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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部二章「百合葉の美少女落とし」
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第54話「摩擦係数」

 譲羽を迎えに行ってから戻った僕らは、部屋で五人座り、ことのあらましを聞くことに。



「あーもうやばかったよねー。ふらふらーってゆずりんが洗面台のとこに座り込んだかと思ったら、鼻血がどばーっよ。あれは秒速五滴は超えてたねっ。ビックリだよね」



「のぼせちゃったみたいナノ……。でも、慣れっこダカラ……」



「そういうのは慣れない方がいい気がするが……」



「でも、大事おおごとにならなくて良かったわねぇ~」



「辛いなら無理して僕らに合わせなくても良かったんだからね?」



「だけど、みんなと長くいたお陰で……お肌ツルツル……ほら、仄香ちゃんも……」



「はっ? まじ?」



 自分の頬を撫でながら仄香にサムズアップする譲羽。確かにみんな、見るからにつやつやだけれども。仄香もまた、譲羽の頬を撫で、そして自分の頬にも手を添える。



「ほげぇー! すげぇー! ハンパねぇー! 今あたしらの肌サイキョーじゃん! マサツケイスウがゼロってやつじゃん!? 蚊もツルツル滑って血を吸えないね!」



「大げさねぇ〜」



 キュッキュと音でも鳴らさんばかりに彼女が自分の頬を撫でる。そんな事してたらせっかくのツルツル肌も、痛みそうなものだけれど。



「摩擦係数ゼロとは……。仄香にしては難しい単語を使うな。物理の授業は二年生からの選択だが……」



「むぅっ! 授業で習ったこと以外だって知ってるのはあるしっ!」



「それは驚いた。ことある毎に、そんなの授業で習ってないっ! と言いそうなものだから」



「ちょっとあたしを馬鹿にし過ぎじゃないっ? むきーっ!」



「無理もない判断でしょ」



「お馬鹿だからな」



 猿みたいに怒り両腕を回す仄香の頭を抑えて、その攻撃を凌ぐ蘭子。その姿は完全に漫画によく居るお馬鹿キャラそのものであった。



「お肌ツルツルだと……蚊って肌に止まれナイノ……?」



 そこで首をかしげていた譲羽が質問。



「いや、そんなことは無いと思うが……」



「蚊の足ってすごい細いものねぇ。止まれるんじゃないかしら」



 せっかく女子らしくお肌のトークにお花を咲かせだしたと思えば、虫トーク……。マイペースな子たちだ。



「でもここまでツルツルならお肌のケアとか不要だね! 化粧水とかぽーいだね!」



 仄香はスキンケアのために用意していたはずのボトルを、「お前はもう用済みだ!」と言いながら、自分のカバンへ『ぽーい』する。投げるときには効果音を言うのが仄香流だ。



「あら、まだしてなかったの? ちゃんとお肌のケアはしないと駄目よぉ〜? 水分がみるみる抜けちゃうからぁ〜」



「はっ……。そいつぁー大変だ! この無敵タイム終わらせたくない! 早く塗ったくらないと!」



 そして投げ出したばかりのボトルを再び手に取る仄香。「やっぱりアタシにはお前が必要だよぉー」と抱き締める。なんだろうこの茶番は。



 まずは化粧水からと、べッチャべッチャ仄香は言葉通りに塗ったくる。僕と一緒でコットンは使わない派のようだけど、その無頓着っぷりは乙女らしさの欠片も無かった。



 だが僕の呆れた視線に気付いたのか、仄香は「チッチッチッ」とメトロノームさながらに指を振る。



「そんなねーっ! 神経質にちょびちょび使うよりも贅沢に塗ったくった方がお肌に良いんだよ!」



「まあ間違いじゃないけどぉ……コットンじゃなくて手で塗るなら、いっぺんにじゃなくて細かく出していかないと、どんどんこぼれちゃうわよぉ~……」



 咲姫の指摘通り案の定、仄香の膝の上にはいくつか水滴が。それ、畳にこぼれたら大変じゃないか。なんてガサツな娘なのだろう……。可愛いけどさ。



 そんな彼女は顔にベチャベチャ塗りながら机の上の茶菓子をじっと見ていた。視線までも落ち着かない子だった。



「ヤバい! これ、『"いきもの"ですのでお早めにお食べください』って!」



「違う仄香ちゃん……これ送りがな無いから"せいぶつ"って読ム……」



