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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部三章「百合葉の美少女つなぎ」
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第35話「君と私を結ぶ首輪」

 蘭子に口説かれ、僕はふらっとベッドに倒れ込んでしまった。いや、ズキュンと打たれた訳じゃ無いのだから、そのような事はあるもんか……。上体を支えられなくなったその時に初めて、暴走した身体の異変に気付く。暑く熱い……。下腹部の奥深くに切なさを感じ、妙に汗が止まらない。なんなんだこの感覚は……。



「効いてきたか。準備をするとしよう。しっかりと責任を取ってあげる」



「くぅッ!」



 ベッドに大きく身を乗り出した彼女が、指の背で僕の頬を愛おしそうになぞり始める。薄桃色の短く綺麗に整えられた爪が滑らかで程良い刺激となり、むず痒さに耐え切れずつい声を漏らしてしまった。



「そんなに強張らないで、肩の力を抜いて。余計な事は考えずに、リラックスしていれば良いんだ。かつてない多幸感が舞い降り、優しく繭の様に包まれて、やがて綺麗な蝶へと羽化するだろうさ。そして性が凝り固まった君を昇華させ、桃源郷と見せてやる」



 決め顔で言いつつ、一度立ち上がり僕の隣に横になる。蘭子は上半身だけ少し起こすと、彼女の右手で、頬から首の裏までゆっくりと這っていき、触れるか触れないかという柔らかさで、うなじをクルクルと弄りだす。産毛が絶妙な擽ったさを皮膚に伝え、ゾクゾクとした快感へと変えられる。どんなに声を抑えても、息だけは止めどなく溢れ出てしまう。



「くふっ……う、うぅっ…………んはぁッ!」



「どうだい、こんな気持ち良さは初めてだろう? この快感は君を愛するが故の愛しさから生み出されているんだよ。愛の快楽に溺れるというのも悪くはあるまい? 今から君の隅々まで愛でてあげるさ……」



 言いながら、蘭子の顔が徐々に視界を覆い塞いでくる。僕の目に彼女の艶やかな唇が大きく映ったかと思うと……。



「少し高めで筋の通った鼻」



 小鼻から鼻先に掛けて指が這い、鼻の頭に唇が触れる。



「薄いのにぷっくりとした唇」



 下唇を親指で横になぞり、舌でそっと舐める。



「頬から顎にかけての中性的なフェイスライン」



 掌が頬骨から顎先に掛けて滑り落ち、逆側の頬に口付ける。



「そして、微笑んで余計に細くなる魅力的な目元」



 目元に人差し指がそっと触れ、瞼の上にキスをする。



 やがて、唇が薄い皮膚を柔らかくみだすと、どういう訳かそんな部位にまでピリッと電流が走り抜けた。薬の所為で全身性感帯にでも変えられてしまったのだろうか。そのような凌辱りょうじょくをするには都合の良い事……。けがらわしく気持ち悪い、男の妄想に塗れた展開ではないか――とも微《》かすかに思ったけれど、彼女を前にして唯々(ただただ)、気持ち良いというだけの感想で上書きしてしまう。



「ははは、これではキスの雨だな。……何故こんな事をするのか疑問に思っているんだろう? 実は、私にも解らないんだ。本能の、すがまま、るがままってヤツだろう。君が目の前に居ると、考えるよりも先に身体が動いてな。刹那的衝動に身を駆られるだなんて、どれ程までに心を奪わてしまったのだろうね。本当に君は、私にとって如何様いかようにもかえがたい不思議な存在だよ」



 一度、呼吸を整える為か距離を取った彼女が、深く考えるように視点の先を僕から外し、そのまま再度口を開く。



「君は……周囲に居る魅力的な女の子達の中にあっても、特別な異彩を放っていた。それは谷間に咲く姫百合の様に……。見た目はそれほど華やかでも無いのにさ。脳をむしば蠱惑的こわくてきかおりが私の心を奪い去ったんだよ。しかも、誘い焦らす様に近づいては離れ、再び寄って来ては避けて……。全く随分と、此の私をたぶらかし惑わせてくれたな……。これは仕返しだ」



 彼女の空いた左手が頬を包み込む。再び、何度か瞼と額に口付けをされる中で度々、チロッと舌が触れられる感触が、どうも癖になりそうだ。やがて唇が徐々に離れるも、切ない様な心の侘びしい想いにさせられ、もう終わりだろうかと彼女の唇に釘付けとなる。



