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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部三章「百合葉の美少女つなぎ」
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第29話「宣戦布告」

 僕の部屋でセクハラ三昧だった蘭子が、落ち込んで帰ってしまった次の日。週の終わりの金曜日だ。みんなよりも遅れて教室に入ってみれば、なんだか落ち着かない美少女たち。



「何か変だけど、みんかどうしたの?」



「い、いやぁ……なんてゆーか……ねぇ?」



「ちょっと、気になることがあったというかぁ……」



 仄香と咲姫が苦笑いしながら言う。一方、蘭子だけ難しい顔をして黙っていた。これは怒ってるというよりも焦っている顔だ。焦点が目の前に絞られたまま、唇を何度もも甘がみしている。



 うーん、これは蘭子が原因? しかし、咲姫と仄香の視線の先には、胸を反らして自信満々にふんぞり返るゆずりんの姿が。可愛い。



「各国に、宣戦布告した。敵対するつもりは……ないケレド、意思の表明」



「へ、へぇ……。よく分からないけど頑張ってね」



 宣戦布告? それって敵対という意味じゃないの……? 多分、みんなとは喧嘩せずに僕にアタックすると言いたいのだろうけど……もしそうだったら一大事じゃないか……っ。落ち込んでなんかいられない。誰にも告白されないように、逃げ回る必要が……っ!



 逃げ回る? 僕はどうしてそんな事をする必要が?



 違う違う! 百合ハーレムを作るには、みんながそれぞれの気持ちを認め合った上で、受け入れた上で、全員にほぼ同時に告白してもらわないといけないんだ。順番が付いてしまった時点で、それは負い目や劣等感、そして、僕への疑いへと変わる……。くっ……。しばらくは逃げ戦かな……っ!



 やがて始まった一時限目なんて、集中できるはずもない。いつもは答えられる英文を全く訳せず、先生に心配されるほどだった。



 そうして、まずは終わってしまった授業。終わると同時に、トイレへ駆け込む。クラスメイトに笑われても構うもんかっ!



 個室に入り、まずは一息。今日一日は……こうやってやり過ごそう……。



 すると、携帯の着信のバイブレーションが……。



 咲姫からだ!



 すぐさま着信スルーを押す。鳴り止む振動。これで、僕が出ないことに気づかないまま、電話をかけ続けることだろう。ちょっと、悪い気がするけれど……。



 そんな風に思っていれば、ドアの前で物音が。誰だろう、トイレに行きたくて急いできた人でもいるのかな? そそっかしい子だなぁ。



 と、僕は上を向けば……。



「百合ちゃんみぃつけた……っ」



「のわぁーッ!」



 携帯電話の自撮り棒の先に手鏡を付けて、トイレの個室内を覗いてるっ!? 思いっきり犯罪じゃんそれっ!



 トイレの前では「うんしょ、うんしょ」なんていう咲姫が漏らす声。明らかに登るために何かしてる……っ! 個室の中に入られたら、いよいよ逃げ場所がないぞ!?



 僕は洋式のトイレから塀をよじ上り、さ横の個室へ移る。すると、たまたま人が入っていたようで、僕はその子に上から抱きついてしまう。



「そ、空から美少年がっ!?」



「静かに……っ」



 彼女の口を塞いで黙らせる。汚いと思うかもしれないけど、用は足してない手だから、我慢して欲しい。



「ごめんね、みどりちゃん。今度事情を話すから……僕のことはナイショだよ?」



「ふ、ふわぁ……」



 なんて、椅子を積み上げる咲姫の横からそそくさと個室を出ていく。出会ったのが翠ちゃんで良かった……。彼女はかつて僕に告白してくれたのだから、僕にはある程度の好意を持ってくれているはず……。むやみやたらに口外しないと思うけど……。



「あっ……」



 廊下を駆けながら思い出した。



 咲姫は翠ちゃんの事を嫌っているんだったなぁ……。



 無事でいてっ! 翠ちゃん!



※ ※ ※



 二時限目の開始の鐘と共に教室に入ると、美少女たちに睨まれてしまった。そりゃあそうだ。あんなあからさまに逃げたのだから。宣戦布告の意味が分かっているとしか思われない。



 でも、今は逃げるしかないんだ……っ。



 席に着くときには、当然、咲姫ちゃんのジトッとした視線が。ああ、可愛い! 怒ってる咲姫ちゃんも可愛い!! もっと困らせたい!! けど、それは命に関わりそうだからやめておこう……。



 直接の手がダメだというなら――と、咲姫は考えたのか。彼女からハート型のメモ帳を折り畳んだ手紙が来た。うーん、どうしよう。



 僕はその手紙を読まずに食べた……なんてするわけがない。表紙に、授業に集中しようねっ――なんて書いて、送り返したら、ムスッとした咲姫ちゃんの顔が横目にぃいいい!! か、かわいーーー!!



 にやけてしまいそうなのを抑えていると、またしても彼女から手紙が。今度は、プライバシーなんぞありゃしないのか、内容を開いたまま。



『今日の授業が終わったら、デートしようねっ。校門で待っててねっ!』



 くっ、やられた! 読んでしまった! これは、見えませんでしたなんて言い訳が通用しない!



 ならばと、その可愛らしい文字の下に断りの言葉を。



『用事があるから行けないよ』



『なんの用事なのかなぁ?』



 こ、怖い……。文面から怖さがにじみ出ている……。でも、怒っている咲姫ちゃんも可愛いので、是非とも怒らせたいところ……。とんでもない悪女になりそうだな、僕は。



『ないしょっ♡』



 そう送りつけたまま、僕はその後に送られる手紙を返さないでいると、増え続ける手紙の末尾にはどんどんハートが増えていき、やがては百を超える勢いだった。お、重い……。

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