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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部三章「百合葉の美少女つなぎ」
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第31話「蘭子の策略」

 時計代わりにしている携帯のディスプレイを見ると、時刻はもうすでに19時をとっくに過ぎていた。外は暗く、あまり遅くならないうちに帰りが遅くならないうちにとは思うけれど、蘭子を少しでも労ってやれればなぁと、僕は彼女の家に残っていた。



「ココアとコーヒーと、百合葉はどっちが良い」



「あー、ココアで」



「わかった、すぐに用意しよう」



 なんで茶色い物二択なの……。どうせなら紅茶とかも選びたかったけれど、人様が出してくれる物にケチはつけられないだろう。



 彼女の婚約を断るため……。帰ってきた蘭子の両親に対して先ほど恋人演技を終え、せっかくだから少し部屋でゆっくりしてもらいなさい――という彼女の父親の提案で、僕は蘭子の部屋に。



 普通よりもやや広い部屋。内装は彼女の性格をよく表しており、かなりシンプルというか質素である。クローゼットとタンスの他には大きな本棚が並んでおり、小難しそうな本が並んでるかと思ったら下の段にはライトノベル。別の棚には白と桃色が映える百合雑誌がズラリと異彩を放っており、ある意味、彼女らしさが感じられた。



 エッチな百合本も一緒に並んでるし……。



 その辺を気にしないところもまた彼女らしい。だが、この趣味も僕が原因なのだろうか。



「緊張で疲れたなぁ」



 薔薇の香りを微かに感じながら、彼女のベッドに横になる。彼女との間柄なら、潔癖症でない限り、勝手に寝ても失礼では無いだろう。昨日だって、彼女は遠慮せず僕のベッドに入っていったのだから、多分、気にしない性格だ。



 ……厳格な父親と大喧嘩するかと思いきや、恋人を一応確認しておきたい程度の空気しか感じなかった。確かにそんな、漫画みたいな展開なんてあるわけないよね……。意気込んで来たのがすごく恥ずかしい。むしろ、ご両親の方がぎこちないんじゃないかと思えたほどだった。まあ娘の恋人が女なのだから当然かな……。



「持ってきたぞ」



 ガチャリと扉が開き、片手のトレイにココアの入ったマグカップと何も入ってないグラス二つと、桃ジュースの紙パックを乗せて彼女が入ってきた。かなりバランスが悪いと思うのだけれど、随分器用なものだ。



「私が飲みたかったのと、君が冷たい物も飲みたくなるかもと思って余分に用意した」



「ああ、ありがとう」



 僕は喉が乾きやすいので大変助かる気遣いだった。ベッドを降り座布団に座る。



 彼女がテーブルの上にトレイを置くと、口角だけをニヤリとさせながら、僕に目を向ける。



「私のベッドに横になっているものだから、襲ってやろうかと思ったが」



「そんな事、無理矢理しないでしょ? ねっ?」



「ふふっ、それはそうだな」



 冗談混じりに彼女が微笑し、自分のグラスにジュースを注ぐ。彼女にはレズビアンだとカミングアウトされたし、告白まがいの事だって何度もされた。だがその都度はぐらかし、告白そのものには陥ってないため、いつものふざけ半分で言っているだろう。付き合ってもいないのに、衝動で行動するような子では無い。というか、ヘタレズだしね。



 マグカップに手を伸ばし、程良い温かさのココアを飲む。甘さも僕好み、飲みやす過ぎて一気に飲み干してしまった。それ程までに喉が渇いていたのだろう。糖分が脳に染み渡るようだ。



「今日は突然の頼み事に付き合ってもらって、本当にありがとう」



 淡白な表情が多い彼女の、初めての純粋な顔を見た気がした。ホッとしたように優しげで、頼まれた時に躊躇ちゅうちょしたのが申し訳なく思える。今日来た意味が今ここにあるのだろう。とても柔らかく、素敵な笑顔だ。



「……うちの両親はどちらも浮気していてね。お互いの隙を掻い潜って、それぞれが情熱的な愛を外で繰り広げていたんだ」



「えっ?」



 何の脈絡も無く突如として一人、語り始め出す彼女。珍しくも優しい表情がさっぱり変化しないままなので、その変わらない空気と一変した会話内容に僕は戸惑ってしまう。



「そんな両親の浮気現場を証拠としてしっかりと押さえてな。こっそりと裏で脅してあげたら、私の頼み事は何でも聞いてくれるようになったんだ。それ程までに、今の環境を壊したくはなかったんだろう。こんな何不自由の無い生活に、これ以上何を求めているんだろうとさえ思ったが……」



 そこで自分語りに一息つく。先程から変わらずの穏やかさで、とても両親の浮気話を打ち明ける雰囲気では無い。僕に聞いて欲しかったんだろうか。重たく受け取って欲しくないという彼女の想い? から、この空気が出来……上がっている?



「でも少し解ったかもしれない。平穏な生活の中、燃え上がるような愛が欲しいというその気持ちがな」



 どこかで携帯のバイブレーションが聞こえた気がする。そういえば着信通知があったような……でも、そんな事どうでも良いような……。



「……婚約の話は真っ赤な嘘でね。優しい君なら引き受けてくれると信じていたよ。君を私の部屋に迎え入れたかったのと、愛しい恋人を両親に見せてあげたくて……」



 じわじわと瞼が重くなるのがわかる……なんでだろう。ひどい睡魔が僕に襲い掛かる。



「さあて、そろそろおねむの時間だろう」



口を開けられない。眠たくてしょうがない。



「ゆっくりとおやすみ、私だけの百合葉」



そんな言葉が耳の奥で残響した。

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