「おお、段々と物欲しそうな目に変わっていく。五分咲きといったところだろうか? 性欲が汚いと思って今の自分に疑問を持ってしまうかもしれないが、大丈夫。純粋に愛を求めている証拠さ。君は淫乱なんかじゃあ無い。愛に貪欲になるのは何も悪い事では無いんだ。私を本能のままに求めると良い」



「もと……めない。求めてない……っ!」



「今まで否定してきた欲望に飲み込まれそうだから、強情にそう思いたいだけなのだろう。しかし、身体はどうかな? 早く天国への階段を登りたくてうずついているのじゃあ無いか?」



 蘭子は囁きながら、僕の太腿から脇腹に掛けてを撫でる。



「んぐっ……!」



「ほら、完全に女として飢えている。解るぞ? その快感が。その欲望が、君への想いがあって、私はやっと女として目覚める事が出来たのだからな」



 口にしながら、蘭子の撫でていた手が、ソローッとなぞりながら僕のお腹まで移動し、手のひらで擦りだす。



「しかし、この快楽が有ろうと無かろうと、私は君から離れない。百合葉を満足させ続けて、私が君にとって一番の女になる。だから、君は私一番の女になれ」



 止めどない動作に加えて僕を口説き掛けるものだから、蘭子が飛び切りかっこ良く見え、彼女の子を産みたい――なんて考えが一瞬頭をよぎってしまった。



 そんな僕の返答は一切待たず、視界のほとんどを奪っていた蘭子の顔が、頭頂部だけを残し左下の隅に消えてゆく。撫で回し続けているうなじはそのままで、今度は首の側面にキスを、またしても唇で遊び食むように優しく触れる。



「いや……。君がどう拒もうと、最高の女にする。私のモノする……。其の願掛けの『おまじない』として、私を狂わせた罪な首筋に、噛み付いてやる……ッ」



「はひっ……!」



 優しく触れる――それだけかと思いきや、彼女が甘く噛み付いて皮膚を大きく吸い始めた。途中で息を吐き、舌で舐めり周り、再び吸引するという繰り返し。



 あふっと僕が吐息を漏らし、首筋がジンジンと熱を帯びた辺りで彼女は止め、蘭子は僕と再び視線を交わす。



「何、すんの……。痕なんか付けないでよ……」



「私のモノだっていう証さ。キスマークなど、なんと破廉恥で下品なのだろうと思っていた時期もあったが……。こう、目の前にして見ると、私の痕を残せたという事実だけでも凄く嬉しいよ」



「僕は誰の物でも無い……」



「そんなに蕩けそうな顔で言われても全く説得力が無いな。君は今、私の元へ墜ちようとしているのに……。君のせいを芽吹かせるにはもう少し熱を与えないとなぁ――――」



 言い終わると同時に、彼女は首の後ろに回していた腕で僕に頭を抱え込む。そして手のひらで僕の右耳を塞ぎだすと、左耳の穴目掛けて熱い吐息を吹き掛ける。



「んああぁッ!」



「ふふっ。可愛らし過ぎて目眩がするよ、百合葉」



 今の喘ぎは自分が発したのだろうか。かつて無い甲高い声を出してしまった。片耳が抑えられている所為か、シンプルな褒め言葉さえもが今の僕の脳内で強く反響する。あまりにも優しく甘美な誘惑に、もはや口説き落とされる寸前だ。



「普段からは想像できない程に乙女だぞ? 今の君は。そんな目覚ましい変貌ぶりがギャップと相まって、悶々と色欲をソソらせてくれるね。さあ、私だけの華になれ。そして綺麗に開花するんだ」



 彼女が指を首の後ろ側からゆっくりと、第二ボタンまで開かれたブラウスの隙間に滑らせ、僕の鎖骨の左右になぞりながら食い込ませてゆく。



「この辺の肉付きがちょっと足りなくて、骨が良く浮き出ているのが絶妙に堪らないなぁ。仄香は下着ばかり覗き見ていたようだが、私は日頃から君の隅々まで見ていたのだぞ?」



「もう……やめて……」



「ほう、『やめて』と来た。『おねだり』の仕方が違うんじゃないか? 縛られているのは手首だけなのに、全然抵抗しないようでは、『もっと欲しい』というのが本音だろう?」



「こんなの普通じゃない……」



 散々、同性の女の子たちを惑わせておいて、どの口が言うのだろうか。建前と誤魔化しと嘘とが脳内でごちゃごちゃと混濁こんだくし、性的少数派である僕が放つ言葉としては確実に矛盾をはらんでしまう、ただの拒絶を口走る。



