第18話「ダークチョコレートのオレ」
ようやく週末のリストカット事件の影響も落ち着き切ったようで、なんとか日常的な空気が取り戻せた火曜日の放課後。
再来週には定期テストの期間に入るので、仄香と譲羽の声によってみんなで部室に集まる事に。ここのところみんなで仲良く集まる機会を作れなかったから、こういう名目で集えることに嬉しく思っていたり。
そんな中、早速勉強の手を邪魔する声が意外なところから上がってしまった。
「おい。私が楽しみにしていた『ダークチョコレートのオレ』。飲んだのは百合葉か?」
「なんで僕指名なの? 知らないんだけど」
「勉強の合間に飲もうと思っていたのだがなぁ。DARK CHOCOLATE NO AU LAIT」
「何アンタ、その名前気に入ってるの……」
「蘭子ちゃん……それ、イイ……。発音ステキ……」
「そうだろうそうだろう」
「相変わらず中二病だなぁ……」
僕も気持ちは分かるけどね。なんだか響きがかっこいいもんね。
「それっていつ冷蔵庫に入れたの?」
僕が言うと、"少しの間"と主張したいのか、人差し指と親指で一センチくらいの幅を作る蘭子ちゃん。かわいい。
「放課後、部室に来て早々だったな。そのあと目を離したとしたら、トイレに行ったところだったが……百合葉まさか……。これはおしおき――が必要だな……」
「トイレは僕も一緒に行ったでしょ……。『連れション』だとか言って」
なんでこの子は美少女なのに、男子高校生みたいなノリが好きなんだとは思ったけれど。まあ、いつものセクハラとまではいかなかったからまあ良しとする。『おしおき』も、いつもなら胸を揉むような仕草でもしてそうなものだけれど、口先ばかりになってしまった。落ち着いているのならそれはそれでいいのかな……。
「百合葉じゃないなら、誰が私のオレを飲んだんだ?」
「『私のオレ』……」
僕が言葉の矛盾に笑ってる間、蘭子は何も口出ししない咲姫と仄香を順に見やる。すると、身をすくめるように俯く仄香の姿が。咲姫は咲姫で、ニヘラァと意味深に微笑んでいる。
「わたしはぁ~、飲んでないかなぁ~。ねぇ? ほのちゃん?」
「う……っ。あたしは……ダークチョコレートの俺様だなんて知らんぞぉー?」
「名前が変わってるんだけど」
「怪しいな」
「そういえば仄香ちゃん……さっき紙パックで飲んでたヨウナ……」
「仄香が犯人か?」
「よよよ、ヨウナヨウナっ! ヨウナデスカ!? へいっ! ヨウナ用無し! 無し無し洋ナシ! 犯人言う無しっ! あたし知らんしっ! オレは知らんし!!」
「ラップで誤魔化すんじゃないよ……」
「口元にチョコレートオレが付いてるわよぉ?」
「えっ! マジマジマジシャンかよ!」
急いで拭う仄香。しかし、その行動が自白するようなもので……。
「ちょっと君、署まで来てもらおうか……」
「ら、蘭たん!? ちょっ! 持ち上がってる!? 浮いてる浮いてる! やべー! ってどこ連れてくの!? 助けてーっ!」
なんて、部室の外へと連行される仄香であった。あんなにノリノリな蘭子も初めてみたよ……。
ギクシャクしているようで、やっぱり日常の合間に仲の良さもどこか見られる。この関係を崩したくはないなぁ。




