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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部二章「百合葉の美少女落とし」
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第77話「ハートの首輪」

「おまたせー」



「おかえりぃ~」



「おかかー」



「オカエリアス……」



「あ、うん。ただいま」



 部室の扉を開けてみれば、声掛けてくれる三人。譲羽は相変わらず多角的で謎な中二風挨拶……ロボットみたいな名前だ。そして、咲姫も仄香もいつものスマイルスマイルッ。しかし、いつもの様子とは違う点が……。咲姫ちゃんがよく漂わせているほの暗い感情が、仄香からも滲み出ているような気がする事である。気のせいかな? まあ、表面を取り繕ってくれるだけでも助かる話ではあるけれど……。



 全ての授業が終わった放課後であった。部活動など名前ばかりなので時間を拘束するわけではないのに、最近は行くのが当たり前の様に部室へと全員が集まる。百合ハーレムとか関係無しに、友だちが少なかった僕にとっては『いつものメンバー』感が嬉しい。……のはずだけれども、楽しい雰囲気が全然見受けられないのが残念。蘭子に対して咲姫と仄香の二人が疑念をいだいている、プチ冷戦状態なのだ。



 会話があろうと無かろうと、ほんわかした空気が通常の僕らであるけれど、今の沈黙はやけに耳に痛い。咲姫は勉強で仄香は携帯いじり。譲羽に至っては中二ポエム書きに勤しんでいるご様子で、各々がやりたいことをやっているのは変わりないはずなのになぁ。



 仕方がない。僕も暇を潰せるよう小説は用意してあるが、机の上で退屈そうに唇を尖らせている仄香を放置できないだろう。彼女は、この空間を壊したくはないけれど、でも、僕との関係性をうれえているのか。でもあんまり刺激したくはないけれど、誰かを暇にさせてしまえば、なんの為に作った部活なのか分からなくなってしまうし……。写真のためではなくもちろん百合のため。ここは何か話が盛り上がりそうなことで彼女らの疑心感を少しでもやわらがないと。



 ただ、どうやって、この静かな空間を打ち破れるかだよなぁ……。そう悩み考えていると、唐突に蘭子が沈黙を破る。なんだなんだ、セクハラかな? ウンチクかな?



「百合葉、手でハートマークを作ってくれないか?」



「何を突然……。こうっ?」



 僕は作ったハートを前に突き出してみせる。



「……ふっ、うふふっ。素直に作っちゃう百合ちゃんかわゆぅ~っい」



「あっはははっ! マジ素直すぎて激カワじゃん!」



「……ハッ! これはギャップ萌えというやつ……ナノ……ッ」



「な……」



 静かだった空間が唐突に爆笑の嵐に包まれ――もちろんうるさいのは手を叩いて騒がしい仄香だけなんだけど。咲姫と仄香が僕を煽り、譲羽までもが萌えのダメージを負ったポーズを取る。精神攻撃でも受けちゃったの? 今ので?



「ふふふ。ははっ」



 そうして、ことの発端である蘭子も耐えきれなくなったのか、少し間を置いてから笑い出す。そのせいで余計に恥ずかしく、耳まで紅潮してしまったのが自分でよく分かる……。ところで咲姫ちゃん? 携帯で写真を撮るのは勘弁してね?。 僕は君たちの天使で可憐な姿を拝みたいのであって、僕の醜態を晒したい訳じゃないよ?



「さぁ~てっ。百合ちゃんの貴重な萌え萌え写真、一枚千円で売っちゃおうかしらぁ~」



「地味に高っ! 携帯燃やすよ!?」



「やぁ~ん! 怒りの炎を燃え燃えさせないでぇ~?」



「すごくつまんないよそのネタっ!」



 なんのネジが外れたのか。咲姫ちゃんのズレたギャグが絶好調である。つまらないのがまた良い。



「ぷぷぷっ。さっきーのボケ地味にウケるわ」



 仄香があざ笑おうとも咲姫は気にはせず「き、きらり~んっ」と、昭和のアイドルみたいなポーズをとって誤魔化す。当然、可愛いオブ可愛い。彼女の冗談がツマらなさを通り越してもはや可愛いんじゃないかと思えてくるのは、きっと彼女のギャグ感性が伝染しているからに違いない。



「一枚壱千円とは価値が分かってない咲姫ちゃん……。この闇魔界の貴族たるアタシが、百合葉王子の恥ずかしい写真を壱万円で……買い取るっ」



「ユズ、貴族だったの……」



 今度は何キャラなのか中二ゼリフを吐きながらおもむろに譲羽が財布を取り出す。ってちょっとちょっとちょっと本気!? 額が冗談になってない!