「普通? 普通……か。同性愛者である君が常識に囚われている事はまさか有り得無いだろうが、言わせてくれ。愛情表現がどんなに性的倒錯なアブノーマルであったとして、否定する根拠は何処にも無いと思うんだ。確かに私が今、薬に監禁――と、このような罪を犯している以上は、どんな理屈を持ってしても、肯定する事はまず不可能だがな。それは倫理的な問題であるだろうし、身勝手とも映るだろう。しかし、愛の自由が縛られる――というのはどうにも許せないんだ。神の聖書も国の法律をもしのぎゆける愛こそが本物で、掛け替えの無い美しさを秘めていると信じたいんだよ」



 感度全開となった身体を何とか抑え込み、蘭子の持論を静かに聴く。その見解では、世の性犯罪を擁護する勢いではあるものの、説く様に言い放たれた独特の恋愛観に、僕と近しい真意の色を感じ、異議を申し立てようとはさっぱり思わなかった。



「人種も身分も国籍も、宗教も血縁も性別でも、どれが壁となり立ちはだかってもさ……。そういう障害を乗り越えた『愛』ってのは、本当に素敵だと思わないか? たかだか同性で在ることなんて、好きになってしまったのならば、本当の意味では何も障害なんて在りやしないし、自分の気持ちを偽って臆する事も馬鹿馬鹿しい。人間の遺伝メカニズムに反するとか、子孫繁栄の為とか言って、愛を制限すること自体が可笑おかしな事だ」



 彼女の独白は自己正当化の為の詭弁きべんとも捉えられそうだ――という反論も無い訳ではない。でも、数多あまたの批難をその身に受けようとも、立ち揺らぐ不安を微塵にも感じさせない程の、同性愛の美学を真剣に語るその姿が、蘭子をより一層魅力的に輝かせていた。



「狂っているか? 誰にそう思われようとも構わないさ。君を好いて居られるだけでも私は幸せだよ。君は普通じゃないと言ったが、性別関係無しに好きな人に触れたいと思うのは、純粋で綺麗な感情じゃないか。家族愛や友情も確かにそうだが、特に同性愛はなんて素晴らしいのだろうね。女同士であれば、女神に祝福されるが如く、華々しくて美しいともさ。それは動物的かつ合理的な人間の本能に背く、霊的で精神的な愛だと常々思うぞ。もし、それを人類の創造主が否定するのであれば、私は神に背いてでも君を愛すると誓うよ」



 彼女は一度口を止めると、僕の顔を真正面に捉え、熱を込めた眼差しで、僕の瞳をじっと見つめる。



 最後まで変わりなく滔々と言い切られるも、その決意はもはやプロポーズである。どこまで僕のハートを掴めば気が済むのだ。崩落寸前の自我を保てなくなるじゃないか。



「ああ、これだけ熱弁を振るってしまったが、そもそも私はね、同性愛に最上の魅力を感じてはいたものの、特に女性を好きになろうとは思っていなかった。男を毛嫌いはしても、実は同性に拘るレズビアンじゃあ無いんだよ。好きになった子がたまたま女の子だっただけ。君に集まる花々さえも愛おしく思えただけ……」



 それを立派なレズビアンと言うのではないだろうか――という疑問もすぐに雲散霧消した。狂った五感を抑えていた頭が重たくフワフワし、風邪の様に身体が言う事を聞かない。はあはあと息づかいも荒くなる。酷い耳鳴りで蘭子の声も聞き取り難く、やけにうるさい鼓動が身体の至る所で脈打つ。



「済まない。しばらくおあずけしてしまったね。身体が疼いて辛かろう。今夜は君をメロディアスに奏でてあげるから。我慢しないで、その愛らしい小鳥のさえずりを聴かせておくれ」



「あふぅ……」



 彼女の手が僕の頬に触れ、親指で下唇を弄りだす。ボンヤリとした頭が口付けを求め、自然と彼女を見る目がトローッと甘え出すのが分かる。



「官能的でとっても良い顔だ。私の人生全てが、君とのこの瞬間で埋め尽くされたなら……夢の様だな。君の為だけにずうっと勉強して準備してきたんだ。何度もシミュレーションだってした。もう逃がさないよ?」



 抱き止め捕える様に、僕の下に手を差し込み、その右腕で僕の頭を優しく包む。あやされる様に撫でられているだけであるのに、こんなにも心がキュンとするものなのだろうか……。跳ねるようなトキメキが溢れ出し、もっと触れて欲しくて堪らない。



