第14話「氷の女王を仲間にするの?」
「なんなのアイツぅっ!」
保健室から出るなり仄香が地団駄を踏み怒りをあらわにする。
譲羽の脚を保健の先生に診てもらったけど特に怪我もなく、痛みもないようだからとりあえず安静に――とのことだった。
そうしてようやく教室へ戻ろうという最中、途端にピリピリと怒りを込み上げる娘が一人。
「なぁーにが"大人"よっ! むしろ全然子供じゃんっ!」
「まあ落ち着いてよ、仄香」
宥める僕。ゆずりんがイジメられたようで許せないのだろうか? もしかしたら面倒見の良い子なのかもしれない。
「たまに居るでしょ? 大人っぽく振る舞いたい子。謝らない事を指摘しただけで本人は怒ってなかったみたいだし、許してあげなよ」
というか許してあげて? あんなにも自分を貫く個性的な子はかえって好感を持てる。しかも美少女と来れば当然、僕の百合ハーレムのメンバーに入れて然るべきなのだ。
僕の言葉に「うぅーん」と顔を歪ませ唸る仄香。仕方ないよなぁ、あんな言い方じゃあ人に嫌われて当然だもの。あの子を仲間に入れるには一苦労しそうだ。
「あ、あの……」
それをどうしようかと苦悩していたところ、譲羽が恐る恐る手を挙げ、申し出の合図をする。
「はっ! ゆずりんが何か意見をっ!」
「いやその流れはさっきもやったからね」
「バレたかー」
「バレるよ……」
怒りのテンションから打って変わって。こんな時でも相変わらず楽しい娘である。
「どうしたのぉ~? ユズちゃん」
咲姫が譲羽の顔を覗き込み、まるで子供をあやすような口調で問う……いやいつも通りの口調だったね。可愛いよね。
「あの人、怖いケド、たぶん悪い人じゃない……気持ち、分カル……」
「あの人って、鈴城さん?」
僕が訊ねるとコクリと頷く。ささいなトラウマになってもおかしくは無い事件だったのに、受け入れるなんて気丈だなぁ……。渦中に居た本人は肯定派みたい。お姉ちゃん泣いちゃうぞっ!
「でもなー」
「ちょっと……ねぇ」
しかし仄香も咲姫も否定的である……。うーん、仕方がない。大きく打って出てみるか。
「ちょっと聞いて?」
パンッと手を叩き皆の視線を集める。
「僕はね、あの子と仲良くなりたいんだ」
キョトンとする二人。一つ間を置いてか「えぇっ」と仄香が渋る。咲姫もまた、浮かない表情である。
そんな中、目をキラキラと輝かせて僕を見つめる譲羽。
「な、なんで……な、ノ?」
見つめられたまま問われる。この場合は純粋に疑問を持ったのではなく、返答に期待しているのだろう。いつもドモッてしまう彼女もまた一人ぼっち体質のようだし、答えは決まっている。
「彼女、たとえ冷たく無くてもあんな言い方じゃあ一人ぼっちになるでしょ? せっかく個性的で面白そうな子だし、僕たちと友達になれたらなーって思うんだ」
「えぇーっ! 氷の女王を仲間にするのぉー!?」
「氷の女王って……」
なんじゃそりゃ……。でも見方によってはひたすらに人に冷たいような映り方だからなぁ。仕方がないのかもしれない。
「氷の女王でしょー。あーゆー系は性格きつそーだし、やめといた方がいいんじゃなーい? 顔はいーけど、ジョーダン通じないのは辛いよー」
「でも、あれじゃあずっとクラスで浮いたままになっちゃうよ。目の前の子がそんなんだと、僕は気になるかなぁ」
気になるも何も、美少女だからだけどねっ。美少女というのは全ての理由になりうるのさ!
「そこまでお人好しする必要なくないー?」
まあごもっともな意見ではある。そんな仄香の言葉に「そうねぇ」と咲姫。うーん、賛成に回ってくれるだろうか。
「咲姫はどうかな?」
小首を傾げ顎に人差し指を添え見たとおりの考えポーズを取る咲姫。サマになってるじゃん可愛いよ?
そうして一通り思い巡らしたのか、咲姫はポージングをやめ口を開く。
「ん~っとねぇ~。わたしは無視で良いと思うのぉ」
「……へっ?」
いや否定的なのは分かったけど……えっ?
「"無視"?」
「そうよぉ。というか、無理して関わらないってだけかなぁ~」
なんだ安心した。愛しのマイプリンセスがイジメに走るのかと思った……。無視よくないっ。だけれども、
「……じゃあ咲姫は一緒のメンバーに入れたくないんだね?」
「うん、そうね」
僅かに微笑んでいるのに、その表情はピシリと冷たく、同情なんてする気もない――そんな本心さえ滲み出ていた。
「そっか、まあユズが許していても二人がそういうなら仕方ないかな」
二人ともゆずりん溺愛っぽいからなー。イジメられようものなら許さない、もはや親バカのレベルだったりするのかなー。まだ出会って二日目なのに? 早くない?
まあ不器用な美少女を守りたい気持ちはみんな共通なのだろう。
それはともかくだけど、だけれどもっ。鈴城さんを諦めるとな……? まさかっ! そう簡単にあんな個性派美少女を諦めてなるものか……っ!
「さあ、さっきのことは忘れてお昼にしよっか」
辿り着いた教室の扉を開けながら僕は言う。中の様子を見ても件の彼女は居ないことだし、今はこの子たちとの食事を楽しもうじゃないか。
そうして僕の中で、絶対に僕のハーレムメンバーに引き入れてやる――という決意の炎がメラメラと燃え出すのである。




