、この反応なら友達居ない確定だ。教科書忘れたとき、「なんで他のクラスの子に借りなかったの?」って先生に言われて辛い想いをするタイプの子だ……。同時に自分で自分の心を抉ってしまったよ……。
「ちなみに僕は居ないよ? 外部生だしねぇ」
「そ、そうよねぇ~! わたしもっ!」
すかさずフォローすれば咲姫も便乗し同ずる。これで意図せず付けた傷は浅く済むだろう。
しかし、これでは友達居ないであろうゆずりんに訊くことが難しくなってしまった……となると仄香が先かな?
「仄香は? 内部組なワケだけど、誰か居そう?」
ほぼ同じメンバーで中学部から上がってきているのだから、仲良い人の一人や二人、特に彼女なら居そうなものだけど。もしもの時のために"仲が良い人"という聞き方を避けてみる。
「うーん、厳しいかなぁー」
「へぇー、意外だね」
だが、ついうかっり本音が漏れてしまった。こちらも傷ついたりしなければいいが。
「いやぁー、仲良い子は居たけど……色々あってねー。あははっ」
面持ちに薄ら影を落とし、しかし彼女はなお明るく振る舞う。
「そっか。それじゃあ仕方ないよね」
そう、仕方がないこと。"色々"って言い方をした場合は十中八九、本人が触れられたくない話題なのだ。早く次の話題に振らなければ……。
と、思っていれば譲羽が、
「あたし……は、居ない、ケドっ。でも、みんな仲良くが良い……。この関係壊したくナイ……っ」
途切れ途切れにも、だが何よりも深く大きな想いをぶつける。
このタイミングで? 空気読みなよー……と思うわけないだろう。不器用な彼女が、彼女なりに想いを伝えてくれたのだ。むしろ嬉しくて涙が出そう。
そんな僕の感想と同じくしたのか、
「あぁーもうっ! ゆずりんはかわいいなーッ!」
「よく言ってくれたわぁ~! わたしも気持ち一緒よぉ~!」
などと、仄香と咲姫が譲羽に抱きつきムニムニしだす有り様。まあ、皆が百合百合異存ないようで良かった。
「そうだね。無理に入れてギクシャクさせたくないし。仲良くなれそうな人をゆっくり探せば良いさ」
言いつつも、僕は焦りを覚えていた。いや、焦りを表情に出さないよう平常心は保つのだけれど。
あまり長々と仲良いグループで収まってはいけない。安定し安心した関係が続けば、彼女らを恋にオトすのが難しく成りかねない。
ならば……。
「とりあえず名前埋めとこうよ」と、僕が申請用紙を皆の前に差し出し、それぞれ記名を促す。既に埋めてある部長の下に、咲姫、仄香、そして譲羽と名前を書いていく。
「部活が出来ても出来なくても僕らは仲良しグループさっ」
僕の再確認の言葉に三人は深く頷く。よし、ここの繋がりは強そうだ。
だが、そうしてるうちに僕は、心の目で蘭子をジッと見つめていた。
完璧な美少女百合ハーレムには是非とも彼女が欲しい。彼女でなくてはならない。気高き薔薇の君。圧倒的な美貌で独り身。あのトゲトゲとした性格……。
変わり者の美少女同士、そして、僕のターゲットとなった以上は、仲良くなってもらうのが一番なんだ。
僕の好みでしかない身勝手ではあるけれど、諦めるにもまだ早い。ならば、最善を尽くすしかないじゃないか。
 