「んふっ……はうっ、あ…………」



「色付いた君の声……。イイね、い。凄くい。あと一歩だ。天国までの道のりも残り僅かだ」



 顔をうずめつつも、僕の左耳に吐息が掛かるような近さで色っぽく囁く蘭子。下半身から溢れる切なさに耐え切れない脚がムズムズし、太腿の内側を両脚で擦り合わせてしまう。荒い息の裏に隠れ時折ときおり、クチュッと音がするのを僕は気にしてなどいなかった。



「おやっ? そんなに足を動かしてどうしたのかな? 何処どこうずくの? 何処を……責めて欲しいの?」



「ひゃっ……!」



 蘭子の長い腕が膝から太腿を伝い、スカートの中まで這ってくる。あと一歩という恥部の直前で、ソローッとなぞっていた彼女の指が止まり、パンツの上からトントンと叩く。



「欲しくて欲しくて堪らないのだろう? 『柳は緑、花は紅』でね。その渇望は至極当然で、ありのままが美しく自然な欲求なんだ……。君がもっと自分の欲望をあらわにするまで、女としての本性を顕わにするまで――此処ここは、おあずけだ」



 ああ、自分の手を伸ばしたい。自ら股を弄びたい。腕の自由が縛られていなければ、理性は既に決壊している事だろう。



「ほら、君が綺麗と言ってくれた指だぞ? 君が褒めてくれたから……指先までもっと綺麗になるよう、ケアしたんだ。爪先も短く整えてさ。それで君を慰められるだなんて、素敵な話じゃないか」



 そんな過去を愛おしそうに語りつつ、彼女が指に糸を引かせ「ほらほら」と言いながら続ける。



「泉から零れる姫の涙で、下着越しにもこんなに濡らして、愛に飢えているんだからさぁ。言いなよ、私が欲しいって。認めなよ、私の愛でイかせ欲しいって。変なプライドは捨てるんだ。潔癖症で理屈っぽい拘りは捨てるんだ。欲しいのは――『蘭子』――と一言、君が口に出来たのならば、直ぐにでも君の脳をショートさせて、治してあげる……」



 そして言葉を区切ると共にその指は、僕にイヤらしく見せつけてから舐め取られた。



「いや……だ……」



 認めない。認めたくない。僕の中を駆け巡る電流。全身の皮膚が敏感に刺激を求める感覚。子宮の疼き。そんなものはありやしない。僕に性欲なんてありやしない。股が濡れてなんかもいない。汚れたくない。穢れたくない。それなのに――――。



「私に何をされても良いって言いなよ。私に身を委ねる――ただそれだけさ。女の子が可愛くなる為には、エッチになるのが一番なんだ。君は自分の事を可愛く無いって思っているみたいだが、今の君は魅力的でとっても――可愛いぞ?」



 官能の甘美な誘惑が手招き囁いてくる。言い終わると蘭子は、ベッド袖からアイマスクを手に取り、僕の目に掛けてきた。視界が塞がれ何も見えなくなる。やがて、右耳にも耳栓を着けられる。



「な、なにこれ……」



 思いがけない彼女の行動に戸惑っていると、蘭子が全身で乗り掛かりだした。再び背中に腕を回され、彼女は僕の頭を――腰を撫で始める。



「ほら、私の声が気持ち良いだろう? 私の声を脳内で響かせるんだ。頭を真っ白にしてさ……。何も見えないよねぇ。だから聴覚と触覚で感じるしかない。リラックスして。頭は空っぽ。何もしたくない。何も考えたくない。私の言う事を聞いていれば良い」



 不安を打ち消す優しい声音が耳から入る。視覚が失われ、研ぎ澄まされた聴覚が余計、脳の中に爽快感と安堵感を広げてゆく。音が聞こえるのは片耳だけ。吐息と鼓動以外の雑音を除き、頭の中を反響した彼女の声で覆い尽くす。……僕は一体何を拒んでいたんだっけ?



