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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部三章「百合葉の美少女つなぎ」
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第XX話「君がいない未来」

「さ、咲姫……助けに来てくれたの……!?」



 僕が蘭子の愛を受け入れようとしたところで、部屋に入ってきた咲姫は、ニヤリと不敵な笑いを浮かべながら蘭子に対峙する。



「蘭ちゃん……百合ちゃんを返しなさぁい!」



「私たちの愛の巣へ邪魔に入るとは……。そんな物騒な物を持って何をするつもりだ? 百合葉を取り戻す為に私を殺すか?」



「……っ」



 蘭子の言葉には息を吸っただけで何も返さず、睨みつけたまま大きなハサミを持ってにじり寄る咲姫。二人対峙した、と思った矢先、蘭子の顔に向かって横一線に凶器が横切る。



「ふん。武術も何もやっていないのだろう? そんなもので何が出来る」



「――――ッ」



 焦ることなくけ、咲姫の手を強く払いのける蘭子。しかし、持っているのがハサミだからか、その手からすべり落ちることなどない。



 咲姫は少々痛がるも一度距離を取って、ちらと、部屋の机周りを見やる。



「あなたも、そこのナイフを持ちなさぁい? そっちの木刀でもいいわよ? とにかく、フェアじゃない」



「不意を突こうとして何がフェアだ。ふっ。姫様相手なら、丸腰まるごしでどうとでもなりそうだが」



 咲姫の様子を伺いつつ、蘭子は机の横に立ててあった木刀を手にする。武器を手に、再び対峙する両者。



「私は君を傷つけたくないんだ。殺傷力は落ちるが、リーチは長いからな?」



「構わないわ」



「駄目だ! 二人とも!」



 僕の叫びもむなしく、咲姫はハサミを突き出す。ハサミとて、万が一にも急所に刺さればただじゃあ済まないだろう。それを当然のようにけて、蘭子は両手で強く握った木刀を、咲姫の肩めがけ縦に振りかざす。しかし、



「百合ちゃんは誰にも渡さないんだから」



 それを読んでいたように、咲姫はハサミを開いて木刀を固定し挟む。



「な……っ、しまっ――」



 咲姫の後ろ手から現れたのは鋭い包丁。突き立てるように蘭子のみぞおちに刺さろうとしていた。



「やめてぇええええーっ!!!!」



 二人の間に立ち入る僕。反応が遅れた蘭子に体当たりし、僕は彼女の包丁を手に取って……。



――――――――



 君がいない未来なんて、考えたくないよ?



 だから、ずっとここに居ようね。



 君は僕のモノだから。



――――――――



 ピンポーンと鳴り響くインターホン。彼女一人暮らしの賃貸マンションだ。僕の身を心配した彼女が手紙で住所を教えてくれていたから、こうして、真っ先に会いに来たのである。アポイントメントは取っていないのだから、きっとビックリするだろうなぁ。



『どちら様ですか?』



 機械から伝わる彼女の声。低く落ち着いた声色は相変わらずのようで安心する。



「やあっ、蘭子。会いに来ちゃった」



「三年だと聞いていたが……早かったんだな」



「そうだよ。君に早く会いたいから、模範生になって頑張ったんだ」



 部屋のドアをくぐりつつ答えると、複雑な面もちの彼女。



「どうしたの? 蘭子。浮かない顔をして」



 僕は彼女のあごに手をやりくいと持ち上げて、唇を近づけて――。



「やめろ」



 手を払いのけられてしまった。突然のことで動揺してるのかな? 僕から攻めると不器用になるところも昔のままで、かわいい子だ。



「ふふっ。お久しぶりなスキンシップじゃないの。蘭子は恥ずかしがり屋さんだなぁ」



 だが、蘭子は予想に反して冷めた目のまま。



「それとも、あの事件で僕のこと、嫌いになっちゃった?」



 なお曇る彼女の表情。そりゃあそうだ。あの事件がきっかけで、楽しかった日々が瓦解がかいしてしまったのだから。きっかけは蘭子だとしても、僕の罪は、取り返しようもないほどに大きい。



「今さら許して欲しいとは言わないし、事件の引き金を引いた蘭子を許すとも言わない。でもさ。いつまでも過去を引きずってないで、僕らは前を見なくちゃいけないんだ」



「もう、その話はいい」



 素っ気なく返される。やはり、あの事件は彼女にとってもトラウマのようなものなのだろうか。だけれども……。



「でもさ、僕、本当に頑張ったんだよ? あの日々を取り戻したくてさ。蘭子といちからでもやり直したくて」



「過去を引きずっているのは誰の話だ? 君がどんなに頑張っても、彼女は……戻って来ないんだ」



 そのとき、記憶を何も掘り起こせなかった。戻って来ない?



