第63話「旅の終わり」
朝食を終えた僕たちは、お花見祭りの屋台をしばし巡っているうちにすぐに帰り時間となって。
そして今は大きな駅のバスターミナル。太陽が随分と傾いてはいるものの、まだ夜には少し早い時間帯。とは言えやはり連休のド真ん中なので、行き交う人が多い。
僕らは迷惑の掛からないように暗がりのあまり人が通らない場所で、渋谷先生を半円で取り囲むような形で並び立っていた。旅行の二日間と長いバスに揺られたせいで、みんなの顔にはどこか疲れが浮かんでいる。
「皆、友だちとの旅行が楽しかったからと言っても、家に着くまでが遠足だからな? 気をつけるように」
「さいごのさいごでセンセーらしくしないでくださいセンセー!」
「それに……遠足じゃナイ……」
「馬鹿者っ。わたしは顧問として引率し、君たちがハメを外さないか見守っていただろう。これで目を離した隙に事故に合われちゃあ、先生としての立場がだな」
「ハメを外してたのは……楓ちゃん……」
「結構お酒飲んでたわよねぇ……」
「しっかりして欲しいものだ」
「ははは……」
そんな、遠足の帰りみたいな約束ごと。みんなは、この旅行で新たな一面が露呈してしまった先生に、次々と小言を口にする。まあ、このくらい人間味がある方がいい……のかな?
「いいか? わたしはこれに来たところで、一円たりとも得をしないんだ。だからちょっとの息抜き多目に見てくれよー」
「多めなのはお酒の量じゃないのぉーっ?」
「なぁ~に上手いこと言ってるんだ火野仄香くぅ~ん。君はその調子を国語の成績にも生かして欲しいなぁ~?」
「へぇーん。話すのと勉強とは大違いだもんねー」
「まったく、口先ばかり達者なんだからなぁ……」
やれやれと先生は肩をすくめる。確かに時おり、仄香の切り返しにはびっくりさせられるのに、成績はお馬鹿……。天才と紙一重なのかな。
「とりあえず、何も問題が起こらなくて良かった。はいっ、わたしは責務をしっかり果たしたぞ? 帰り道の事まで面倒を見たくないぞ? ではなっ」
なんて言ったかと思えば、手を叩いて彼女は颯爽と地下鉄の改札口へ向かうのだった。今回の旅行では意外な面を見せられ困惑したものの、あういうハッキリとモノを言う自由奔放なかっこよさもまた、憧れてしまうかもしれない。
「じゃあ僕らも帰ろっか」
「うぁーい」
そうして、僕らは旅行の疲れからなのか、あまり話さずにそれぞれの帰路についた。
本寂しいからここにもちょっとイベントを挟みたかったのですが、
思い付かなかったのでスルーします……。




