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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部三章「百合葉の美少女つなぎ」
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第26話「性癖をカムアウト」

 ゴミ箱は一階へと捨てに行ったのち、蘭子にお手洗いへ行く事を要求するも、「先程の会話を思い出しながらシろと言うのか。君も中々やるな」という、下ネタ全開セクハラアプローチを投げられる事は、ある程度予想すべきだった……いや、無理でしょ……。彼女が勝手に盛り上がって楽しそうなので、それはそれで良いのだけれども。



 当然、彼女が帰ってきた時も、「君がシてる姿を想像しながらシてきた」と言われるのは、もはやお決まりの冗談なのだろうか。なんでこの僕が下品な話に耳を貸さなければならないんだ……。惚れた弱みかもしれない。



 よく考えてみれば今日、彼女が僕の家を訪問した理由はなんだろう? 帰りたくないのは本当かもしれないけど、とりあえず僕と一緒に居たかったのかな……。そんな中でも、一方的な下ネタで僕を困らせる、『いつもの調子』であった。



 そんな事を思索している内に、蘭子がベッドの下を覗き始め――――。



「ベッドの下に何も無いじゃないか。何処にエロ本を隠しているんだ?」



 男子高校生みたいな事をしでかす。



「ベッド下に物を置いたら掃除しにくいからねぇ……。じゃなくて。勝手に探さないでもらえる?」



「男子の秘蔵コレクションはベッド下と、相場が決まっているだろう……ダミーすらも無い」



そして、彼女は言うと共に、暗闇の中で手をバタつかせる。



「秘蔵コレクションなんか無いし。それより、なんで僕を男扱いしようとするの? 怒るよ?」



 僕が口にしながら左手を『グー』にし怒りを表現するも、彼女には効果がなく無視される始末。泣きそう。



 そんな僕にはお構い無しに、蘭子は「フンフフーン」と上機嫌に、ベッドカバーを剥がし始めた。その姿は『お宝探し』に興ずる小学生の様に見えて大変可愛いらしいが、実質は『エロ本探し』の思春期男子レベルである。全く、なんて残念な美少女なんだ……。



「カバー下も……無いな。やはりベッド付近は定番過ぎて避けているか……」



「……人んち来てさぁ。マットを捲ったりすんのってマナー以前の問題じゃない? ゴミ箱の件もそうだけど」



 まさか、他人のベッドをひっぺ返すまでとは……。彼女の一般常識は大丈夫なのだろうか……。



「解ってはいるさ、他人にはしない。百合葉だからこそあえて……な?」



「僕も他人の対象にして欲しいよ……」



 どれだけ僕が大好きなんだよ……。可愛過ぎて仕方が無いが、ちょっと困りもの。



「ベッドは外れか。他を当たろう……うーむ」



「もうやめにしない?」



 わざとらしく唸りながら立ち上がる蘭子の手を取り、制止を試みる――も、座ったままではすぐに解かれてしまう。



「私はベッドの下に隠しているのだがなぁ」



「そんな古典的な……。女なのに……」



「男だろうと女だろうと、シたい時の為に、布団から近く取り出しやすい場所が一番だろう。それにちゃんと、私のは女性向けのレズモノだぞ?」



 決め顔で断言される。ちなみに、人差し指を立てての決めポーズがレズ可愛い――レズは関係無かった。



「いや、そこを女らしくしたところで――だから……。意外と女性向けなんだね、一応」



「そうだぞ? 私を何だと思っているんだ」



「女の裸さえあれば興奮するド変態レズ」



 正確には、僕さえ居れば興奮するド変態レズ。知ってはいるが、察せられない様に冗談めかす。



「これはこれは、酷な事を言ってくれる……。女体そのものは嫌いじゃないが、別に好き好む訳でも無い」



「へぇー、意外」



 ここもまた生返事をしておく。『意外』と言われて、口を尖らせた彼女は一度唇を結び、そして開く。



「そもそも、ノーマルな十八禁は大体、男が出てくるよな? そのせいでどうにも怖気おぞけが走る……」



「あー、すごい分かるわ」



 話しながら僕の向かいに座った彼女は、僕が賛同を示すや否や「だろう?」と言い、僕の手を取り両手で包む。真摯しんしに視線をぶつけてくるその姿は、どうしてもプロポーズにしか見えない。僕と分かり合えた事が嬉しかったのだろうか。



