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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部一章「百合葉の美少女集め」
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第15話「店員ごっこ」

 みんなで二つの机に寄り添ってお昼ご飯を食べ終えたあと。長い昼休みも終盤に差し掛かる。



 唐突に来た担任によって、咲姫さきは学級委員長の仕事へとかり出されてしまい少々寂しさを覚えつつ。今は仄香ほのか譲羽ゆずりはに色々と構っているのをゆるりと眺めていた。出会って二日目なのに、よくもまぁ仲がよろしいものだ。見ていて微笑ましい……。これが良いとこのお嬢様学校の特権なのだろうか。金持ち喧嘩せずみたいな感じで、金持ちすぐ仲良しとか?



「ゆずりーん。さっきみたいな女王に目ぇ付けられっと大変だからー、"ごめん"くらい言えるようにしないとねー?」



 「こえーぞぉー?」と仄香が熊のポーズで恐怖を煽ると「ひえっ」と譲羽が怯える。そのポーズには女王要素を一つも感じないけど?



「というわけでぇー! ゆずりんのコミュ力を上げ上げしちゃうぞうっ!」



「お、おぉ?」



 両人さし指を上げ上げする仄香に他人事のように歓声を囁く譲羽。君のコミュ力の話だよ?



 ともかく、唐突のコミュニケーション向上学習の始まりなのであった……。謎である。これがお嬢様学校のテンション? いや違うか。



 そもそも、仄香がコミュニケーションを教えられるのか不安である。仄香のはコミュニケーションというより感覚的なセンセーションなんじゃないのかと思うなぁ。もしくはディストーション。空気が明るく歪むし。もはや異次元なんじゃないかと錯覚するレベル。



「じゃあゆずりんがもっと普通に喋れるように、コンビニ店員の真似してもらうかー」



「はぇー」



「えっ、どうしてそうなるの……っ?」



 唐突の提案に譲羽と僕は困惑する。いや、譲羽は口をぼんやりぬぼーっとしているのでどうだか分からないけれど。



「セリフはだいたいパターン決まってるしぃー? 丁寧語を噛まずに言えないと、くだけてでも喋れないじゃん? じゃんじゃん?」



「な、なるほど……」



 意外と練られた内容だった。心の片隅で感心する。



「じゃああたしがお店に入るところから始めるねーっ。ギギギギギ……」



「トビラ古過ぎじゃないっ? そこは『ウィンッ』でしょ」



「へへっ。良いツッコミ、ありがとう」



「ど、どうも……」



 僕のツッコミが褒められてしまった。いや、なんだ……いきなりボケをかますだなんて。



「さあ、ゆずりん言ってみましょー!」



 無茶振りに「えぇっ……?」とあたふたしつつも、「さあさあ!」と仄香が煽れば、やがて目元をキリッとさせ可愛い、可愛い譲羽が口を開く可愛い。可愛い。



「いらっさいまっ……! せ……」



 全然駄目駄目ゆずりんであった。しかし、大変結構に可愛いため合格点で良いと思いました。



「店員さん、スマイルくーださいっ!」



 しかし、仄香は気にせず定番のボケを切り出す。



「いきなり困らすんじゃないの……」



「……アナタの笑顔の方が素敵デスヨ?」



「口説く場合なのっ!? そんでそこは噛まないのっ!?」



 譲羽の突然の饒舌キザゼリフにビックリだ。



「もうっ、ゆずりんったらー! 好きーっ!」



 そうして微笑ましく抱き合う二人。それはコミュ力上げ上げ練習でも何でもなく、ほのかに甘い百合がそこに広がっているだけだった。



 だが、いつまでもそうしていられないのか、目をカッと開く仄香。



「はっ! ぎゅーしてる場合じゃない……! 店員さん肉まん二つ下さい!」



「あの、えーっと……。あ、温めましょうか?」



「なんで冷めてるの! 蒸し器に入れ忘れちゃったのっ!?」



「えっ……。アレ……?」



「あっ、ごめんね。気にしないで」



 僕の脳内では蒸し器に入っていたのだけれど、ツッコミが細かかったのかも……。語調を強くし過ぎたし譲羽が戸惑っている。本当にごめんよ、可愛いけど。



「やだなー、もうあったまってるじゃんかー! 店員さんの胸元に二つ……っ!」



「セクハラかッ!」



 そんな空気を読んでか読まずか、仄香が次のボケを繋げてくるのでやはりツッコむ。それでも譲羽は考えるように首を傾げ、次にをける。



「店内で、お召し上がりに……なりますか?」



「コンビニはお持ち帰り前提だから! いや、"お持ち帰り"も駄目だから!」



「じゃあ、ついでにあたしも暖めてもらおうかな……っ! トイレまで案内してもらっていいですかー?」



「アウトッ! それアウトだからねっ!」



「ただ今、スイーツセールもやっておりますので、そちらも是非……」



「セールなんか無くったって、毎日来るよ。あたしは甘い物に目が無いんでね」



 挑発的な表情の仄香が、うっとりした譲羽の頬を撫で回す。いやぁ、大好きな百合百合なんだけど、喉が涸れて、もうツッコミたくない……。



 しばらくの間さわさわと触り合う二人。やがて満足したのか仄香が僕に向かい、唇を尖らせる。



「もー。途中からイイカンジだったのに、邪魔するんだもんなー、ゆーちゃんは。ツッコミがワンパターン過ぎるよ。叫んでるだけじゃん。もっとなめらかなハイレヴェルなツッコミを頼むよー」



