第16話「担任として、顧問として」
月曜日になって、すっきりした表情の譲羽が、咲姫と蘭子に、体調悪いのが治ったとだけ、報告した。日曜日を挟んだ分、後に残る具合の悪さなどはあまりないらしい。無事に帰ってきてくれて良かった……。
放課後。事件に関わる僕ら三人がひっそりと先生に呼び出され、屋上へ。譲羽のことだろう。薄ら雲のかかったぼんやり晴れ空の下、風になびく横髪を押さえる。
「日は出ているが、ちょっと風が肌寒いかな」
眼下の街並みを見下ろしながら、先生は言う。
「仄香のお姉さんの事件もあったのに、謝って済むようなことではないことをしてしまいました……」
「その件について聞いていたのか……。話が早い。まあ、まさか同じようなことになるとは、わたしも思っていなかったよ。この歳でも涙って出るもんだな……」
「ごめんなさい……先生……」
「譲羽は悪くないはずだよ。悪いとしたら……」
じろりと見やる先生、僕らは身を竦めながら小声で謝る。
「僕の……せいなんです。責任を取れと言うなら、僕が取ります」
「あ、あたしも……キッカケは完全にあたしでした。あたしも悪いです」
「百合葉ちゃんと仄香ちゃんがそういうのなら……そもそもアタシが下手なことしなければ……」
「まあ待ってくれ。誰か一人を裁くわけにはいかないし、それをみんなに求めることもしないさ。結果としてだが、何かが失われたわけじゃない。わたしは無事に"先生"を続けられているからね。今回の件も、学校連中の中ではわたしと理事長しかしらない。安心してくれ」
先生は深く安心するように息を吐いて言った。きっと、先生も気が気でなかったのだろう。
「今回の事件はなぁ、不問にされたよ。わたしは理事長のお気に入りだから。その代わり、担任として、そして、部活顧問として、あんたらを卒業までちゃんと面倒見ろってね。愛娘が居る部活だからって、ずいぶん目にかけられているよなぁ」
「それは嬉しいことですけれど……」
でも、よく考えたら、僕の母は理事長と直接話をしている仲みたいだし、仄香は先生の教え子の妹。そして極めつけには、理事長の娘だ。どうしても情が入ってしまうのかもしれない。それに甘んじたいところでもある。
「でも、どんなに自信があってもさ、こう、受け持った生徒が似たような事件を起こしたとなると、わたしの教育方針が間違ってるんじゃないかと、不安になってくるものさ。先生イジメはやめてくれよ」
シリアスな中で笑ってしまう僕ら。クールなのに、こういう場面で少しおちゃらけて言う先生は、やっぱり、生徒として付き合いやすい人だなぁと思う。マイペースな人だからかもしれないけど。
「まあしかし、君たちは今の関係を続けたいんだろう?」
うんと頷く僕。続いて譲羽も、仄香も大きく頷く。彼女らも、みんなでイチャイチャ仲良くがいいのだろうか。
「なら、今度こそは、途中で事件を起こさないよう、楽しく卒業まで迎えてくれ。それが先生としての望みさ」
そう言い残して去る彼女。あとは頼んだぞだなんて、後ろ手を振る。やはり、サバサバしているというか、すっきりとした先生だった。彼女にはお世話になっていることだし、尚更、迷惑は掛けてられないな。




