第75話「譲羽の体調」(追加)
譲羽エピソードが物足りなかったので追加します。
「落ち着いた? 痛み止めとか足りそう?」
お昼休み。僕はトイレに行く譲羽に着いていった。授業中も合間の時間も、ずっと寝てたから心配だったのだ。
「寝たら……落ち着いたカモ。薬はある……。今は、顔を洗いに来たダケ」
「あはは。ずっと寝てたもんね。そんなに具合が悪いなら保健室に行っても良かったのに」
「いや、それは……寝れなくてアニメ見てたらカラ……睡眠不足」
「そっか。寝付けないのも辛いね」
むむむ……。そんな体調の悪さを抱えてるモノだったのか。以前から授業中に寝てる姿を見ていたけれど、元々なのか、僕のせいだったりしないといいけれど。
顔を洗い、ハンカチで顔を拭く。わっしゃわっしゃと。咲姫なら肌が傷むとか怒りそうだけど、僕はそんな姿を見るだけでなぜかほっこりしてしまい、何も言う気は無かった。
「目、さめた?」
「ン……まあまあ……。漆黒の宵闇を破る、暁の始まりが舞い込んできた気分……」
「そ、そっか」
中二病な喩えだけど、つまり眠くてモヤモヤが、晴れつつあるって事だろう。少し綺麗になった顔。しかし、陶磁器のような肌に青いクマが目立つ。お腹の痛みも、もし精神的なものなのだとしたら……。
なんとか……出来ないものか……。
「ユズ、ちょっと来て」
「な、ナニ……?」
僕は彼女の手を引いて、個室の中へ。そして、鍵を掛ける。まさか、自分が被害者だったのに、やる側に回るだなんて思ってもみなかったけど、僕が譲羽にセクハラをするワケじゃない。
僕は驚いて目をしばたかせる譲羽を優しく抱きしめて、頭のてっぺんにキスをした。唇を、優しく押し付けるように。
「具合悪かったら……僕に言ってね? そりゃあ、眠いのもお腹が弱いのも普段からかもしれないけど、それでも心配だからさ」
「うん……」
「我慢しないで、僕を頼って? ユズは具合悪そうでも、全然相談してくれないんだから。僕は寂しいよ」
「うん……」
「ね? 約束だよ?」
「うん……」
指切りなどはしないで、目と目を交差させる確認。嬉しいのだろうか、少し潤むその目を見たら、それだけでもう約束は半分叶ったような気がした。
だが、そんな瞳は少し細まり、そして口を開く。
「他の子にも……こういう事……スルノ?」
「した事ないよ?」
今のところは……ね。僕らのメンバーの中で、一番甘えんぼ扱い出来るのは譲羽くらいなモノなのだ。人を大胆に甘えさせるというのは、タイミングだったり、相手を選ばなくてはいけなかったりする。蘭子の頭を冗談で撫でる事はあっても、普段から甘えさせる事なんか出来ないだろう。そんな中で、甘えんぼな譲羽なら、こうやって抱きしめるのが一番だと思った。
「そう……ソッカ……ソレなら……」
僕の偽りの無い言葉に安心したのか、譲羽は僕の胸に顔を押しつけ、より深く抱きつく。
「じゃあ、アタシが具合悪くなったら、百合葉ちゃんが抱きしめて治してくれるのね……」
「あはは。いいけど、僕そんな治癒力もってるかなぁ」
とんでもない約束になりそう……でも、いいやと思った。彼女が苦しんでいるのなら、僕が出来るのは、側で支えてあげる事くらいだろう。いくら愛憎劇が好きな僕だって、美少女がただ苦しむ顔は見たくないのだから。
しばし、抱きしめる。少し、泣きそうなのか、彼女の鼻をすする音がする。あとでティッシュを渡してあげよう。
これで、湖の時に半分拒絶してしまったのを取り返したような気がする。いや、まだまだ……。取り返すだけじゃダメで、彼女野の中を僕で埋め尽くさないと。
さあ、もっともっと僕に夢中になってくれ。僕の中の心の壁を乗り越える為に、君の愛を本気でぶつけて欲しい。僕はどこまでも、友達という名を利用する。女同士の、ちょっと行き過ぎた友情を言い訳にする。君が、君たちが僕という卑怯な存在を認め受け入れるまでは……。
でも、それでも、僕は寄り添ってあげられる。君を愛してあげられる。ぜったいに、ぜったいに。




