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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部二章「百合葉の美少女落とし」
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第55話「夕の御膳」

 四角いテーブルのうち、蘭子を上座にしてその左手に仄香と譲羽が、右側には僕と咲姫が座る。咲姫の側には冷蔵庫があるから、いつも通り彼女がお茶くみ係になっちゃいそうだ。



 目の前に並べられているのは夕の御膳。日本料理で揃えられていて、茸の炊き込みご飯、キクラゲと玉子のお吸い物。主菜に刺身の盛り合わせとしゃぶしゃぶの鍋。そして、副菜として彩り豊かなおひたしと煮豆が添えられている。



 しかし、飲み物はポットに入った熱いお茶かオレンジジュースか、はたまた冷水かという選択肢で。本来なら問題ないのだが、仄香はそんな普通なのじゃあ乾杯の特別感が無いと、急遽お土産のしそジュースを買ってきたのを五人分注ぐ……しそ? それでも乾杯向きじゃあないのでは?



「これは乾杯の音頭かー? 音頭ってやつかぁーっ?」



「……やるなら今回こそ、ちゃんとかけ声してよね。前はファミレスで勢い任せだったし」



「へっへーっ。このあたしを誰だと思ってんの?」



「つまりボケること確定ということなのかな……?」



「それでは~? いっせっせぇーのよいよいよいッ!」



「それは違う音頭だよね?」



 案の定ボケるのであった。僕は彼女の肩を掴んで、ニッコリと微笑む。



「ごめんごめん。乾杯の音頭だから、祝いの言葉で始めないとねー。フリだと思ってボケちゃったーっ」



「祝い? 何もないけど」



「う~ん。合宿出来た祝いかしらぁ」



「譲羽が宿泊券を当てた祝いか?」



「コレ……合宿ナノ……?」



 一人だけ妙にテンションが高く、他四人は疑問が浮かぶばかりであった。



「部活のみんなで集まったんならそりゃあ合宿で祝い事よぉっ! めでたいめでたいっ!」



 仄香はカンカカンカカンカンッとお椀をリズミカルに叩いて、よくわからないけどめでたいアピールを繰り広げる。



 そしてようやくグラスを掲げたかと思えば……。



「では、ゆーちゃんの妊娠を祝しましてぇー」



「ちょっと待って……!?」



 爆弾発言である。というか身に覚えがない濡れ衣だ。



「何だと……。相手は誰だ。シたのか、なあ百合葉っ」



「落ち着けアンタ!」



 僕は蘭子の頭をペシリと叩く。しかし、彼女の気持ちは静まらないようで、ジロリと咲姫を見やる。



「そういえば、どこぞに手の早い姫様が居たような気がしたな。まさか彼女と……」



「あら。ところ構わずさかっている人とは違うわよ?」



「はっ?」



「んん~?」



「アンタたち落ち着きなさいって! 嘘に決まってるでしょ!?」



 ちょっとこれは度が過ぎている。レズジョークとは言え修羅場る予感しかないよ?



 そんな二人の間に手刀しゅとうを投じ、間に割って入る仄香。



「へっ、残念だったね……。ゆーちゃんのお相手はあたしさっ! 流し目するだけで妊娠するというこの瞳でねっ!」



「なんだと? ではもう二度と使えないように、その目をくり抜かないとな」



「そうねぇ。それと、これ以降は百合ちゃんの半径一キロ以内に近付くのをやめてもらえるかしらぁ~?」



「へーんっ。そんなの守るわけ無いもんねー。一ミリ未満まで近づいちゃうもんねー」



 そう言って、料理もコップもほったらかしに、仄香は机から回って僕の方へ。しかしそれを阻もうと動き出す咲姫と蘭子。



「百合葉ちゃんを巡って、みんな取り合っテル……。これはお決まりのセリフを……」





 取っ組み合いの姿勢を取る三人に対し茶番だと思ったのか、譲羽は仲裁に入らず煽るように僕を促す。



「僕のために争わないでぇ~。……じゃないよっ! 仄香も話をややこしくすんなっ」



「へいへーい」



「仕方ないわねぇ」



「ふんっ」



 この子らは相変わらずの真に迫るノリノリっぷりであった……。お互いにぶかり合うことは無かったけれど、その敵対する気持ちが本気で無いことを祈りたい。



 そうして結局、乾杯を忘れる僕らだった。



「炊き込みおいしーっ! 刺身おいしーっ! しゃぶしゃぶ、おいっしぃー!!!」



 一口食べては大きく頷いて感想を述べるアホの子1名。その勢いは米粒でも飛んできそうな勢いだ。



「仄香、もっと落ち着いて食べよっか」



「食べ物は逃げたりしないわよぉ~?」



「仄香ちゃん……食いしん坊……」



「とても同じ女の仕草には見えないな」



 みんなが手を止め呆れている中、仄香だけは思う存分に料理の味を楽しんで……いや、そんなに早く食べて味わえてるの?



