第17話「温かい戦い」
月曜日をも終えて僕の気持ちは晴れないままだったけれど、週末の事件の傷はだいぶ癒えたのか、仄香と譲羽がいつもの調子で、我が美少女グループのささくれが剥がれ落ちたようだった。
かつてのように、僕の席に集まる仄香と譲羽。お陰で、蘭子も咲姫も違和感なく、グループに溶け込んでくれる。廊下が寒い寒いトークの真っ只中だ。
学校では四月にはかろうじてついていた床暖房も、五月になった今では一切が切られているようだ。だから、こういう中途半端に寒い日が突然来られたら困るもの。
「うっわ冷たっ! ゆずりん冷え性なんだから、気を付けないと体壊すよぉー?」
なんて、手の温度を確かめ合うほのぼの百合。う~ん、天使の触れ合い……心が癒される……。
なんて思っていると、僕の手元に尋常じゃなく冷たい感触が。
「うへへっ……。百合葉ちゃんの手アッタカイ……」
「ちょっとユズ……! いくらでも温めてあげるからこんな冷たいのは大変だよ! 膝掛け貸すよ!?」
「もうゆずりんやばいよねー冷えピタだよねー。ほらほら被って温まろ」
なんて、僕らに温められている譲羽は膝掛けを頭からまとって、コロボックルが崇められているようだった。
「くう、これだけ冷えっ冷えだと、温かい戦いだー! つまりは温戦!?」
そう言って、仄香は譲羽と手をわしゃわしゃ揉み合いながら、『温かい戦い』とやらを繰り広げる。彼女はたまに、よくわからない言葉遊びをする。
そんなスリスリとなめらかに打ち合う二人の視界の隅で、仄香の生足に伸びる手が。
「くせ者かっ! であえであえ!」
「ほのちゃん、脚荒れてるわよ? 駄目よぉ? 冷やさないで、ちゃんとケアしないとぉ」
「いやぁーっ。去年の冬から、どこまで生足で戦えるか勝負してるからさー。今更負けたくないなーって。まー、手入れサボってたのは本当だけどね」
「冬から!? きつかったんじゃないの……!」
まあこの元気っ子のことだから、動いてれば温まるとか言いそうだけど。
「ヨユーよヨユー! よゆうしゃくしゃく元気ハツラツっ! ある程度ひんやりしてる方が好きだし、動いてりゃあそのうち温まるってー! やっぱりもともと冷たいのが温まるってテンション上がらないっ!?」
「それはどうだろう……」
なるほど、案の定スーパー体育会系な考え方であった。
見渡してみれば、仄香は紺のハイソックスなのはいいとして、咲姫は茶色系のストッキング。大人でオシャレな感じが出ている。比べて蘭子は一切を透けさせない黒タイツ。譲羽はやはり寒いのか、タイツの上にハーフパンツが見えている。
「タイツとかストッキングの感触が気持ち悪いんだよー。あの化学繊維感……っての? あんなの穿くならジャージのが好きだよー」
とか言いながら彼女は自分のスカートをめくってみせる……。そこにあったのはハーフパンツではなく、橙色が映えるパンツで……。
「あっ、ごめん、今日は穿き忘れたんだったわー」
「全くほのちゃんったら、そそっかしいんだからぁ~」
「そうだぞー? ゆーちゃんのえっちー」
「冤罪じゃない……?」
「~からの仕返しめくりっ!」
「僕は何もやってない!」
急いでスカートを抑える僕。なんとか太ももがさらけ出されたくらいで、パンツまでは見えなかったと思う……。
「百合ちゃんは下に何か穿かないのぉ~?」
「たまに……かなぁでも、ストッキングだとすぐ破けて嫌だし、タイツみたいに分厚いとゴワゴワして変な気分なんだよね」
「そうか……百合葉は穿かないのか」
しみじみ感じるように言う蘭子。なんで今更声を上げたのかな……。意味深なんだけど。
「セクハラ対策に毎日穿いてくるわ……」
「ちぇー。つまんないのー」
「……つまらんな」
「このセクハラ娘達めっ」
でも。絶好のセクハラ日和だったのに、蘭子が嬉々として参加しなかったのは違和感があった。




