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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部二章「百合葉の美少女落とし」
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第84話「目覚めのキス」

 …………。



 ――ピピピピピピピピ――



 うーん、何かが鳴り響いている……。頭が……痛いなぁ……。ほっとけばそのうち鳴り止むし、我慢してもう十分ほど寝かせてもらおう……。



 でも、いつもと違って鳴り止まない。音だって、いつものアラームとは違う……?



 なんでだ……。そうか咲姫の家に泊まっていたんだったっけ。



 頭をボヤボヤ働かせていると、やがてアラームが鳴り止む。良かった、これでゆっくり眠れる。



「……りちゃん、百合ちゃん?」



 次は咲姫が呼ぶ声……。飛び起きてあげたいのは山々だけれども、彼女の心地良いソプラノが更なる快眠へと導いてくれる……。



「もうっ……、仕方無いわねぇ。起きないと私から目覚めのキス、しちゃうぞっ?」



 是非ともして欲しい、大歓迎だ。何も考えずに、彼女のキスを心待ちにする。



「起きて……無いの? まだ寝てる……の?」



 その言葉が聞こえてから数秒、僕の側が重力で沈む。ベッドに乗り掛かって来たのか。



 やがて、唇に「チュッ」と柔らかい物が触れだす。一瞬で終わるかと思いきや、暫く柔らかさを堪能出来る程に長く……。まだ感触は離れない。



 ――――寝惚けているついでだ。



 僕は口付けしたままの咲姫にゆっくり手を伸ばし、髪の毛の肌触りが得られた所で、そのまま彼女の後頭部に左手を回す。右手では彼女の後ろ肩を捕え、僕が寝ているベッドへと抱き寄せる。



「んんっ……!?」



 ぶちゅっとより強く重なり、咲姫は驚きの吐息を漏らす。一度こわばった唇は、直ぐに状況を理解したのか再び和らいで、僕はその唇を鳥のように優しくついばむ。



 彼女の唇を何度もはみつつ、僕は寝息を整えたまま。彼女は息のピッチは荒く。柔らかな唇と唇が交わり合う。舌は入れられない。我ながら、寝起きは口の中が気持ち悪いのだ。こんな興奮するさなかにあっても僕は冷静すぎて、ちょっと狂っているんじゃないかと思うけれど。



 そうして少しの間、その感触を楽しませてもらった。しかし、いつまでもそうしている訳にはいかない。終わりを迎え、起き上がる一芝居を打たないと……。



 「トサッ」と音を立て、ダラリと布団の上に落ちた僕の両腕。そうしてようやく、唇から触れる感触が消えた。まだ目を開けてはいないが、戸惑ったまま、咲姫は硬直している事だろう。僅かに興奮した彼女の吐息が耳まで届く。



「うぅ〜ん……」



 ワザとうめき声をあげる。眉をひそめる。さあ、咲姫は我に返り、声を掛けてくるか……来ないか……?



「うぅ……っ」



 漏れる吐息。そして降りる沈黙……。来ないみたい。僕から起き上がるか。



「あっ……! 今何時!?」



 ガバッと起き上がりながら僕は言う。咲姫は一瞬驚くも、とろけた表情を瞬時に切り替え、僕の問いに答える。



「えっ……。あ、七時前よぉ……」



「良かった。まだ余裕で間に合うかぁ……。おはよう、咲姫?」



「うん……。おは……よう……っ」



 顔は真っ赤なのにどことなくその声には力が無く。というよりはボーッとしている。先程の余韻が抜け切れていないのだろう。



「なんか元気無いね……。あっ、おはようのキスしてないから怒ってるの? 咲姫ヒメサマ?」



 半ばから途端に王子様演技へと移行する。ちゃんとウィンクと決めポーズ。手を差し伸べるも咲姫は、両手の指先をワシャワシャさせて俯く。



「キ、キスだったら、した……じゃない……」



「へっ……?」



 ワザととぼける。



「さっき。百合ちゃんとわたし、ちゅー……したのよ?」



 おおっと、面と向かってハッキリ言われてしまった。寝起きアピールも、どこまで通じるかな……?



「えっ……!? ごめん! 寝惚ねぼけて咲姫にキスしちゃったのかもしれない! それだったらごめん!」



「あれで寝惚けてたの? 本当に?」



 伺うようで、それでいて少しの疑問をはらんだ声。可愛い可愛い。でもいけない、勢いでも乗り切らないと。



「いやぁー。僕、寝相とか色々悪くてさ。抱き枕のぬいぐるみにすごい抱きついたり、キスしたりしてるみたいなんだ」



 「はははっ」と恥ずかし誤魔化しながら答える。ぬいぐるみにアッツイキッスだなんて、それはどんな性癖なんだと我ながら言い訳が冴えていないとは思う。



「まあ、夢の中で咲姫に抱きついたりキスした感じはあったけど、現実で起こってたんだぁ……。なんか悪い事したね」



 頬をポリポリと掻きながら言う。



「百合ちゃんは……! 百合ちゃんは夢の中でどう思ったの!?」



 僕の心理を探ろうとしているのか。深層心理だなんて、夢の内容で明らかなのだが。夢でもちゅっちゅっしちゃうとか、我ながら咲姫にベタ惚れにも程がある。しかし、幸か不幸か彼女はそこに気づいて無い様子。さて、彼女に期待を持たせつつも、曖昧に答えなければ。