「可愛い可愛い私の百合葉。君以外じゃあ駄目なんだ。百合葉、君が大好きなんだ。君の全てが大好きだ……。私はずっと傍に居るぞ? この世の誰よりも幸せにする……。君を永遠に愛してる。嗚呼、百合葉……愛してる」



 耳元から囁かれ響く心地良いアルトボイス――甘く耳障りの良い告白が束となって考える事を止めに掛かる……。嬉しい。ずっと囁いて居て欲しい。彼女の言葉が僕の脳を全て溶かしてゆく……。思考が全て白くなる。全てが、何も…………。



「頭が重たいだろう? 心からポカポカして、だんだん何も考えられなくなってきた。その感覚を充分に味わうんだ。私の愛に包まれていればいい。君は何も考えなくていい。考える事なんて何も無い。……さあ、正直に答えるんだ。君を抱き締めている私は誰だい?」



「…………蘭子」



 何が始まるのか。何も考えられず、正直に答える。



「そうだ。君の好きな、大好きな蘭子だぞ? そんな私が君を抱き締めているんだ。蘭子の温もりを全身で感じられるだなんて、これは嬉しい事だよねぇ。身体の芯からゾクゾクと、快感が爆発しそうだろう。静かに胸が高鳴って、切ない想いに駆られるだろう。でも何かが足りないね。愛の言葉が足りないのかな? 蘭子は君を『愛してる』。さあ、君が愛しているのは誰だい?」



「……蘭子」



「そうだ。君は蘭子を愛している。百合葉は蘭子の愛が欲しい。蘭子も百合葉を愛している。そして愛し合う二人が裸で愛を確かめる事は、とっても素敵な事なんだ。邪魔な衣服を脱ぎ捨てて、蘭子を肌で感じたい。君は蘭子を求めている。さあて、君が欲しいのは誰だい?」



「蘭子」



「ふふふ。君の、その言葉を聴けただけで私は天に召されそうだよ。さあこれからゆっくりと、狂い咲く様に壊れてみようか……」



 蘭子が欲しい蘭子が欲しい蘭子が欲しい――その感情に埋め尽くされていた僕は、流される様に短い返答をなす。暫くして大変な事を口にしたと気付いた時には、蘭子が僕の鎖骨を舌先で舐めていた。



「はひっ!? や……、めっ!」



「百合葉の鎖骨……顎の裏……首筋……」



 頭を撫でていた手の爪先がうなじをそっと伝う。顎の裏から首筋を辿って、うなじをまさぐる指の側まで舌が這う。何処を責めてくるか分からない分、敏感に張り巡らされた神経が余計に快感を伝える。



「うなじ……耳……!」



「い、やぁっ……んッ!」



 耳朶を舌で弄びつつ、耳を唇で食む。



「うゃっ! ん、あぅっ!」



「やはり、君は耳が一番弱いんだねぇ……。耳を責めるだけで絶頂出来そうじゃないか。今度、媚薬無しの時にはどうなるのか、みんなの前で試してみるかな……」



 舌で責める事を止めた蘭子は、耳を優しく摘まみながら言う。



「ひっ、……うう。っはぁ……。それは、勘弁……してよね…………」



「他の娘達も君の事が大好きなのだから、受け入れてくれるんじゃないか? 羞恥に晒された君も見てみたいのだがなぁ」



「僕を独り占め、したいんじゃあ無いの……?」



「そういうプレイは、私一人では叶わないからな。確かに君は完全に私のモノになっては貰う。しかし、他人に――複数人に触れられ、君が新たな快楽で別の咲き方が出来るという事を味わって貰えないってのは、自分でも許せないのさ。其の開花した姿も愉しみであるし。まあ心は完全に私色で染めてあげるが」



 染まりそうな自分に嫌気が差す。何度も喘ぎ声を上げながら今は冷静振ってはいるが、こうしている間にも、脳内が蘭子の事で埋め尽くされそうなのだ。



「それも、もうじき叶う。心はまだまだ調教が必要だが、君の身体は私を求めている。そうだろう?」



「調教だなんて……ドSじゃない……?」



「そう偏見を持つな。サディスティックの本質はな、相手が一人では味わえない快楽を得られる様に、本性を顕わに出来る様に、ひたすらに尽くしてあげる事なんだ。友人だろうが恋人だろうが、愛無きドエスはタダのゴミ。嗜虐心と征服心と、そして自尊心を満たしたいだけのエゴの塊。愛が無いと、サディストにはれないんだよ。だからこそ、私は君の反応を伺いながら、絶妙なバランスで責める必要がある。そりゃあ、君の快楽に溺れた可愛い顔を見たいのも本音だ。しかしそれよりも、君がプライドで蓋をしてしまった心身の欲望を抉じ開けて、君に最高の悦びを届けるのが、私一番の悦びさ」



