第12話「雨上がりの寮」
シャワーのあとも何か進展があるわけでもなく、あっという間に放課後。退屈なのに、でも心が浮いたように落ち着かないまま、午後の授業を終えてしまった。
またしても、何も策が無い。時間が解決してくれるとは思えないけれど、週明けに持ち越しかなぁ……。なんて、皆の様子を見てあまり良い雰囲気が作り出せそうにないと感じた僕は、部室に集まらないことに。
寂しく歩く通学路。水たまりが風に吹かれ揺れる寒々しい道を、今回は咲姫と並んで歩く帰宅し始めのころだった。
その途中、ブレザーのポケットが震え、携帯電話の受信音が短く鳴り響く。
『今からあたしの部屋に遊びにおいでよ』
という仄香からのお誘いメッセージが。
どうしたものだろう。仄香の部屋ということだから、譲羽も間違いなく居る。でも、蘭子と遊んだ時には空気が微妙になってしまったけれど、元気っ子である仄香との組み合わせならば、譲羽も楽しく過ごせるだろうか。土曜日に不安を抱かせたのだから、ここで挽回のチャンスを……。僕は少し考える。
「うーん……」
「どうしたのぉ?」
問いかける咲姫。みなの空気を察してかあまり一人盛り上げようとはしない咲姫だが、いつも通りのように思える。彼女も大事にしたいところだが、今は譲羽を最優先に動くべきか……。
「ごめん! 一人で帰って!」
「えっ……? やぁ~ん! 待ってよぉ~っ」
なんて引き止める咲姫を振り返ることなく、僕は学校併設の寮へ向かうのだった。なんだか、ダメダメだ。
※ ※ ※
雨上がりのずんと重苦しい灰色の雲を背景に、二階建ての白く綺麗な建物がそびえ立つ。
後ろから咲姫が付いて来ないことを何度も確認して、僕は寮の中へ。防犯のためにのドアセキュリティに学生証をかざして玄関のドアを抜けた。このシステムは、同じ学校の生徒なら誰でも使えるのだという。勉強会などに向けて、全校生徒が入れるように設定されているのだ。もちろん、防犯カメラなども死角なく備えられている。
「お~っすゆーちゃん。さっきぶりー」
「仄香。遊ぶなら早く言ってくれればいいのに」
「へっへー。タイミングが……じゃなくて。帰ってから思い付いたんだよねー」
なんて、おちゃらける彼女。言葉だけでは分からないけれど、表情を見るに今なにかを誤魔化そうとしたね? 後ろめたいことがあるのだろうか……。
ということなんて、考えるまでもなかった。今日の皆の雰囲気じゃあ、遊びの誘いなんて出来なかったのだろう。僕は気が利く彼女に心の中で感謝する。
「さぁ~て。じゃあこっちこっちー」
彼女の案内に従って、僕は広めの寮を歩き出す。前回と違って寮内の様子を見れるかなと僕はキョロキョロと……。はしたないけど、こういう小綺麗な建物には興味津々なのだ。うーん、良い感じにオシャレ。
だが、そんなつかの間の楽しみも、仄香が振り返って寂しく微笑んだことで取りやめとなった。
「今はさー。なんか変な感じだけど……あたしらの関係、大好きなんだよ。ゆーちゃんの周りにみんなが集まって、なんだかんだバカみたいにはしゃげて」
誰もいない廊下を歩きながら彼女は言う。
「そうだね。僕も楽しいよ」
「ここに入学する前も、そういう友だち……いたの。あの頃も楽しかったなぁ」
「へぇ、そう……なんだ」
生返事をする僕。しかし、その話を掘り下げることは出来なかった。なんだか不穏な気配を感じて。
「みんなあたしから離れて行っちゃったんだー。なんでだと思う? "答え"はあとでね?」