 お米なんか、体育会系男子さながらにガガガッとかき込んでいたりするし。可愛い見た目にそぐわないのは、おてんばな彼女らしいと言えば彼女らしいけれど。



「うーん。豆が豆豆してるから取りにくいぞぉー?」



 そこに、新たな標的となった煮豆の添え物。小皿を持ちながら戦う仄香だが、見ているこっちは豆を滑り落としてしまわないかハラハラである。



「まめまめしいとは、よく働くとかそういう意味だから、ちょっと使いどころが違うが……」



「ようは細かいってことじゃん? んー、これは食べにくい」



 滑る黒豆などとは違って、大きく柔らかな煮豆に何を手こずることやら。五回に一回は食べれているかという、フォークでも渡して上げたい不器用さで、彼女は悪戦苦闘している。



 しかし仄香は、突然僕らにニヤけてみれば、箸で小皿を寄せて。そして大きく振りかぶりだし……。



「そぉいっ! よしっ、これで食べられるっ!」



 なんと煮豆に刺しにかかったのだ。



「こらっ! 刺して食べちゃあいけません!」



「えっ、マジぃー?」



 ついつい声を荒げてしまう僕。だけど仄香は首を傾げるばかりで全く反省などしていない様子だ。



「日本の箸のルールだぞ。常識じゃないか」



「そうよぉ~? 寄せばし刺しばし渡しばしぃ~ってねぇ~」



「かき込み箸や叩き箸などもあるな」



「えぇー。でっもぉ~? 学校で習ってないから分からなぁ~いっ」



「この子ったら……」



「品性の欠片も無いな……」



 ジェスチャーでその意味を伝えようとする咲姫と蘭子だったが、全く意味を成さなかった。ところで、歌うように禁じ箸を挙げる咲姫ちゃん可愛い。



「寄せてたし刺してたし叩いてたし掻き込んでたし……。仄香、ほぼパーフェクトだよ」



「えへへぇ~。それほどでもー」



「褒めてないからね?」



「行儀の悪い娘だな……」



「みっともないわねぇ……」



 肩をすくめる僕ら三人。蘭子だけじゃなく咲姫までも、オブラートに包まず直接指摘してしまう始末。しかし、流石に本気で嫌うそぶりは無く、仕方がないと肩をすくめ呆れているだけであったり。



「でもでも……その自由さが仄香ちゃんの良いトコロ……」



「あぁーんもうっ、ゆずりん分かってんじゃーん! 好きーっ!」



 そしてそんな保護者組の心配なんてお構いなしに、隣同士抱き合う譲羽と仄香だった。そうだよ、僕はこういう百合が大好きなんだよ。あまり修羅場らないでほしいよ。



「あっ、そいえば。もしかしてもしかして!」



「んっ……?」



 回していた腕を離して思い出したように背筋をピンと伸ばす仄香。



「割り箸もいけない!? まさかのタブー禁じ手ってやつ!?」



「……大丈夫だよ」



「よかったー。さっきこの箸叩いてたらヒビ入っちゃってさー」



「それは駄目っ!」



 焦る僕。彼女の指を開いて箸の具合を見ようとするが、



「へっへー。うっそぉーっ」



「まったく……焦ったよ……」



 なんでこういうときだけ無駄に頭が働くのかな……。不思議なお馬鹿である。



 ようやくゆっくり食べ始めた僕ら。仄香だけ先に食べ終わるんじゃないかと思っていたけれど、譲羽が餌付けの如く「これ食ベテ」「それも食ベテ」と仄香に食べさせていくから、以外と全体のペースはバランスが取れていたり。というかゆずりん、好き嫌い多すぎだからね?



