第07話「バファリネの優しさ」
譲羽の体調が悪いと言うので強制的に解散になってしまった土曜日を終えて、休みが明けた月曜日。何気なく送ったメッセージも返してくれない譲羽の事が、心配で心配で仕方がなく、僕は寝不足から調子が悪い朝だった。その譲羽本人もまた具合が悪いのか、机の上でぐったりしている。
ただ僕は、眠たいってよりも……。
「頭痛いなぁ」
机に顔を半分つっぷして、うなる僕。自分まで体調が悪くなるほどとは、少々悩み過ぎなのかもしれない。
「じゃあ私が治してあげるわねぇ〜。痛いの痛いの飛んでけぇ〜っ!」
そんなところへ、前の席の咲姫が指をくるくる、魔法を掛けるように、僕の額をツンとつついのだ。
うあぁ~! かわいい~かわい~~~!!
「ありがとう咲姫。少し良くなった気がするよ」
「えへへぇ~。良かったぁ~」
その笑顔を見られただけでも気分がいくらか晴れるものの、しかしこの頭痛は寝不足からくるもので、そんな簡単には治らなかったり。悲しいものだ。こんなにも心きゅんきゅん天に昇るような気持ちなのに……。それは恋の熱にうなされているだけなのでは?
「一応、保健室でバファリネもらってくるかな。授業中に痛くなったら困るし」
「えぇ~? 薬もいいけどぉ〜、バファリネは半分しか優しさが無いのよ? わたしならほらっ、優しさ満点っ! もっともだとわたしに頼っても良いのよぉ~?」
半分が優しさで出来ている……と言われているが、実は胃の粘膜を保護する成分のことで四分の一しか含まれていない、とも噂の痛み止め『バファリネ』。それに対抗してか、「優しさ満点の踊り~」を左右にぴょんぴょん。
意味が分からない! かわいい~かわい~~~!!
「じゃあ咲姫の優しさに甘えるかぁ」
言いながら僕は咲姫のお腹に抱きついてみる。
「はわぁっ! や、うん……!」
自分で提案したのになんで驚くのか、目をぱちくりさせる咲姫ちゃん。さては僕が大胆にスキンシップを取ると思ってなかったね? ふふふっ、頭をこすりつけて、もっとくっついてやる。
「はぁー、ずっとこうしていたいなぁ」
「わ、わたしは大丈夫よぉ?」
「でも、もうすぐ授業始まるし、くっついてらんないでしょ」
「イイんじゃないの? わたしたち優等生の委員長だしぃ〜?」
「調子が悪いのに調子に乗ってるみたいで、もうこれわかんないなー」
と、ぐったりしながら彼女にもたれかかっていると、近くにそびえ立つ大きな影が。空いていた目の前の席の住人だ。
「なんだ百合葉、具合が悪いって? もしや生理かっ?」
「生理じゃないよ。そんなワクワクするんじゃないよ……」
どうしてそう目を輝かせるかなぁ。表情は大きな変化が無く乏しいのに、こういうセクハラで色めき立っている顔色だけはよく判断ついてしまう。
「そうだよな。君の生理は来週以降のはずだ」
「はっ? アンタ僕の周期覚えてるの……?」
「当然ではないか」
「当然じゃないわちょっと気持ち悪いわ……」
「気持ち悪いって? そんなに具合が悪いのか」
「アンタが気持ち悪いって事だよ……」
呆れる僕。ちょっとストーカーじみてるなと思いつつ、でも美少女だから許せてしまったり。愛が重いけど、それは僕への気持ちが大きいということで……。うーん、ストーカーイケメン女子、最高っ。
「まあまあ。とりあえず保健室行ってくるよ。授業中も痛くなったら困るし」
逃げるようにして立ち上がる僕。そこに咲姫が一言。
「うゆぅ〜ん……。生理からくる頭痛なら、専用のバファリネあるか、訊いてみるといいわよぉ〜?」
「生理痛も辛いならロキソミンだな。私もたまにお世話になってる」
「だから生理じゃないよ……?」
美少女二人して生理生理言わないでほしい。生々しくて恥ずかしいじゃないか……。いや、僕が気にしすぎて恥ずかしいだけなのかもしれないけど。




