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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部二章「百合葉の美少女落とし」
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第85話「咲姫の朝食」

「い、いただきます……」



「どうぞぉ~」



 身だしなみを整え制服に着替えてみれば、食卓には白米に味噌汁という日本らしい朝食が待っていた。ニッコニコの彼女に勧められるまま僕は朝食をいただくのだけれど、見るからに彼女の分が無く戸惑ってしまう。



「咲姫の分は?」



「わたしなら作りながら食べちゃったぁ~。時間がもったいなくて……はしたないけど、ついやっちゃうのよねぇ~」



「ああ、わかるわかる。急いでたらつまみながら作っちゃうよね」



「そうそう。どうせ味見で食べちゃうんだから一緒かなぁ~って」



「だよねー」



 なんて、何故か主婦トークみたいになってしまった。お姫様なのに庶民じみた彼女の一面を垣間みれた感じ。これもまた良きかな良きかな……。



 思いつつ、僕は良い香りを漂わせる味噌汁に口を付ける。



「あ……美味しい……」



「そう? 良かったぁ~」



 僕はさらに具材も食べて、よく味わう。細く輪切りにされたネギがいいアクセントになっていて、これまた食欲に拍車をかける。でも、味噌汁ってこんなに美味しくなるんだなぁ。不器用な僕にはインスタント味噌汁に劣るものしか作れない。まあマズくはないんだけどね……。インスタント味噌汁が優秀すぎるのだ。



「うーん。市販のダシだけじゃないよね? 本格的にダシを取ったりしてるの?」



 なんだか咲姫ちゃんの方がベテラン主婦臭がするので訊いてみたり。すると、小さなあごに人差し指を当てて考える素振そぶり。可愛い。



「そんなに難しく無いわよ? 人参の甘みとしめじのダシが効いてるのかしらねぇ。シンプルだけど良い旨みが出せるから、わたしは結構使うかなぁ」



「へぇー。今度から真似しよ」



 完全に主婦トークだった。僕が新人駆け出しみたいなポジションだよねもはや。



 家を出ようとするとき、咲姫があらかじめ早起きして作ってくれていたのか、僕のお弁当まで用意されていた。なんとも至れり尽くせりだ。結婚したい。老後まで一緒にいたい。



 ちなみに僕不在の我が家はというと、お母さんから携帯に、冷凍からあげを詰めただけの弁当になってしまったと嘆きのメッセージが届いていた。僕が居ないからって、他にも冷凍食品はいっぱいあるというのに……。偏食なのだ彼女は。



 触れ合う肩で小突いたりして心ゆくまで咲姫と百合百合登校を楽しむ登校時間を経て、やがて学校へたどり着く。校舎に入り咲姫も空気を読んだのか、そのイチャイチャっぷりは減退するものの、それはそれで仕方がない。僕とてハーレムを目論む身。咲姫とばかり色めきだった噂が広まっては困る。



 教室に入る前の廊下、長身に短いポニーテールが揺れる赤髪と、片目を隠すほどに青メッシュの前髪を伸ばした女子たちが女生徒二人を壁に追いやって口説いているのが視界に入る。キメ顔であごをくいと持ち上げたり。サマになりすぎなんだ、あのイケメン女子二人は。



 あんな感じに、気取らずともさらっと女の子を口説けるイケメン女子になりたいなぁとは常々思うけれど、僕は不器用だし難しいかなと思う。僕は僕なりに今の子相手に頑張るしかないんだ。さいわい、頭のネジが飛んじゃった子ばかりだし……。癖の強い変な子だーい好きっ。



「おはよう、葵くん、茜さん」



 僕が近づくと口説かれていた子は恥ずかしさのあまりか、顔を手で覆いキャーキャー言いながら立ち去って行った。残された二人はバイバイと手を振りながら僕の呼び掛けに振り向くと、目を見開き驚いた顔。



「百合葉チャン……おめでとう。オレ、君のことちょっと良いなって思ってたけど、どうやら先を越されちゃったみたいダナ……。悲しみを慰めに、漆黒の堕天使の元へいだかれに行くヨ……」



「ゆりはす~っ。朝っぱらから見せつけてくれちゃってー。お熱いねぇ~」



「な、なに?」



 なんだかよくわからないけれど茶化された。隣の咲姫ちゃんは疑問も持たずニッコニコ。何もしてないつもりだけど、はたから見て分かるほどに舞い上がってたのかな。……それもそのはず。思い返しよく横を見れば、パーソナルスペースなんて無いと言わんばかりに咲姫ちゃんとの距離はゼロだった。そりゃそうだよなぁ。



「あなたたち? 百合ちゃんはわたしのものだから、手ぇ出さないでちょうだいねっ?」



「しかたない。姫様がぞっこんじゃあ……ナ」



「はっは~。そうだねぇ。仕方がないねぇ」



 咲姫が答えるとやれやれと二人。「このこのぉ~」だなんて小突いてくる。あんたらだってしょっちゅう色んな子とイチャついてるのに、なんでこんな茶化されるんだ。それと茜さん、さり気に乳首狙ってつつくのやめて? 別にダメージも何も受けないけどさ。



 そして茶化されるその理由は、教室に入って明かされた。



 僕が教室に入るのを見ると、おはようと言いかけて、そしてずんずんと歩み寄ってくる蘭子。眉間にしわを寄せて、彫りの深い美形な顔立ちが、さながら鬼の形相である。



「百合葉。その首筋の痕は……なんだ?」



「痕……?」



 首筋の……?



 腫れていたりするのだろうか? 触ってみて、特に異常は無いよなぁと首をかしげる。なら手鏡で見てみるかと鞄に手をやり考えているうちに、じわじわと今朝の出来事を思い出す。にじみ出る冷や汗。脳裏を流れていく朝の情景。寝ているうちにあった首に吸い付く感触……。そのとき、僕は何をされた……?



「『悪い虫』にでも食われたみたいだな? 早く追い払わないと」



 咲姫を睨む蘭子。対してふふんと余裕の表情の姫様。



 まずいまずいまずい!



 忘れてた……っ!

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