「しゃぶしゃぶや刺身も当然美味しいが、お吸い物までいい味が出ているな。和風ダシと玉子に絡むキクラゲの歯ごたえがまた良い」



「ほんと言えてるわー。さすが、山と海のさちの共存って感じだよねっ!」



 同意を求めるように皆に目を配る仄香だが、言われて僕らはふと考えるように無言になる。海……は、刺身の話では無いよなぁと。同時に食べるものとは違うし。



「んっ……? 椎茸は山だとして、海はどこにあるんだ?」



「あるじゃん、ぷるっぷるのキクラゲがさぁー。良いよねーっ、ゼリー状みたいに固まったこの食感!」



「仄香……。まさかとは思うが、キクラゲが海から採れているとでも思っているのか……?」



「なにそれー? キクラゲってクラゲだから海鮮じゃないの?」



「キクラゲはキノコだよ……」



「名前ややこしいわよねぇ」



「山のジェリーフィッシュ……。不思議……」



「味が干したクラゲに似ているから、木のクラゲと名付けられたそうだし……。まあ仕方が無いかもな」



「ほぇ~。どおりで黄色くないわけだわー」



 口をぽっかり開けていて感動も何もないけれど、仄香ちゃんはひとつ賢くなった。



 そんな、アホの子らしくうっかり勘違いを披露しているとき、大きな音を立てて部屋の扉が開いた。歩いてくるのは、我らがよく知るクールビューティーな大人なはずの……。



「はっはっはーっ。君たち楽しんでいるかなぁ~?」



「うっわ先生お酒くさっ! こんな時間から飲んでるのーっ!?」



「昼からずっとさー。久々の酒だったもんだから、随分空けてしまったよぉ」



 旅行で羽目を外しまくりの先生であった。



「君たちのはしゃぐ様子はぁ、二階の窓から見ていたよぉー。いやぁ女子高生がイチャイチャする姿を見ながらの酒はたまらないなぁー。ピッチピチの女の子と桜。っかぁーッ! 一升なんてあっという間だったねぇ」



 なんともおっさん臭い美人だ。しかしその発言は、先生もレズ嗜好があるのか百合好きなのか。ともかく、短いポニーテールで縛り上げておでこまで出している髪型では、顔が真っ赤って出来上がってるのが丸わかりだ。二日酔いなど大丈夫だろうか。



「渋谷先生。そんなに飲んで、明日帰るの大丈夫ですか?」



 僕と同じことを考えていたのか訊ねる蘭子。しかし、先生は鼻を鳴らして立ち上がり、そして大きく胸を張る。



「わたしは強いっ」



「そっかぁ~。なら安心だねぃっ!」



「安心じゃないよっ! 一升は多いよっ!」



 飲んだことはないけれど、日本酒ってかなりきついらしいんだから、それを一瓶だなんて相当な量のはずだ。



「自由にさせてもらっているのは嬉しいですが、もっと引率らしくしてください先生」



「なんだ蘭子ぉ~。ちょっと前まで楓さん楓さん言って懐いてくれたのに、随分冷たいなぁ~」



「……それは十年も昔の話です」



 そんなフラフラしながら座った酔っ払いに注意する蘭子。だが対して、先生は思わぬ新情報を漏らした。



「えっ? 何それ」



「蘭子ちゃんも、楓ちゃんと知り合いだったノ……?」



「そうだ……」



 ため息を付きつつ短く答える彼女。仄香とも以前から知り合いらしいし、譲羽も親を通して知り合いだったというのに、以外と私的な関係が広い先生だ。まさか、うちのクラス自体が先生や学校関係者の知り合いで固められていたりするのだろうか。



「今はこんなのだが、先生は私の伯母だ……。普段はもっとしっかりしているのに……していたと思っていたのにっ。情けない……」



「何が情けないかー。大人って言うのはなー。たまーに羽目を外さないとやってられ……られる……うっぷ」



「先生!? ほら言わんこっちゃないですよっ!」



 まさかこの歳にして飲んだくれの介抱ってやつが必要なのか……っ。僕らはゴミ箱を持ってきたり背中をさすったりと、唐突に慌ただしくなりだす。



 まさかクールでサバサバした先生が、こんな本性があるだなんて。



「はぁ~っ」



 同じ感想を抱いていたのか、蘭子と僕のため息がデュエットした。

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