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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部二章「百合葉の美少女落とし」
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第81話「咲姫とベッドイン」

「やぁ〜ん、もうっ! そんなにゴシゴシしちゃ、髪の毛泣いちゃうゾッ!?」



「か、髪の毛が……泣くぅ!?」



「いいからもうっ! 見てられないから貸しなさぁい!」



「は、はい……っ!」



 やっとのことで、百合百合なんて生ぬるい表現を通り越した、レズレズお風呂タイムから脱却した僕。そんな矢先、出て早々に怒られてしまった。指さされる先は僕が今タオルで拭いている頭。髪を拭くのにやり方も何もないと思うんだけど。



 指摘する彼女に身を任せ、僕は彼女に髪を拭いてもらう。なんともかゆくなってしまいそうなほどに優しい。そんなんじゃあいつまでたっても髪の毛の水気は取れないんじゃないかと思うほど、タオルがこすれない。しかし、確かに髪のベチャベチャ感は薄らいでいく。なるほどタオルを押し付けて水気を取っているのだろう。確かに髪へのダメージは少なそうだ。



「全くもう。百合ちゃんったら、せっかく綺麗なのに、全然お肌も髪もケアがなってないんだからっ」



「そんな綺麗でもないよ。女っぽくないし」



「美形で綺麗って言いたいのぉ! しのごの言わず、ちゃんと綺麗を保つ努力をするっ!」



「は……はい!」



 髪を拭かれながら怒られてしまった。めんどくさいけれど、確かに努力を怠るのも良くないかぁ。美形と誉められてしまっては仕方がない。歳を食ってからボロボロにはなりたくないし。



 髪やらお肌やらのケアやらを習っているうちに、時刻は夜の九時に差し迫っていた。



 今はカラダのケアということで、ヨガで魚や屍などのポーズをさせられ携帯で写真を撮られたり、マッサージと称して全身をペタペタムニムニと触られている……。う~ん、この触り方はレズ。間違いなくレズ。でも気にしない気にしない。気にしないであげよう。



「ほら見て見てぇ〜。魚のポーズの百合ちゃん……。うふふ〜っ」



「あっ……! それ消してよね! 恥ずかしいじゃん!」



「やですぅ〜。待ち受けにしちゃいましたぁ〜!」



「怒るよっ!」



「そんなにこにこ顔で怒られてもなぁ〜……。あぁん! 美形の王子様がお姫様に暴力を振るぅ〜、信じられないわぁ〜!」



「このタイミングでお姫様ぶっちゃう!? そんな強く掴んでないし……もう良いよっ!」



「ふへへぇ〜!」



 二人きりだと彼女のテンションもあがるのか、それとも夜のテンションなのか。彼女は調子に乗って悪ふざけ。



 ……しかし、咲姫との間柄もずいぶん打ち解けたものになってきたと思うけれど、やはり彼女の中に穏やかじゃない心の焦りが伺える。特に僕の胸とか下着とか見る目! レズの目レズもくレズレズ科! 表には出さないものの、今にも食ってかかるレズの目なんだよぉ……っ。



 まあそれも無理はないのかもしれない。彼女の想い人である僕と、共に夜を過ごそうとしているのだから。自惚れながら罪な女である、僕は。



 そんな心境の中であっては、彼女の会話もスムーズでなく。やがて話しのネタが尽きるのも当然。咲姫はしどろもどろに言葉を繋ぐだけに。



「それでね、それで……」



「咲姫……?」



 そんな彼女を僕は覗き込み、目元を親指で撫でる。



「ひゃいっ!」



「そろそろ眠いんじゃないの?」



「そ、そんな事無いわよぉ?」



 自分の前で両拳を合わせ軽く握り、謎の眠くないアピールをするかわゆい咲姫ちゃん。それはお祈りポーズだよ? 可愛いよ?



 ともかく、今は心がうずついて眠いわけが無いのだろう。しかし、このままでは何も進まず同じ会話を繰り返すだけだから、強制的にもスパイスを加える。



「さっきから何も話が進んでないから眠いのかなって」



 ああ、この言い方は冷たいな。言葉を選ぶべきだった。



「あうっ……。百合ちゃん……わたし、まだ寝たくない」



「えっ? まだ話したいの?」



「それもあるけど、そうじゃなくてぇ〜!」



 その返しは予想済みだ。トークでも触れ合いでもとにかく、僕とイチャイチャしたいのだろう、そうであろう……。ふふふっ、めっちゃ嬉しいなぁ~そうだといいなぁ~! 蘭子みたいなハードなのじゃなく、ソフトイチャであれば僕も大歓迎なのだけど、