「彼女? 僕はこうして戻ってきたでしょ? もしかして、僕と会えた嬉しさのあまり、まだ現実を直視できないの?」



 混乱しつつも僕はキザなセリフを吐いてみせる。大丈夫、いつもの僕だ。



「いい加減、ごっこ遊びはやめろ」



 しかし、返ってくるのは拒絶。



「えっ……? ごっこなんかじゃないよ? 僕は本当に蘭子と恋人になりたいくて……」



「現実と向き合うのは君の方じゃないか」



 なんだそれ。僕は僕が見えている。現実の僕と向き合っている。なのに、なんでこんなにも頭が真っ白になるのか。



「だってこれは現実で、実際に僕はこうして蘭子と話していて……」



「自分でも、何をしているのか分かっているんだろう」



 頭の中で警鐘が鳴り響く。



「違う。僕は君に会うために生きていて……っ」



「君が何者なのか」



 高鳴る心臓。押しつぶされそうな予感。



「違う。僕は……!」



「なあ……」



「違うッ!」



 言わないで言わないで言わないで!



「"咲姫"」



「さ、き……?」



 その名前を聞いたとき、僕の世界がぐしゃりと酷くゆがんだ。



「な、なに言ってるの? 僕は百合葉だよ」



 震える声。そうだ、咲姫なんて知らない。僕は僕の大好きな百合葉だ。



背丈せたけもいっしょ。癖っ毛もいっしょ。中性的な口調も女の子好きな性格もいっしょ……。ほら、僕は百合葉だ」



 懸命に僕の特徴を思い描き、口にする。どう見たって、今の僕そのものじゃないか。



「それは、君が描いている記憶の百合葉であって、ホンモノの百合葉じゃない」



「ほらほら、いつもみたいにさ。僕にセクハラしてごらんよ。嫌だけど楽しくてさ。何やってんの変態って言ってさ……」



「その"いつも"を共に過ごしたのは、今の君じゃない。君が、あの日……殺した百合葉だ」



「ウソよっ! 殺したなんてウソ。僕が百合葉じゃないなんてウソ。全部全部全部ウソなんだ! ウソに決まってるっ!」



「嘘じゃない。真実だ」



 感情無く告げる蘭子。そうだ、こんな大事なことを無表情のまま言うわけがない。彼女は僕をまた監禁するために騙そうとしてるんだっ。



「僕の大好きな百合ちゃんは、帰ってきた……。ここでこうして……生きてるんだよ! 何よりの証明じゃない……っ!」



「百合葉はもう死んだ。生きてなんかいないんだ」



「違うよ? 死んじゃったのは咲姫の方さ。あははっ。わがままで、自分勝手で、ナルシストで……。自分がお姫様とか、ばっかみたい! そんな挙げ句、自分が持ってきた包丁で死んじゃったぁ。バカだから死んじゃったのよ!」



「目を覚ませっ!」



 水気のある破裂音。そのとき、頬を叩かれたことと、そして、顔が濡れていることに気が付いた。



「いたぁい……あれぇ。なんで、こんなに涙が出てるのぉ? 痛いからだよね? なんにも悲しくない。僕は百合葉だ。僕はなんにも間違ってなんかいない。百合ちゃんは生きてる……」



「君がどんな姿を理想にしようと構わない……。百合葉が愛した君を、私は嫌ったりはしない……。だから、彼女の名前だけは名乗らないでくれ」



 抱きしめられる感触。耳元でグスッと鼻をすする彼女。なんであなたも泣いているの? せっかくあなたの大好きな僕が帰ってきたのに。嬉し泣きだよね?



 百合ちゃんはここにいるよ?




――――DEAD END――――

架空のデッドエンドルートでした。


物語終盤ですが、生存ルートで続きます。


百合葉ちゃんを失ってこそ映えるその愛……描きたかったんですよね……。

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