「額を釣り上げ過ぎだよ……。ていうか、本気じゃないよね?」



「もちろんよぉ! 百合ちゃんの恥ずかしい写真はわたしだけのメモリーにっ、一生っ! 保存しておくんだからぁっ!」



「なんとっ! あたしもマイメモリーに欲しいぞぉっ!」



「それもやめてっ!?」



 隙あらば怖い姫様である。もちろん仄香も乗っかるわけで……。んんん? 気付いちゃったんだけど、咲姫ちゃんもクソレズの素質アリ? ただのレズではなくて?



「ま、まさかこれは咲姫ちゃんの、ジョークというヤツなの……? 騙されてしまったっ!」



「何も騙して無いし……」



 そして今更気づく流石は天然ゆずりん。本気で売るわけはないのだ……ないはず。中二病とぼっち歴の長さも相まってか、素でボケてくれる。ほんと天然記念美少女。



「いやいや 、大変面白いものを見せてもらった。が、そちらは別に本題じゃない」



 僕らがわいわい盛り上がっていると、蘭子がこちらに向き直り、開いた指の長さを眺めていた。な、なんだ?



「九センチ位だろうか……。ありがとう、参考になった」



「何に使うの、そんなデータ」



 セクハラではなさそうだし、本当になんなのだろう。彼女の謎の測定に疑問の目を向けるも、蘭子は変わらず飄々(ひょうひょう)としていた。



「なに、君の首の直径が気になったモノでな」



「はへっ?」



 あまりに脈絡無さ過ぎて気の抜けた声を上げてしまう。何を企んでいるのだろう。



「首周りをハートマークで包むように、手を形作ってみてくれ。多少ハートが崩れても構わない」



「なんだなんだー蘭たん。不思議な踊りの始まりかー?」



「何かしらねぇ」



「でもワクワク……スルッ」



 皆が不思議そうな顔で自分の首に手を掛ける。美少女が集団で自ら首を絞めてるように見え、決して眺めの良い光景ではない……いや? 集団心中と考えれば、ヤンデレ百合みたいで悪くはない……?



「作ったハートマークの横の長さは、その人自身の首の直径と大体同じなんだ」



「へぇ~」



「なる……ホド」



「ほほうほう」



 一同が感心する。しかし、まだまだ疑問ばかり残っているので僕は訊ねる。



「それがなんの役に立つの?」



「君の首輪を作るならどのくらいだろうかと測ろうと思ってな。これでようやく製作に当たれそうだ。本当にありがとう」



「待って! 僕に何するつもりなの!?」



「ナニって……。結婚もセクハラも駄目なら、君という犬を飼いたいなと思ったまでなのだが?」



 無表情のまま蘭子が首を傾げる。



「ナニそれ違う! どんなプレイするつもり!?」



「私は実は寂しがり屋でさ。君をうちで飼えれば心の隙間を埋められるだろうと思って」



「そんな事で人をペット扱いしちゃ駄目だよね!? 犬飼いなよ!」



「私の気持ちを知っている癖にそう言うな……」



「気持ち……?」



 蘭子が僕の顎に手を掛けクイッとあげる。ユズが珍しく大きな声で「きゃ~っ!」と言いながらカメラを構えている事なんか気にしてられない……。君は百合厨なのレズなの!?



 くっ、婚姻届けもネタとして誤魔化したから、ヤケになってるのか蘭子はっ! みんなが居るタイミングでだなんて……っ! 告白されたそうだった場合どう誤魔化す……!?



 ゴクリと喉を鳴らし僕が戸惑っていると、彼女が口を開けて口角だけを僅かに吊り上げる。



「ふふっ……。冗談だ。君はからかがいがあって、実に楽しいな」



「あ、うん……そ、そっかぁ」



 緊張が解けて、かなり冷や冷やさせられた。うう……さっきの仕返しだろうなぁ。椅子に座る気力もなく僕は地べたにペタンと座り込んでしまい、それを見た蘭子が一層ニヤリと口元を緩ませた。



「おお、やはり私のペットになってくれるか?」



「そんなの御免だよ!」



 へたり込んだまま僕は叫ぶ。



「我が下僕となった百合葉ちゃん……イイかも……」



「恍惚としながら言わないで!?」



 そんな僕を見て、純粋であった筈の譲羽までもが悪乗りしだす始末。そんなゆずりんほっぺをムニムニしてやろうかなぁ……と思っていると、仄香と咲姫がズイッと僕の前に来て……。



「ねーねー! せっかくだから今日一日私達のペットになってよ、ゆーちゃん! ぐへへっ……。これでいっぱい遊べるねぇー?」



「あ、それいいかもぉ~。百合ちゃんを私好みに色々イジッてみたいしぃ〜」



「なんだって……!」



 僕の頭と頬を撫でながら、それぞれが別々の意味合いで恐ろしい事を言っている。前には美少女、後ろにも美少女。逃げ場なんてなくて……。くっ……! なんでこんなときばかり団結するんだ! このイジリから開放されるにはどうすれば……っ!



 結局、外の雨の気配が強くなるまで、ノリに乗った彼女らをなだめ諦めさせるだけに、全神経を注ぐ羽目となった。

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