「どうしたの? そんなに焦って……。んんー〜っ。まあ別に嫌じゃ無かったかな。咲姫にはいきなり悪いかなぁとは思うけど」



「イヤじゃなかった……。わたし、イヤじゃなかった!」



「ああ、そう? まあ前にだってしたし、それに普通、友達同士で嫌がるってのも問題あるかもだしねぇ」



 実際問題としては、レズを気持ち悪く思い嫌がる人は居るとは思いつつ、僕らの身の回りでしか通用しないような『普通』を語る。



「友達……。友達同士のちゅーで嬉しかったらどうなのかしら……」



 咲姫は少しトーンを下げながら言う。今回はお互いに結構粘るなぁ――と思う。どこで切り上げるか……。



「スキンシップが好きって事でしょ?」



 僕の小技、『友達』ならではアピール。まあこの程度じゃあ誤魔化せないだろう。



「そんなんじゃなくて! 胸が高鳴って抑えられないの……」



 咲姫は言いながら、僕の手首を取り、彼女自身の胸に当てる。



「こんなに……ドキドキしてるのよ?」



 先に着替えた彼女の、ブラウス越しの胸に僕の手のひらが押しやられる。神経を尖らせてみれば、かなりのアップテンポな鼓動が伝わる。そりゃあそうさ。恋する乙女ですもの。ドキドキしない方がおかしい。



 冷静ながらも、僕は顔に血が上るのを感じながら、彼女と目を合わせている。咲姫もまた、シルクの肌にほんのりと朱色を差している。このままじゃあいけない。ちょっと強行突破で煙に巻くか……?



「あー。そうだね。そうだよね」



 僕はワザと「うんうん」と頷く。



「わかってくれた? 気付いて……くれた?」



「咲姫、恋愛モノが好きだから、キスとか大好きなんでしょ? 駄目だよー? あまり同性相手で置き換えたりしちゃあ。そりゃあ僕で試すのは構わないけどさ」



「そ、そういうのとは関係なくて――――!」



「あんまりキスし過ぎちゃったら咲姫の未来の旦那様に悪いし。程々にしよっか」



「……旦那様は百合ちゃんが良いのに……」



「えっ? 何だって?」



「旦那様でもパートナーでも、相手は百合ちゃんが良いの!」



 ああ、長く責め過ぎちゃったなぁ……。本音を思いっ切りぶつけられてしまった。これはぶつ切り覚悟で無理やり話を終わらせないと。



「ふふっ。咲姫ヒメサマも嬉しい事を言って下さいますね。しかし、僕は女の身。その様な事は叶わないのです」



 取られていた手首を捻り、彼女の手を取る。そして、キザったらしいお辞儀をしながらクールに決める。我ながらクサい。



「こんな時に演技しないでよぉ……」



「演技でも何でもさ。あまり自分を見失っちゃあいけないよ。咲姫が結婚しようとしまいと、嫌われない限りは僕が傍に居るよ?」



 僕は彼女を軽く抱き締めて語りかける。正直、雑な誤魔化しだ。これでは抱きしめてキスすりゃあ女は黙ると思っている男と大差ないぞ……?



 さてさて、こんな雑な流れでは疑惑の目が向けられてしまう。その前に――――。



「恋したいんだよね。それなら僕を彼氏役に見立てて、こき使っても良いんだよ? 今までだってそんな感じに見えただろうし」



 僕の中で一番の大技、『擬似カップル』の申し出をする。とは言っても、前々からそのケはあった気がするけど。僕らは一戦を超えすぎなのだ。



「僕をいくらでも実験台にしていいから。咲姫が素敵な人と素敵な恋愛を出来る様に、僕が応援してあげるよ」



 当然、咲姫のお相手など、絶対に現れて欲しくは無いんだけどね。しかし、この手の大嘘は、僕がヘマしない限りは暴く術など存在しないので、安心してく事が出来る。



 しばしの間、咲姫が「うぅっ」と吐息を漏らしていたが、それも落ち着き、やがて大きく「フゥーッ」と息を吐き出す。



「百合ちゃん、ありがとう。もう大丈夫だから」



 その言葉で僕は彼女に回していた腕を解放する。



 僕の鈍感に呆れて、やっとこの場は諦めてくれたのだろうか。もしもその恋を諦めようものなら、再度猛烈アタックを繰り出す。それだけだ。



「じゃあ、わたしが『素敵な恋人』を作れる様に、百合ちゃんは練習相手、よろしくね?」



 よしっ、釣れた。僕のふところに飛び込んでくれた。



「良いよ。どこまでも恋人気分に付き合うよ」



 僕に認められ、清々しい顔の咲姫。決心が付いたのだろう。



 恋人演技と見せかけての本命。恋愛を楽しみつつも、お互いがカップルとして束縛している訳では無いから、他の娘達との恋の駆け引きも味わう事が出来る。素晴らしい。大変都合が良い。



「あっ……、もう七時だ。準備しよっか」



「うんっ!」



 やたらとニコニコ、上機嫌である。それもそのはず。僕との擬似カップルが正式に決まったのだからね。イチャつきたい彼女に取っては、嬉しいことなのだろう。



 何か忘れている様な気がするけれど、いくら頭を捻っても思い出せないため、思い過ごしかな――と、僕はその場を後にした。

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