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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部三章「百合葉の美少女つなぎ」
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第06話「ハーレム漏洩」

 僕と蘭子をモデルにした、譲羽主催のゴシックファッションショーを終えてひと息。満足そうに店を出た譲羽だったが……。



「激レア……並んで来るから、待ってて。脚、疲れた……と思うし」



 だなんて、有名ソフトクリーム店の屋台へ駆けてゆき、長い行列の一部となってしまった。そして、公園のベンチで休んでいる僕と蘭子。彼女の調子が悪いはずなのに、全く気を使えてないような……。まあ、彼女が楽しめているならいいか。



 なんて憂いつつふと見上げると、少し前に生えている木の枝に、誰かが飛ばして忘れ去られた風船が。



「引っかかっているな」



「あー……。あれは高いね……」



「私なら届くかもな」



「届かないでしょー……って取りに行くの!? ユズを待たないと!」



「まだまだ並んでいそうだし見える範囲内だから。ちょっとくらい大丈夫だろう」



 なんて、ずんずんと歩き進む彼女。僕も負けじとついて行き、木の下へ。



「気になるのだろう?」



 僕に向かいそう言って、彼女は助走を付けてジャンプしたり揺らしたりする。



「まあ気になるけどね? 困ってる子供も居ないし別にいいよ」



 その場で大きく飛び跳ね風船に手を伸ばす――も、その差は絶望的に離れており、脚力の力ではどうにもなりそうになかった。



「肩車……ならどうにかなるかもしれないな」



「わざわざそこまでしなくても……」



「いや、ここまで来たら取ってみたいものだろう。百合葉。私に乗れ」



「うぇー……」



 文句を垂らす僕。だって、肩車ということは……。



「良いから早く。取って、譲羽に風船を見せてやろう」



「仕方がないなぁ」



 僕はかがむ彼女の首を跨いで乗っかかる。そうしてゆっくりと、立ち上がってゆく。



「ところで、私の首の後ろで感じないでくれよ? 今は余裕ないんだから」



「んなわけないでしょっ!」



「叩くな。本当に落ちてしまうぞ」



「うぬぬ……」



 ならこんな時にまでセクハラ台詞を吐かないで欲しいよ……。



「もうちょい右に行って」



「はいはい」



「行き過ぎ、戻って」



「はいはい」



「そこで五十センチくらい前に……そうそう」



 指示したとおり、蘭子が動いてくれる。バッチリのコンビネーションで、木に引っかかった風船はもはや目前だ。



「蘭子! 取ったよ! 届いた!」



「そうか、それは良か――」



 僕が言ったとき、彼女の肩から力が抜けたかと思えば、ぐらりと景色が揺れ……。



「うわっ!」



「マズい……っ!」



 ゆらゆらと揺れ、バランスが崩れる。しかし、すんでのところで蘭子が体制を立て直し、僕は座り込むように地面に不時着した。風船は飛んでいってしまったけれど、怪我なんてお尻に鈍い痛みが走ったくらいで、骨まで響くようなこともなく。



「うう……大丈夫? 蘭子」



 地面にへたり込んだまま、蘭子の様子をうかがう。彼女が変な体勢で落ちることを避けてくれたので、真横に落ちた僕は痛みがなく、怪我せずにすんだみたい。しかし彼女は……?



「大丈夫だ。痛みはない」



 なんて強く言い放ち、顔を上げたら……。



「ホントありがと――って大丈夫それっ!」



「あっ……な、なんだ?」



 動揺している彼女の鼻からは血が。まさか、一日に二回も鼻血を見ることになるだなんて……っ。



「首に変な力掛かっちゃったからかもね、ごめん!」



 言って僕は急いで彼女の鼻に詰め物を。譲羽以上の出血量で大惨事になっているため、次から次へと僕が彼女の手元に流れた血を拭いていく。だが、そんな焦る僕とは反対に、蘭子は悟りを開いたような遠い目をしていた。



「だ、大丈夫……? 蘭子……」



「心配しなくていい……これは、嬉し涙みたいなものだから」



「ん……?」



 むしろ血涙なんだけど?



