第08話「蘭子の妄想」
やがて不安な月曜日は放課後になり。どうにも調子のおかしい僕らは集まらないことにした。譲羽の体調がすぐれないようで、仄香も乗り気じゃないのだ。
蘭子と二人での下校。今日はたまたま咲姫が用事で不在だけれど、もし蘭子との三人だと不安が大きすぎるから、居なくて良かったかもと、ちょっと酷いことを思ってしまったり。譲羽の件が失敗し悩んでいる今、もし二人までもいつものいざこざが始まってしまうかと思うと、胸がずんと重くなるのだ。それ対応し切るには、今日はまだ心の準備が整っていない。
そんな中で、蘭子と二人廊下を歩き帰ろうとするところ。
「百合葉? 話を聞いているか?」
「あ……。ごめん、聞いてなかった。なんだって?」
今後、どのように僕の美少女たちを再び仲良くさせるか考え事をしていたせいで、蘭子の話を全く聞いていなかった。これじゃあダメダメだ。僕はちゃんと美少女たちに尽くして楽しませないといけないのに。
「いやだから。男の子か、女の子かって話だ」
「ほ、本当になんの話……?」
首を傾げる僕。すると彼女は一本指を立てて自信ありげに。
「私と百合葉の子どもだが」
「そんな話は絶対にしてなかったよね!?」
いや、一方的に蘭子が語っていたのならありえるけど……。彼女は爆弾発言をポンポンするから、生返事なんて絶対にやってはいけない。地雷原を駆けているようなものなのだ。レズの紛争地帯かな。もうレズ戦争だ。ゼロ戦とはきっと、裸でレズセッを迫る事なのだろう。
「う~ん、私と百合葉の子だから、名前は蘭葉が良いか」
「知らんわっ! 話を飛躍させんでいいっ!」
「んっ? 百合子じゃあ駄目だぞ? 私がタチなのだから、カップリングは蘭子×百合葉で『蘭百合』なんだ。子どもの名前も、私が先にこないと」
「知らんわ……」
BLならまだ分かるとして、百合にはカップリングの前後はあまり気にしないと思うけれど。それにしても、蘭子の妄想は暴走しすぎる節があって困る。
「友人同士のできちゃった婚だとみんな困惑するだろうが、意外とみんな聡明だ。きっと理解してくれるさ」
「聡明じゃないよっ!? そんなん理解したらむしろバカだよ! ってか出来婚なの!?」
「じゃあ出来る前に言えばいいのだな? 百合葉、結婚しよう」
まだ校内で下校中の廊下のド真ん中で何を言っているのだろうと、もはや僕は返す言葉がなかった。恥ずかしくて顔は真っ赤だけれど。
「君、本当に百合葉か?」
「……突然なにさ」
「本物の百合葉ならここで私にキュンときて、『嬉しい、子作り……しよっ』とか言うと思うのだが」
「言うわけがないよ! ここ学校だよ!? その僕はどこの世界の僕だよっ!?」
「いや未来の百合葉だが」
「勝手に未来をねつ造しないでもらえるっ!?」
「大丈夫だ。信じればきっとなれる」
「なりたくないわ……っ」
そう拒否して靴を履き替えようとする女生徒たちにチラと見られてしまった。廊下なのに少し声が大きかったかなと僕は口を抑えてつぐむ。しかし、そこでひらりと、何やらお尻に涼しさを覚え……。
「ああ、この下着は確かに百合葉だ。今日の百合葉も色気の何も無いボクサーパンツ……。しかし、一般的にかわいくないというだけであって、私にはむしろその無骨さがたまらな――」
「ー~っ!」
「おっと危ない」
僕のパンチを直前で華麗によける彼女。くっ、さすが体術をやっていただけはあるな……セクハラ魔には要らない特技だ。
「どうした百合葉、顔を真っ赤にして。もしかして、私とエッチしたくなっちゃったか?」
「ならないわっ! レズ童貞めっ、エッチに拘り過ぎだよっ!」
「そりゃあ鋼の意志だからな」
「性欲ともども錆び付いちゃえっ!」