「それとな? 男向けレズモノであっても、大体がエロ重視でストーリーとか心理描写が無茶苦茶なんだ。女性向けで無いと、好きになれない」



「あれはホントにアリエナイよね。偽物同性愛のレズ営業だよ」



 蘭子は「うむうむ」と頷く。彼女も僕同様、生粋の男嫌い型レズビアンであったのか……。レズに目覚めたのは最近だと思うけど、本物の仲間だという確信が得られて、僕もまた心の中で小躍りする。



「全くもってその通りだ。あんなモノ、男の欲望を満たしたいだけのトンデモ幻想に過ぎない」



「めっちゃ言えてる。だから僕は、作者が女性かどうかで判断して買ってるね。男が書いたやつだと大体、違和感しか無いから」



 さらに語られ続ける、蘭子のレズビアンモノに対する考えに強く同調し、自分もつい意見を述べてしまう。



「ふふふっ、そうだなぁ。ところで、先程から君は性癖を大暴露しているが、気付いてはいたか?」



「へっ……? あっ…………! しまったぁーッ!!」



「もしかして君もレズビアン?」



「あっ、や……そのっ! まだ良く分からないし! 見るだけで使うわけじゃないし! 男が出ると嫌なだけだし! エロさよりも内容重視で選んでるだけだしーッ!」



「女性同士の恋愛に究極の美を見い出しつつ、作風や雰囲気に重きを置いている――と言うのだろう? エロにもリアリティある文学性を求めるとは……。流石はロマンチスト百合葉たん」



「もう追及しないで……」



 彼女の煽りに「ぐぬぬ」と唸ってしまう。そんな中、軽く握った自分の手に顎を乗せる"考えるポーズ"を取っていた蘭子が腰を上げ、クローゼットの前で立ち止まると……?



「そして、隠してある場所はクローゼットだ」



 お見事、僕の秘蔵レズコミコレクションの隠し場所を言い当てたのだ。



「な、な……ち、違うしっ!」



 まさか当てられるとは思わず、焦り全開で否定してしまった……。これはもう、肯定と同意義じゃないか……。



「視線が時々、そこに向いては逸らすから、すぐに判ったよ。同性愛者であると隠す事を『クローゼット』と云うらしいが、中々、粋な計らいではないか」



「ぼ、僕がそんなイヤらしい物持ってるワケ無いから……! あ、開けないで……ねっ……?」



 そんな見苦しいまでに筋の通らない事を言いながら、僕は彼女を引き止める。



「今更言い逃れは出来ないぞ? さあ、君の性癖をカムアウトのフルオープンだ」



「い、嫌ぁ……!」



 蘭子の足にしがみつきながら僕は悲鳴を上げる。しばらく、僕を見つめていた蘭

子は、口元をニヤつかせ……。



「冗談。流石に開けたりはしないさ。触れないでおこう」



 種明かしをする様に両腕を広げて見せる。焦りのあまり彼女にベッタリとくっついていた僕は一気に脱力し、乾いた笑い声をあげる。



「は、ははっ……。デリカシーの無い蘭子なら、本気で開けると思った……」



「やっぱあーけよっ」



「ああああごめんなさい蘭子様許してください!」



「ふむ、どうしようか。さっきの言葉は傷付いなぁ」



「いやホントの事でしょッ!」



「おっ……? 腕が勝手に開けようと――――」



「何でもします! 何でもします! だからもう、勘弁してぇ……?」



 イヤらしくも蘭子がクローゼットの取っ手に指を掛けだすものだから、僕は彼女に全身を預け懇願し、うっかり『何でも』と言ってしまった。



「『何でも』?」



 当然、そのワードに食らいついてくる。



「性的な事はしません……」



 もちろん後付けで制限を掛ける。



「先回りされてしまったか……。しかし、女の子が『何でも』――などと言ってはいけないぞ?」



 確かに慌てて余計な事を言ってしまった……。しかし……。



「蘭子なら酷い事はしないって……信じてるから……」



 上目遣いで言ってのける。この言葉を与えれば絶対に、僕が本気で困る事はしないだろう。言わずとも、強行レズプレイはしないだろうし。



 そして、僕の予想通りに「うぬぅ」と口をつぐむ蘭子。彼女は無理にキスすらも出来ない程の、ヘタレなレズビアンなのだ。略してヘタレズ。可愛い上に助かる限りである。



「この様な釘の刺し方が有って良いものだろうか。全くもって、卑怯ではないか……。言質げんちを取った訳じゃあ無いが、何をして貰うかはじっくり……考えておくからな……」