 お馬鹿な勘違いをする仄香に譲羽がツッコむ。しかし、そんな譲羽も大間違いである。



「……なまもの……ね」



「お茶菓子だからな。暑くもないし、明日明後日まではつんじゃないか?」



「持つ持たないじゃない! きっと美味しいのは今なんだよ! 早く食べないとっ!」



「だめよぉっ。手に化粧水付いてるんだから、終わってからにしなさぁいっ!」



 僕と蘭子が意味を正すも、思い込みの強い仄香ちゃんには届かず。しかし、伸ばしたその手を、咲姫がピシッと叩き落とした。



「うわぁーっ! 小言がうるさい姑だぞぉー? いびられるぅーっ!」



「だ、誰が姑ですかぁ~っ!」



「当たり前のことを指摘しただけなのにね……」



「可哀想にな……」



 仄香が子どもっぽ過ぎるだけなのに、ママだのお婆ちゃんだの姑だの、咲姫ちゃんの肩書きもコロコロ変わって忙しいものだ。



 ようやく仄香がお肌のケアを終わった頃。時計を見た蘭子は眉をしかめた。



「まずいな。六時から夕飯が部屋に届くはずだ。こんな部屋の有り様ではいけないだろう」



「えぇーっ!? それマジクマジカルマジの助!? 誰よ、部屋散らかしたのはっ!」



「アンタだよっ」



「あ痛ぁーいっ!」



 僕は仄香のむき出しな肩にデコピンして彼女は笑いながら身をよじり……んん? 肩にデコピンだと、カタピンになるのかな。肩にパンチだとカタパンだもんね。じゃあ髪にやったらヘアピンだね! とてもくだらないと思った。



「そぅいやさー。痛いって言う前に『あ』って付けちゃわない?」



「……何を急に。付けちゃわないけど?」



「えー? ちゃわないかぁー」



 唐突の質問にちょっとガッカリする仄香。しかし、僕は否定しつつも少し気持ちが分かったりする。



「ほら、散らかってるのはほとんど仄香のものだ。早く片づけないか」



「あ痛いっ!」



 そして蘭子もかすように仄香の二の腕にデコピン。うわ、今すっごい打撃音したよ? 加減が分からない蘭子ちゃん怖い……。



「仄香チャン仄香チャン……」



「なにー? ゆずりーん」



 そこに、呼びかけた譲羽もまたデコピン。これは本当のデコピンだ。しかし威力は相当低そうである。



「あははーっ! ゆずりんあ痛ぁーいっ」



「アタシも……会いたカッタ……」



「なんという罠っ! あたしも会いたかったぞぉー!?」



 といった具合に抱き合う二人だった。



「なに、この茶番……」



「まあまあ、楽しそうだしぃ」



 だが、時間に厳しい蘭子は、指で机を叩きながら仄香を急かす。



「冗談も良いが早くしないと……。もう十分切るから、間もなく夕の御膳が届けられるだろう」



「そ、そうだねっ! ととと、とりあえず片付けないと。な、何からやればいいんだ! わからないぞーっ!?」



「自分のモノを片付けるだけだからね?」



 僕が指摘するも、焦る仄香の耳には届いていないのか。開いたスペースに向かって前転し始める。全く持って意味が分からないけど。



「……なんで前転したの?」



「ほらっ、急がば回れって言うじゃん?」



「そっちの転がるじゃないよっ」



「はっ! こっちだったか!」



 言った彼女は畳の上に横たわって、



「ゴロンゴローン」



「ごろごろ……」



 またも転がりだしたのだ。しかも前転ではなく横転で。それに譲羽まで便乗する始末。部屋の端まで転がる彼女ら。



「しかし、ここでっ! リ、ターン!」



 言って仄香は逆回転をしだした。だが、そんなことをすれば当然……。



「へうっ」



「あぶぅっ」



 ひたいとひたいをゴッチンしてしまうのだった。具合が悪いはずなのに一緒にふざけちゃって、ぐったりするゆずりん。二人ともハイテンションお馬鹿でしょ……。



「いけないっ! あたしとゆずりんがショートツ事故を起こしたっ! ぶつけられた側は重体のもよう! 誰か、救急車を!」



 舞台演目よろしく。大きく手を広げ演じていた仄香。しかし、蘭子が彼女の肩をポンと叩き一言。



「良いから片付けような?」



「はぁーい……」



「悪ノリし過ギタ……」


 それから、部屋が充分に片付いたのは、料理を運ぶ仲居さんが来てからの話だった。

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