第02話「白銀のプリンセス」
席に手を掛ける僕。隣には見目麗しい華乙女。ふと目が合う。
桜の花びらを添えたように華やかな頬と、同じ桃色なのにみずみずしく果実が弾けたような唇。ピンクブラウンがよく映える大きな瞳に整った顔立ち。そして何より、波打つ銀色が織りなすロングウェーブ。夜闇を彩る月さえも、彼女の輝きには勝てないんじゃないかと心を奪われていた。
「ごきげんよう?」
「おは……ごきげんよう」
また挨拶に詰まっちゃったよ……。妄想のし過ぎで現実に思考が追い付いていないのかもしれない。妄想過多注意かな。
「うふふっ、"ごきげんよう"なんて慣れないわよねぇ~」
「そうなんだよね。"おはよう"のが自然でいいと思う」
良かった、彼女のお陰でなんとか会話に巻き返せた。
「もしかして君も、ここの系列校とは違う出身なの?」
「そうなのぉ~っ。だから緊張しちゃってねぇ」
「えぇ~。君、お嬢様みたいだから元からここの出身なんだと思ったよー!」
「え……? そ、そうかなぁっ?」
途端に目をキラッキラと輝かせて表情のトーンが明るくなる彼女。なにこの子、可愛いんですけれどっ?
というか本当にお嬢様……どころがお姫様レベルの容姿だよなぁ。
見とれ無言になっていると、彼女は首を傾げる。
「どうかしたのぉ?」
「あっと、挨拶がまだだったよね。僕は、藤咲百合葉。隣の席だね」
急ぎ自己紹介に話を逸らす。
「……わたしは花園咲姫っていうの。咲姫とかさきさきとかって呼んでねぇ~」
「わかったよ咲姫。よろしく」
海外ドラマみたいな形式ばった言い方になっちゃったなぁ……。もう少し柔らかく対応したいもの。でも、コミュニケーションが苦手な僕としては及第点かな。
そんな僕がこれから百合ハーレムを目指すだなんてお笑いモノだけど、でも、夢として描いてしまったら、ひたすらに進むしかないんだ。
とりあえず、友好の第一歩と。咲姫ちゃんと挨拶の握手を交わす……なにこれ手すべっすべじゃん。綺麗で真っ白じゃん。手フェチには堪らないよ?
そのように手ばっかりに視線を送っていると咲姫は、「ふんふん」と小さく頷き僕を観察する。なんだろうか。
「ところで百合ちゃんは、自分のことを"僕"っていうのぉ~?」
え、そこ突っ込んじゃう? 一人称の指摘とかタブーじゃないの?
「ま、まあ昔からね。なんだか、"わたし"とか"あたし"って使いたくないんだ」
「へぇ~」
微笑みからニマニマに変わる咲姫。なんでニマニマすら可愛いんだ、神に愛されてるのかな……。
そしてやはり僕の見た目をチェックするように眺める。可愛い子の友達をやるにはそれなりの容姿が必要なのだろうか。
「いいわね……合格……」
ボソッと言った呟きに「えっ?」と僕が戸惑えば、彼女は手を振り「何でもないわよぉ」と視線を右上に逸らしてから、まぶたを伏せる。ちょっとした仕草すらかわいいくて、つい一つ一つ目で追ってしまう。
「っはぁ~、ここで初めて会話できたのぉ~。わたし、ここにお友だちいないから……百合ちゃん仲良くしてね?」
安堵の息を一つ吐き、穏やかに手を握り直す咲姫。なんだ、彼女もひとりぼっちだったのか。親近感が湧いてホッとする。
「もちろんだよ。咲姫かわいいし、願ったり叶ったりさ」
ちょっと待って。それじゃあ可愛いから仲良くするみたいじゃん。失言だなぁ。
「笑顔も素敵だから良い子みたいだし」
焦りつつも補足。でも、これもなんだか蛇足だなぁ……会話ド下手かっ!
しかし、咲姫は聞いていたのかいないのか、口をぽっかりと開け無表情。う~ん可愛い。
「咲姫……?」
「わたし、かわいい?」
「えっ? うん」
「素敵?」
「うん」
何を今更。しかし、みるみるうちに彼女の表情は破顔し――
「やぁ~ん! 咲姫ちゃん、かわいいって言われちゃったぁ~っ!」
頬に手を添えぴょんぴょん跳ねる。ハートを撒き散らすようにその場をくるくる回る。ただでさえ可愛いお顔は乙女全開甘々スマイルへと変貌したのだ。
「さ、咲姫っ! 大丈夫!?」
「うぇへへぇ~」
あっ、ダメだ。違う世界に行っちゃってる……。
"かわいい"くらいでここまでテンション上げられるものなのだろうか……。この子、男にコロッと騙されそうだなぁ……それならば、僕が守るしかないっ。脳内でグッと握り拳を作り、そう決断したのであった。
編集版2話目でーす! 庭には二羽にわとりがいまーっす!(謎テンション)
気付いてしまったんですけれど、第2部の話が置きっぱなしだと、第1部の最新話近くを読もうとした時に邪魔ですね……。
そのうち、削除をメインに投稿位置を変えたいと思います( ˘ω˘ )