「媚薬に頼った癖に……っ」



「だからどうした? そんな物はキッカケに過ぎない。私の味を――女としての快楽に目覚める悦びを知って貰えれば、意識しなくとも身体が疼く様に成るじゃないか」



「んぁ、っくぅッ……!」



 言葉の証明をする様に、耳の内側を彼女が舌で不意打ちする。



「この夜が明けて日が経てば、君は絶対に私を欲する。他の事じゃあ、他の人じゃあ、君の心は満たされない。その欲求不満を私にぶつける様になる。それだけの自信がある」



「あっ……」



 僕を撫でていた腕が、彼女の感触が突如として消え去った。寂しい。心が押し潰されそう……。思考の隅々まで『早く来て』――という焦燥感に駆られる。



「蘭子……。蘭子…………?」



何も返って来ない。冷静さが一気に失われる。早く、蘭子に……蘭子に触れたい。触れられたい。何を考えるでも無く、蘭子を求めてしまう。



「ねえ、蘭子? 蘭子……? 蘭子…………!?」



 完全にパニックになり、手元を必死に引っ張り上げる。ベッドが「ギィッ」と僅かに軋む音が鳴る。



「ほら、上出来じゃないか」



 足元から声が聞こえたかと思うと、蘭子は恥部を敢えて避けながら指で太腿を這わせ、舌全体で広く舐め回す。



「ひぃ! あぁあ、やぁっだ……ふぁっ……も、っとぉ!」



「聞こえないぞ? 大きな声でハッキリ言うんだ」



「んぁあっ。もぉ……っとぉ! もっと、触れ……てっ!」



「はははっ、合格だ。でも、まだ責めてあげない」



「ああああ蘭子ぉ……。来てよぉ、早くぅ……」



「嗚呼、なんとも素晴らしい。ようやくもって、乙女な百合葉のお出ましだ」



 触れていた蘭子が再び離れる。両脚をバタつかせ、蘭子の感触を探してしまう。不安定に緩んでいた心の内側から、たがが完全に外れていた。



「や、蘭子……待って、離れないで……。僕を独りにしないで…………」



「大丈夫。君に寂しい想いはさせないよ。もっと甘えさせてあげるから」



「甘えたいよ……早く蘭子に触れたいのに……。僕を置いてどこに行くの……?」



「ちょっと、君との絆を表すのにい物があってね」



「いいモノ……?」



「お互いが初夜を迎える誓いの日だからな。君にとっておきのプレゼント――――」



 彼女が言い終えると、僕の首周りに沿って硬く冷たい感触が。やがて、「カチャッ」と音がした。



「君と私とを結ぶ首輪さ。素敵だろう?」



「SMプレイなの…………?」



「リールなんて無いよ。私達の愛は、そんな俗物とは違う。君の首と私の首とが直接、運命の鎖で繋がっているんだ。この日の為に作って用意しておいた、百合葉と蘭子の特製首輪さ」



「お互いがずっと一緒って……こと?」



「そうだ。誰が邪魔しようとも、君と私の愛は裂かせない。現実的で無いと解ってはいるが、形だけでも――と思ってな……。君を一生離さないから……」



「僕を……こんなにも…………」



「今宵は素敵な夜だから……。お互い燃え尽き果てるまで、月光が映す影をも揺らし、愛のロンドを舞い続けよう」



 蘭子が言い終えると同時に、僕の手が布団の上にストンと落ちる。



手枷てかせは切った。今君は、ずっと隠していた本心を曝け出して、私にぶつけられる」



 僕は、痺れた腕を彷徨さまよわせながら、声の聞こえる方に蘭子の感触を探す。



「蘭子ぉ……? どこ?」



「私は此処に居るぞ?」



 目の前から蘭子の声。手に触れられ「ほら」と彼女が言うと、全身が安堵で満たされる。



そばにおいで」



「ああ、蘭子……。大好き……」



 僕は彼女の存在を確かめる様に大きく抱き着く。



「私も大好きだ、百合葉」



「ああもう、すごい……好き。蘭子が、大好きだから……。キスして? お願い……」



「焦らないで。まだまだ夜は長いからさ」



 そして、彼女はキスと共に、僕を押し倒す。



 唇が重なり舌と舌とが絡み合う。お互いに表も裏も舐め合って、柔らかくざらついた舌触りを、心ゆくまで堪能する。それぞれの唇を食み、舌を交互に出し入れする。そんな中、蘭子の腕に包まれる幸せだけでも、天国に行き着きそうになった。

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