 風船どころか、病人まで出した結果になってしまい、僕らはベンチへ戻っていた。しかし、さっきの場所とは違い、流れる泉に近いところで。先ほどまでカップルが座っていたが、いつの間にか居なかったのだ。何より、涼しげなところの方が彼女の具合もよくなるだろうと。



 僕の膝の上には蘭子が頭を乗っけて横になっている。膝枕というやつだ。ただ、なんだか余計に鼻血が出てる気がするんだけど……仕方がない子だ。新しく詰め物をしてやる。



 こんなシチュエーションでもなければ、頭でも撫でてあげよっかなぁなんて思ったり。でも、やっぱりそんな気恥ずかしいことは出来ないかもしれない。彼女は僕への好意の気持ちがダイレクトすぎてセクハラにまで及ぶのだ。恥ずかしいったらありゃしない。



 何もしゃべらない空白の間。譲羽はソフトクリーム屋さんの並びの、だいぶ前の方へ移動していた。これならもう少しで戻ってくるだろう。



 僕は真顔で鼻血を抑えているシュールな蘭子と目を合わせたくなくて、ふと、泉に目を向ける。



「魚とかは……まあ居ないよね。人口の水辺だし」



「なんでそこで、居もしない魚をずっと探すという、萌え萌え勘違い百合葉たんをしてくれないのだ。悲しいぞ」



「だって僕が恥ずかしいでしょ……」



「恥ずかしがる百合葉が見たいんじゃないか私は」



「知らないよ……」



 全く。僕を恥ずかしがらせる検定一級持ちの蘭子ちゃんの横だと油断は出来ない。実は僕、自覚あるものの微天然なのだ。そんな恥ずかしいところ、絶対に出してはいけない。



 蘭子の鼻血は無事に止まり、僕らは水の音を背に感じながら公園の中央へ目を向ける。薄い雲の切れ間から太陽がのぞき優しい陽光が差す中、今ソフトクリームの出来上がりをじっと見つめ待つ譲羽の様子を蘭子は眺めている。



「譲羽、元気そうじゃないか。私はなんにも気を使う必要が無さそうだ」



「そうだね。でも、あくまで気分を晴らすために遊んで欲しいから、元気そうじゃないと困るんだ」



「……そうか。なら今回の目標は達成できているということだな?」



「うん、バッチリだよ」



 と僕が言って彼女に微笑みかけると、意外にも難しい顔を。どうしたのだろう。



「だがな……気になることがあってだな? どうして譲羽の気分が落ち込んでしまうのだろうかと」



「ど、どうしてかな……」



 急にトーンを下げて、意味深な口調の彼女。まずい……。突然図星を突かれてドキリとしてしまった。



「もちろん、必要なら私は彼女に気を使うぞ? なかなか人に気がつかえなかったりするから、教えてもらえるのも助かる。だがそもそも、その根本の原因があるんじゃないかと思ってな。百合葉は何か思い当たる節があるんじゃないか?」



「さぁ……」



 僕はそうとぼけるしかなかった。それが余計に悪かったのか、蘭子は確信をつかんだように僕をねめつける。



「まさかとは思うが……譲羽も百合葉に告白を――」



「それは友達だからっ! 勘違いって言ったでしょ!?」



 蘭子の言葉に被せるように、言葉を荒げてしまった。なんでよりにもよって、このタイミングでそういう話をするんだっ。下手に他の子との関係がバレてしまえば、ハーレム計画が漏洩してしまう……! 譲羽に聞かれてはいないよな……と、公園中央部のソフトクリームの屋台に目を向けると……。



「今の話……どういうコト?」



 運が悪いのか必然なのか、よりにもよって譲羽に聞かれていた。



「な、なんでもないよっ。それより、ソフトクリーム買えたんだね」



「うん。時間かかるから、アタシの分ダケ……」



 睫毛を半ば伏せたまま、譲羽はソフトクリームの先を食べる。



「……あんまり、美味いか分かんナイ」



 いつも以上に声に張りが無く、告げる彼女。それでソフトクリームへの興味が尽きたのか、一層暗い顔になり僕へ視線を向ける。



「それより……さっき、何……シテタノ」



「さっき?」



「膝……枕……」



「あ、ああそれね」



 動揺しつつも平静を保とうと静かに深呼吸。



「蘭子が具合悪そうだったし、ベンチで休んだんだ」



 僕の横の席をポンポンと叩く。



「蘭子が鼻血を出してさ」



「なんで蘭子ちゃんも……?」



「多分、首に変な力が入ったからかな。肩車して、蘭子の上に乗ったんだ。木の上の風船を取ろうとさ。何か問題あった……?」



 僕が訊ねるもそっぽを向いて、譲羽は深くため息。



「アタシも一緒に……取りたかったナ。二人だけでなんて……」



 そうしてまたもやため息。その吐き出したため息は、風船だけでなく、もっと奥深い何かにも向けられているようだった。

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