「そんな無茶な……」



「百合葉ちゃんのツッコミ練習だと思えば問題無い……カモ。普段と違って面白いから、あの調子でこれからもツッコんで欲シイ……」

 譲羽がニンマリと微笑みながら言う。彼女の会話トレーニングだった筈だけど……? もしや僕がツッコミキャラとして定着する日も近いのかな?



「今度はゆーちゃんが店員やってよ。うちら二人がお客さんやるから」



「必要ある?」



「いいからいいから! 楽しいでしょー?」



「ま、まあ……」



 仄香に言われ、僕は半ば強引に店員役へと転ずる。それなりに百合百合してるから楽しくない訳はないけど……。



 どちらかというと妙なテンションで、平静を崩されてしまう。



 とりあえず定型句から始めるか……。僕は咳払いしてコンビニ店員になりきる。



「いらっしゃいませー、こちら温めましょうか?」



「はい、うちらみたいにアツアツで……ッ!」



 案の定ボケてきた仄香に、どう対応しようか考えながら、ややテンポを下げて口を――腕を動かす。



「かしこまりましたー」



 レンジを操作するジェスチャーを取る。ここまでは普通だが……。



 少し間を起き仄香が。



「ウィーーーン」



「……何それ?」



「えっ……? レンジの音」



「ああ、ありがとう……」



 子供っぽくて可愛いなぁと思ってしまう。しかし、沈黙を生まない為の、無意識で空気を作る行動なのではとも。彼女、お笑い芸人に向いてるんじゃない?



 やがて「ピーッ、ピーッ、ピーッ」と仄香が言うと、僕は仄香が言ったカップルネタに対するように、二人を交互に見てボケをぶつける。



「……すぐ冷めますのでご注意ください」



「ひどいっ!」



「温かいものと冷たいものを、"別々に"お入れしますね?」



「ちょっとぉー! 『別々に』を強調してないーッ!?」



「では別れ……おっと、失礼しました。お分けしますね」



 矢継ぎ早なイジりラッシュに、仄香は渋い顔をしている。いや、なんかこういうギャグを見たことある気がするんだ。



「ぐぬぬ……。おでぇん! お願いします!」



「かしこまりました。どれになさいますか?」



「おすすめトップファイブで!」



「かしこまりましたー」



 仄香に言われ、僕は



 僕とてお笑いはちょっと好きな方。ここでもボケたいところ……!



「では、コンニャク、白滝、豆腐、昆布巻き、大根――の以上でよろしいでしょうか?」



「超ヘルシー! 気ぃ利くじゃん!」



「ええ。カロリーが必要無さそうな体してるなぁと思ったので」



「なっ! あたしがガリガリだと言いたいのかぁ! おっぱいに栄養をよこせよう!」



「貧血で倒れちゃいソウ……」



 仄香と譲羽が渋い顔をしてケチ付けてくる。うぅ~ん、確かに、いくら仄香相手とはいえ今のボケはよろしくないかな。すぐにフォローをなさねば……。



「僕は仄香みたいにスレンダーな子も好きだし、ユズくらいにムニムニしてる子も可愛いと思うよ? 二人とも、女の子らしい魅力的なスタイルでさ……」



「出た! ゆーちゃんのキザ王子キャラ! ひゅーっ!」



 ウィンクまでしたら、仄香に言われ少し恥ずかしくなる。ちょっとは挽回できたらいいなと思いつつ、でも僕はイケメンではないし美人でもないから、お姫様ぶりたい咲姫以外の子に効くのかどうか分からないけれど……さて、茶化す仄香はともかく、ユズはどんな反応をするかな?



「あ、アタシにそんな小技を使っても意味無いワ……」



 言いながら譲羽は『プイッ』とソッポを向く。頬が例によって真っ赤なので、効果は抜群だろうか?



 美少女たちとのお遊びコント。まずは僕がイケメン感を出してさもモテる人間なのだと刷り込みたいところ……。モテモテのイケメン女子とは……まあ、こんなものなのかなぁ。



 キザなのもいいけれど、もっと会話でも気配りが出来るようになりたいものだ。

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