「そうじゃなくて?」



 彼女が求める模範解答をたとえ分かり切っていようとも、僕は再びとぼける。幾らでも。なぜなら友情ガード、ノンケガードがあるのだ。彼女は、下手に同性愛者とカミングアウトして、僕達の関係を壊してしまう事を恐れているとも取れる。そう取りたい。打ち明けられたところで上手くかわすし、遠回しに、「気の迷い」とか言って説得もする。シミュレーションはバッチリだ。



 僕の質問に咲姫は押し黙り、口元をもごもごさせている。キリが無くなりそうだったので、僕がワザと彼女の顔に近付き、首を傾げてキョトン顔でそそのかす。



「何か……したいの?」



「うゅぅ〜ん……あぁ〜んもうッ! 何でもなぁ〜いぃ!」



「そうヤケにならないで、ほら」



「えっ……?」



 僕は不意に咲姫の肩を掴み、優しくベッドに倒れ込ませる。そして、押し倒している事を少し意識しながら、彼女の手首を掴み抑える。



 目を丸くして驚く彼女。十センチの距離で目と目が合い、期待の眼差しを僕に向ける。



「百合……ちゃん?」



「咲姫……」



 愛を確かめ合う前触れの様に、彼女の名を呼ぶ。溜め息をつくように、あえて吐息を彼女に吹き掛ける。口臭は大丈夫だ。さっき確認した。この場面で萎えさせてはいけない。



 少しだけ降りる沈黙。僕は咲姫の頬を撫でながら――――。



「早く寝なよ? 夜更かしして肌が荒れたらどうするの?」



 決まった……。決めてしまったよ……。芸人のテンプレみたいにコケてしまいそうな、そんなトンチンカンな事を言ってのけ、僕は敷かれていた自分の布団に戻る。



「え……、えぇ〜!」



 この展開ならば、愛欲をき出しに身体を重ねる、そんな濡れ場に行き付く流れなのかもしれない――だがしかし、そうは問屋とんやが下ろさない。そもそも、僕はイヤらしい事を好まないんだ。恋人に繋がる決定打を与えたくは無いし。



 これから先もまだまだ彼女を焦らし、心の疼く歯痒い想いで、僕の事を好きで居続けてもらう。常に付き合う前のピュアな恋愛が最高に大好きなんだ。



「百合ちゃん! ここまで来たなら……こんな、っもう!」



 当然のごとく、呆気に取られた咲姫からは、狼狽ろうばいの色が見て取れる。その反撃の声がどう飛ぶかは分からないから、僕は先手に廻り、彼女を言葉で抑え込む。



「咲姫は肌のケア怠れないんでしょ?」



「それはっ! そうだけどぉ~!」



 ベッドから降りた咲姫は、僕の肩を揺らす。酔いそう。しかし、彼女をなだめる口は止められない。



「なら一日でもサボっちゃ駄目だよ。咲姫は可愛いんだから、もっと自分を大切にしてもらわないと」



「か、かわいい?」



 咲姫は自分の頬を両手で抑え、ピタッと動きを止める。



「うん、すごく可愛いんだからさ」



「かわいい……かわいい……」



 僕が再びその言葉を口にすると、うわ言の様に独り呟く咲姫。やがて、身体をクネクネくねらせて、小さくピョンピョン跳ね出すのだ。仕草だけでも悶えそうなほどの可愛さを醸し出す。



「うぇへへぇ〜、じゃあ咲姫ちゃん、おやすみするねぇ……!」



 こんなにチョロくていいのだろうか。ここで折れなかった先の展開も考えていたけれど、こういう咲姫の対応はシメたものだ。慣れてこそ来てはいるものの、何度言ったって、『可愛い』という単語には凄まじい反応を示す。そんなにまで自分に酔いれるナルシストっぷりには脱帽である。



 パチッというスイッチの音と共に、部屋には闇が降りてくる。



「百合ちゃん……」



 それぞれが布団に収まり、部屋の電気も消えた薄暗いオレンジ灯の中、咲姫が僕の名を呼ぶ。



「なにー?」



「やっぱ私の布団で寝ない?」



「でも、狭いでしょ?」



「気にしないわよぉ〜……それよりも、何だか寂しいから来て?」



 咲姫は自分の横を「ポンポン」と叩く。綺麗な布団だからハウスダストは立ち上がらないだろうなぁ――と、どうでも良い事を考える。



「まあそれなら……」



 仕方が無い――なんて言わない。いくらレズられたくないとは言え、これだけ求められているのに何様のつもりだって話だ。その位の甘えは喜んで受け入れさせて頂こうじゃないかマイプリンセス。そもそも、先程は乙女心を弄ぶ酷な事をしたわけだし。少しでも尽くさせてもらおうじゃないか。



 何より、僕自身がちょっとドキドキしていたり。イヤらしささえ無いのであれば、それはご褒美だ。

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