「信じて良いんだよね? 信じるからね?」



 僕の追い打ちに蘭子はしばしの間、薄ら悔しそうな表情をしていた――かと思いきや、ギラギラとした鋭い眼光で、僕の顎に手を掛け、その親指で唇をもてあそびだす。



「さあて、どうだろうね……」



「ら、蘭子は優しいから……ね?」



「あまり、私をおちょくらない方がいいぞ?」



 蘭子を試す様な僕の本心を気付かれただろうか。内心ギクリとし、「はは」と掠れた声を出す。タカを括るのも良くないな……。



 やがてクローゼットの前から退いた蘭子が、部屋の奥角を見るなり――――。



「よし。それではクローゼットはお終いにしよう。次はタンスだな」



「えっ……? や……そっちにはな、何も無いよッ!」



 彼女が新たな標的を見付けた為、思わずどもってしまった。そこには、我が美少女達を印刷した秘蔵写真集が……! いや健全ですとも、ですけれどもッ! 見られたら別の意味でマズい!



「ほうほう。私は下着目的だったのだが、別の物も紛れていたのだな……。どれ、私がチェックしてあげよう。まさか大人のオモチャとか……」



「ちょっ、無いから! それは流石に無いから!」



 タンスの前に立ち塞がると、それが余計だったのか。確信を得た様に蘭子が口角を吊り上げる。



「百合葉がそんなにもエロエロだったとはなぁ……よもや思わなんだ。言ってくれれば幾らでも濡らしてあげるというのに……」



 「寂しいなぁ」と言いつつ、「おーいおい」と泣き真似をする蘭子。相変わらず演技がド下手過ぎて味わい深さまである。



 やがて、泣き落としもどきを終えた彼女は……。



「よしっ、その大人の玩具を二人で使おう。百合葉に『ひとりえっち』させるのは、私とて見過ごせ無い」



「あ、ちょっ……!」



 言うと共に僕の腕を掴み、くるりとそれぞれの立ち位置をチェンジする――いやいや、僕の力弱過ぎでしょッ!



「百合葉、今行くぞ。私が君を満足させてあげるから。寂しい夜は二度と味わわせないから」



「ホント、そういうのじゃ無いから止めてっ!」



 イヤにやる気満々な蘭子の背中に、僕は制止を口にしながら引っ付き、彼女の両腕を抑える。



「おお、素晴らしい。私の背中に柔らかな感触が……。此処は天国か?」



「僕の部屋だから、こんなところで昇天しないでッ! てーか、前に聞き覚えあるセリフなんですけれどぉ!?」



「さあ、君の性癖をカムアウトのフルオープンだ」



「そのセリフもさっき聞いた! 気に入ってるのッ!?」



 その様な具合で蘭子と組んずほぐれつする。胸をくっつけたままだからなのか、明らかに蘭子の力が激減しているけれど。雑魚レズかよぉ……。



 そうしている内に、タンスに手を掛けていた彼女の腕がそっと落ち、蘭子がようやく諦めた事を教えてくれる。



「まあ、私もそう鬼では無い。パンツを被るだけに抑えておこう。ほら、取り出して」



「もうやだぁ……」



 蘭子が僕に向き直るなりそう言うと、力が抜けた僕は床にヘタレ込む。



「ふふふっ。いやはや、百合葉にセクハラしてイジるのは楽しいな……」



「あううぅ……」



 彼女の本気のイジりに対し疲弊した僕は、力無く声にならない呻きを上げる。



「興奮し過ぎて疲れた。君のベッドで寝て良いか?」



「フリーダム過ぎるよぉ……。好きにしてよぉ……」



 僕がそう答えると、蘭子はフラフラと歩き、僕のベッドに倒れ込むのであった。

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