第25話「仲良くてもタブー」
手のマニキュアを落としてから学校をあとにした帰り道。咲姫と別れたあとに、僕の家に入ろうとしたときの事だった。もっと前に別れたはずの蘭子が後ろから詰めてきて……。
「百合葉、私も入れてくれ」
「う、うん……? なんで居るの?」
そうしているうちに、彼女は僕の家に入る……。んんん? 強盗かな……?
「なんで……? ええ? なんか用なの?」
「ちょっと、今日は……家に帰りたくなくて……。君と一緒に過ごしたい」
そんなイケメンボイスで乙女なことを言われても……うん、キュンとしたわ、僕キュンとしちゃったなー。ちょろいなー僕は~。
※ ※ ※
「百合葉。ゴミ箱がなんだかイカ臭いぞ?」
それが、僕の部屋に入るなり蘭子が発する第一声であった。
「そんなニオイするワケ無いでしょ……」
呆れつつも返す僕。
「じゃあどんな『ニオイ』なのだろうな」
ベッド横の隅に置いてあったゴミ箱を、至近距離で覗き込みながら、怪しく蘭子は言う。
アホなのかな? この子は。というよりは恐らく、いつものセクハラで僕をイジりたいだけなのであろう。
そう思い、適当に返してしまえば――――。
「男じゃないんだからイカなワケ……あ、やっ……!」
自爆してしまう始末であった。
「ほう……昨日、シたのか……。意外と百合葉もエロエロだな」
「昨日はたまたま……!」
そう、本当に偶然なのである。ふと、違和感に目を覚ませば、パンツが濡れていただなんて……。
「たまたま? 昨日は百合葉がひとりエッチをしていたと仄香から聞いたなぁ。何をオカズにした?」
「その話は嘘だし……か、関係な――――」
「何をオカズに?」
「ー〜っ! 言うか馬鹿ッ! 人のプライベートに首突っ込むなアンタ! デリカシーとか色々無さ過ぎ!」
言える訳が無い。彼女の予想通り、昨日は仄香の電話で色々と意識させられた所為で、夢の中でレズレズしてしまったのだ。僕の意識の範囲外なので、アレはそういう行為に含まれない。うん。
「百合葉相手だからこそ、デリケートな事も訊くんだ。ほら、私達の仲じゃないか。教えろ」
彼女が僕の顎を掴み、強引にキスをする様な体勢で言う。華麗な仕草と下ネタな言動との不一致である、シチュエーション的に。
「どんなに仲良くてもタブーでしょ!? 最近、セクハラを控えたかと思えば……!」
しかし、この娘がこれ程まで友情の禁忌を犯すのは、僕に対してだけなんだよね? 普通は本気で嫌われると思うのだけれど……。心配である。
「大丈夫。今は二人きりだから、君は遠慮無く素直になれるぞ?」
「ならないよっ!」
僕が断るのを余所に蘭子は、「ならないのか?」と言葉に合わせて僕の頬をムニムニ。個人的には他の美少女にやってもらいたいところ。自分ではその面白顔が見られない……。
やがて、変顔を覗き込み一通り楽しみ尽くしたのか、蘭子は僕の頬をムニ終え喋りだす。
「正直になって貰えないならば仕方が無い。とりあえず、この塊で間違い無いな。証拠だけ持って帰ろう」
言いながら蘭子は、ゴミ箱内から三枚程丸まったティッシュの塊を取り出す。何故に一発で当てられたのか。僕のニオイを嗅ぎ分けられるのでは――という蘭子の七不思議。
「アンタ結構ヤバい事してるからねっ! 気付いてるッ!?」
「冗談だ」
「すでに手に持っている事は冗談で済まないんですけれども……」
僕が言うと、蘭子はパッと手を離し、ブツがゴミ箱内に「ファサッ」と落ちる。後で手を洗わせよう……。
「因みにだが、女でも『イカ臭い』人は居るらしいぞ?」
「知らんがなッ!」
要らない情報ありがとう。僕の脳が彼女の所為でエロエロになってしまうのを、日に日に実感するあまりであります。




