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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部二章「百合葉の美少女落とし」
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第86話「悪い虫たち」

「な、なに……?  もしかして虫刺されたのかな。嫌だなぁ」



 冷静に冷静に……ビークールだ。僕は冷や汗をかきつつも首筋をさすってとぼける。僕は首にキスマークがあることだなんて知らないはずなのだ。咲姫の目を誤魔化すためにも、ここは素知らぬ顔で通さないと。



「ああ。もう五月で温かくなってきたからな。春の陽気に浮かれた悪い虫でも出たのだろう」



 そうしてまた、じろりと咲姫を見やる蘭子。うーん、これじゃあいつもの冷戦の流れだ! 早くこの場を脱さないと……っ



 と思い、僕は声をあげようとしたところ、蘭子が僕の右腕を掴み引き寄せる。



「ちょ……なに!?」



「その毒を吸い出してあげようと思ってな」



 それってキスマークの上書きってことじゃんか!



「い、いや……いい! トイレ行ってくる!」



「あっ、百合葉……」



 掴む手を振りほどいて僕は小走りに廊下へ出る。僕の背に向けられたその声は少し寂しげだったけれど、今はとにかく誤魔化す術を考えないと!



「はぁ~……」



 垂らした横髪をよけてみれば、しっかりと痕が残っていた。なんでこんなのを気付かないでいたのだろう。髪の毛で見えにくいとはいえ……寝ぼけてたのだろうか。うん、確かに寝ぼけていた。



 僕はポーチを開けて、目立たないことで有名な絆創膏を首筋に貼る。うん、よしっ。間近まで来ない限り判断つかないくらいには目立たないぞ。



 一安心していると、トイレの入り口から咲姫が。僕を追ってきたのだろう。内心、警戒しつつ笑顔で彼女を迎える。



「やぁ~ん。バンソウコウ貼っちゃったのぉ~?」



「そうなんだ。なんだか虫さされがあったみたいでさ。目立つから誤魔化したよ」



 もちろん誤魔化したいのは僕が咲姫と同じ布団でちゅっちゅした事実だけれど。キスマークなんて、一緒に寝てたことが疑われるに決まっているのだ。これ以上、疑惑の被害を拡大したくはない。



「へぇ~。そうなのぉ~? でもそれってねぇ……」



 笑って誤魔化す僕に、咲姫はなんとも微妙な顔を向けて言葉を区切る。上目遣いで、ちらちらと視線を合わせ口を開いたり閉じたり。んんん? もしかしてキスマークの件を打ち明けようと思っているのか……? そうはさせない……っ!



「さてっ。じゃあ戻ろっかな」



「あっ……ちょっとぉ~っ!」



 戸惑う咲姫を横目に、ずんずんとトイレを出る。そのとき、見た彼女のもの悲しげな顔が、僕の心に突き刺さる。

 ああもう、なんだか逃げてばかりだ。



 そうしてトイレから早足で出てみれば、今度は目の前に譲羽が。



「あ……百合葉ちゃん……。アタシ……最近おかしくて……『月の調べ』も乱れてるし……それに、貴女あなたを想うと胸が苦しいの。保健室でてもらえないカシラ……」



「ああああうんっ! 診る事は出来ないけど行こう! 大変だもんねっ!」



 なんて、咲姫が追ってくる前に彼女を急ぎ保健室へ。『月の調べ』は分からないけど、君の主な病は『恋』じゃないかなっ? 嬉しいけど、今の余裕のないときにだなんて構ってあげられないんだけど……。



 でも、無視も出来るワケはない!



 焦る心を落ち着けてゆっくりと、譲羽をいたわりながら保健室に来てみれば、例によって養護教諭が居なかった。なんてことだ……。これじゃあレズレズしろと言ってるようなものじゃないかっ! いや言ってないよ! 言ってないよね! 僕までレズレズ思考に毒されてる!



「そういえば、不眠症にはお風呂が良いって聞いたよ。だから、この入浴剤使ってみて。最近の僕のお気に入りなんだ」



「あ、ありがとう……。持ち歩いてくれてたノ……?」



「いつでも渡せるようにと思ってさ。みんな居る時じゃあ、全員分買わないといけないから」



「そう……ネ」



 はははと笑いながら、僕は譲羽に渡す。心配してるのは本当なんだ。その原因が僕ならば、やはり、ケアする術は打っておかないと。



「……先生が居ないから、百合葉ちゃんが寝かしつけて……欲シイ」



 ニンマリと怪しく笑いながら彼女は言う。なんだか、昨日とは打って変わって甘えんぼだ。いや、昨日甘やかす理由を与えたからだろうけど。



「長くはいられないよ? 何すればいいの?」



 彼女はベッドの掛け布団をめくり、僕に向き直る。



「服脱がせて」



「ブレザーね。皺にならないよう掛けとくよ」



「百合葉ちゃんも……」



「え……まあいいけど」



 自分も脱いで、譲羽のブレザーの横にハンガーで掛ける。



「横に寝て」



「横に……」



 数分くらいなら……と、僕も一緒になって布団に潜ってみる。すると、僕の胸元に手をかける譲羽。



「ブラウスのボタンをはずして……」



「んんん?」



「あ、ブラは自分でめくって欲しい……カモ。禁断の果実を口に含めば魔力が回復すると思う……からっ」



「吸わせないよっ!?」



 僕が吸われるのかっ! いや、彼女のを吸おうとは思わないけど!



※ ※ ※



 無理やりレズレズ展開に持って行こうとする譲羽の手から逃れ、僕は急ぎ保健室を後にする。僕ら一年生のフロアに着き、時間ギリギリを狙って教室に入ろうとすれば今度は仄香が……。いったいなんなんだみんな……。



「おっはー、ゆーちゃん。ゆずりんまた具合悪いんだってねー」



「そ、そうなんだ! 今ちょうど、保健室に連れてったところで!」



「それなら良かったー。んでさー、蘭たんもさっきーも怖い顔でソワソワしてるけど、なんなの?」



 訝しげに見つめてくる仄香。きっと、教室では、僕の奪い合いをどうリードさせようかと、獲物を待つハンターのような目つきなのだろう。それなら疑問を持ってもおかしくない……。とても戻りたくない……。こじらせたくない……。



 とりあえず今は、目の前のこの子からもなんとか逃げないと。



「な、なんなん……だろうね……?」



「いやさぁ。あたしの知らぬ間になんかあったのかなぁーって。何か隠してない?」



「か、隠してなんか……いないよ!?」



 ああ、なんて嘘が下手なんだ。誤魔化すのは大好きだけど、嘘をつくのは駄目なんだ。



「ふーん、まあいいや。ちょっとさ……授業サボってあたしと屋上に行こうよ。体が火照っちゃって……サましたくてさぁ……」



 なんて、ニンマリレズスマイルを浮かべながら強引に僕の手を引く彼女。いけないいけない! なんで今日の彼女らは大きく一手を打って来るんだ! このままじゃあいずれは王手がかけられてしまう!



「駄目だよ! ちゃんと授業に出ないとっ。ほら、早く教室に戻ろっ」



 なんて言いつつ彼女の手を振りほどき、僕は教室へ。冗談めかして「ちぇー」なんて言う彼女の顔はやはりほの暗く。この子もまた、僕の体を狙う狩人の目だった。

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