第48話「ローズナイト」
全体の四分の一ほど食べたところで、蘭子と譲羽が戻ってきた。残ったメンバーでは、咲姫と仄香がそろそろ夏服を用意しようとかいう話をし始め、ファッションには疎い僕にとってついていけない話題だったから、丁度良いタイミングだ。
「見てくれ百合葉」
「んっ?」
言った蘭子はその手元から、薄紅色の薔薇の花びらを……自分に、振りまき始めた……? 一瞬で終わってしまったけれど。
「な、何? その花びら……」
「私にはやはり、薔薇が似合うからな。撒こうと思って」
「わざわざ拾ってきたの?」
ていうか自分で撒いちゃうの? 可愛いの? 可愛いよ?
「当たり前ではないか。小さな温室があったから、落ちているものをちょっと拝借……」
「当たり前じゃないよ……。汚れてないでしょうねそれ……」
土の上から拾ってくるなんて、子どもっぽくてちょっと可愛いとは思うけどね。
「しかし、桜よりも薔薇よりも、君の方が綺麗だぞ?」
「はぁ……」
僕を返し手で指して、何を突然口説き出すんだ……。まさか口説きたいから薔薇を撒いてるの? かっこいい自分を演出しながら口説きたいの? 可愛いよ? 可愛いね?
「うーん、美人な蘭子に言われたくないかなぁ」
照れ隠しにちょっとひねくれて返してみる。
「そう自分を卑下するな。どんなに美人相手だろうと、私の目には君の方が素敵に映るんだ。私の勝手さ」
「そ、そう……」
余計に恥ずかしい回答が来てしまった。そこまで言われちゃうと流石に照れくさいなぁ。う~ん、まっすぐな気持ちくらいで心揺り動かされてしまっては、百合ハーレムなんてまだまだだ。
「蘭子ちゃん……それ、イイ……。アタシが撒きたい」
「おお、この素晴らしさを解ってくれると言うのか」
そして、そんな様子を見て触発されたのか。やはりその中二心は譲羽も分かるようで、蘭子から受け取った薔薇を彼女振り撒く譲羽。
「あっはっはーっ! なにそれー!」
なんて、かっこいいポーズを取る蘭子を仄香は笑って写真を撮っていたり。花びら舞うその絵面は、少女漫画ではよくある演出であるはずなのに、実際にはかなり間の抜けた印象しかない。
「アンタたち、薔薇じゃなくて桜を見に来たんだからね?」
「とは言っても、私は薔薇の末裔だからな……。やはり惹かれてしまうのだ」
「何言ってるの……」
完全に中二病だった。ここまで重症とは思わなかった。可愛いけど。
「そう……。アタシは薔薇に仕えるローズナイト……。薔薇があれば、そこに赴かなければ……ならないサダメなのヨ」
「おお、薔薇の騎士よ。私と共に茨の道を歩もうではないか」
「アタシは、アナタの剣と……ナルッ」
なんて、舞台よろしく二人は大きく空を仰いでいるのであった。仄香以外に茶番メンツが増えてしまったようだ……。
まあせっかくだから、そこに僕も参戦。
「あれぇー? ユズは蘭子に仕えるようになっちゃったんだぁー」
言いながら僕は、譲羽の肩に腕を回す。
「え……あ、うぅ……」
「可愛らしいナイトの君を、ずっと前から狙ってたのになぁ。残念だなぁ、寂しいなぁ……」
そして、指先で彼女の唇、顎、頬を……そして首筋まで撫でてゆく。
「ゆ……百合葉ちゃんがいちっ、一番だから……っ!」
「んー、本当かなぁ~」
「ほ、ホント……。ウソじゃない……」
言いながら譲羽は、僕に向き直り抱きついてくる。咲姫には嫉妬する蘭子も、譲羽にはしないようで、微笑みを浮かべている。
「随分可愛げのあるナイトだな」
「蘭子が二番目だってさ」
「ふふっ。悲しいな」
ところで、譲羽は仄香によく餌付けしているから、ナイトよりも主の方が似合いそう。おとなしいかと思ったら自由奔放なロリっ子主人。良い物語が書けそうだ。




