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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部二章「百合葉の美少女落とし」
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第46話「牧草ロール」

 土曜日。ついに始まったゴールデンウィーク。僕ら五人と付き添いの先生は、長期休暇限定で駅から出ている直行便のバスに乗るために、ターミナル駅に集合していた。いつもの登校の時間より余裕のある九時半集合なのだが……。



「ごっめーん……おはおっぱい!」



「――ッ!? 馬鹿っ! 触んな!」



 後ろから声がしたかと思えば早速、胸を揉まれめしまうのであった。その腕を掴み突き離せば、遅れてトテトテと歩いてくる譲羽に当たりそうに……危ない。なんとかよけたみたい。



 と思っていれば、



「オハ……オッパイッ?」



「あ、うん。やめてね?」



 ゆずりんまでも便乗してきたので、やんわりとその手をどかす。うーん、彼女にもセクハラウイルスが伝染しているようだ。恐ろしいぞ?



「二人とも、遅れといて何やってんのさ……」



「いやぁ、ゆーちゃんの怒りがこのおっぱいみたいに和らがないかなぁと思って。遅刻しなければ許された?」



「ヤワライダ……ゆるサレタに違いナイ」



「許されないよ……別の意味で怒りそうだよ……」



 相変わらずマイペースな二人であった。



「五分遅れだぞ。どうしたと言うんだ」



 そこに、睨みつけるように蘭子。彼女は目つきが鋭いので、横目にするだけで怒っているように見える。



「う、うえー……ごめんね蘭たん……」



「蘭子ちゃん、ゴメン……ナサイ」



「まあまあ、たかだか五分だし、時間の余裕はあるからさ。そんな責めてあげないでよ」



「そ、そうだぜ……言い方きっついぜ……」



「怖イ……」



「お、怒ってるように聞こえたか……? 済まない」



 思い思いに伝えれば素直に謝ってくれる蘭子。自分の非をすぐに認めてくれて安心だ。以前の彼女だと、さらに大人ぶった切り返しをしてきそうだから……。



「それで大丈夫? 寝坊したの?」



「昨日は早く寝るって言ってたじゃないのぉ? 何かあったのかしらぁ~?」



 僕と咲姫が問い掛けると、仄香がえへへっと決まり悪そうに笑う。



「いやさー。昨日になってゆずりんが、化粧水が切れてたって言ってさー? んであたしも旅行用のシャンプーセットを忘れてたことに気が付いたんね。お気に入りだから持ってきたいなーって」



「だから二日前にあれほど……」



「まあまあ。よくある話だよね。それで?」



「でさー、学校のコンビニ行っても閉まってたのよー。だから下のスーパーで買ったんだけど……」



 『下の』とは、寮もある学校の敷地から坂を下った先のスーパーだ。小型ではあるものの、学校のコンビニで不十分なものはここで揃えられる。言った仄香は譲羽と見合って照れ笑い。



「そこでお菓子も必要だって言って選んでたらあれこれ選び過ぎちゃってー。持ってけない分は今食べちゃおうってのが昨日の十時の話でー」



「食べてたら十二時過ぎテタ……。キョウガク……ッ!」



「うーん……気持ちは分かるけどいけないなぁ」



「結局お腹が変になって、寝れたの一時くらいねー。うちら寝不足だよー、もー」



「モー」



「つまりは寝坊なんだね……」



「結論まで長かったな……」



「食べた後に寝たら牛になっちゃうわよぉ?」



 呆れ感想を漏らす三人。そこに、ベンチに座ってスマホと睨めっこしていた先生が、ようやく立ち上がって僕らのもとへ。



「さてっ、みんな着いたみたいだな」



「あっ、先生いたの? だめじゃーん。スマホいじって生徒放置しちゃー」



「そんなケチ臭いことを言わんでくれよ。これも仕事なんだ。ゲームとかしてたわけじゃなくて」



 ペシリと仄香は叩かれる。やはりツッコミ待ちだったようで「うへぇ」と漏らしつつも嬉しそうにそれを受けていた。そんな先生の携帯には枠組みに文字の羅列が。印刷物のテンプレートだろうか。学校で使う資料みたいだし、あれもまた仕事なのだろう。最近はパソコン代わりになるのだから、便利なものである。情報流出……しても困らない物だと良いけれど。



「バスの発車にはまだ余裕があるが、もう乗車は出来るはずだ。さあ、行こうじゃないか」



 最後尾の座席に譲羽と僕と咲姫。その目の前、僕らに向かい合うように返した二人掛けの席には、仄香と蘭子が座っていた。反対向きでも酔わなさそうな人選で選ばれている。



 だが、仄香が席でバタバタするため、蘭子はものすごい居心地悪そうだったり。耐えて欲しい。



 ちなみに先生は長いすの反対側で軽くいびきをかいて寝ている……。確かに目の下にクマが出来ていたから、眠いんだろうなぁとは思っていたけれど……。美人でも最初からそんな様子だったから、隣に座る人は無し。クールでサバサバしたイメージだったのに、だだ崩れだよ先生……。



 なんて眺めている内に、妖怪『座席揺らし』仄香ちゃんがおとなしくなっていた。どうしたのだろう。



「やべぇ酔ったわ……」



「仄香、自業自得じゃん……大丈夫?」



「……ツラソウ」



「酔い止めの薬は……無いわねぇ」



「ふっ、馬鹿なものだな」



 皆が心配そうに見る中で、蘭子だけは嬉しそうだった。そりゃあそうだよね、真横じゃあ実害がひどかったもんね。



 と、仄香を労っていたら、今度は横からうめき声が。



「もらい酔イ……ツライ……」



「乗り物酔いも貰うものなの!?」



 なんともびっくり体質だ。酒の席の空気に酔ったみたいなことなのだろうか。



 だがしかし、そんな風に心配して譲羽の背中を撫でていると、その揺れのせいで……。



「ああ……僕も酔って来ちゃったかも」



「安心しろ百合葉。そんな酔いもすぐに良くなる」



 口に手を当てているとなぜか自信満々の蘭子ちゃん。実は薬を持っていたり?



「何故なら、今から私に酔って貰うのだからな」



「悪化するわっ!」



 だって、蘭子ちゃんのクソレズナルシストっぷりはもうギャグだからね。可愛すぎるからね。心酔通り越して泥酔レベルだよ。



「私に酔ったら気持ちよくなるだろうが。具体的には下半身が――」



「あーはいはい。下ネタはいいから景色を見て落ち着こうね」



 と、酔ってしまった二人に言って、僕らは視線を窓の外へ。



 そうしてみれば、高速道路脇の自然風景にすぐテンションを上げる仄香。一方で、また顔色の曇る蘭子ちゃん……災難だなぁ。



「みてみてーあそこっ! 牧草ロール!」



「うふふっ。なにそれスイーツぅ?」



「美味しそうだな」



「抹茶味……じゃなくて枯れ葉味なんだろうね」



 困り顔の蘭子ちゃんにはお構いなし。仄香がバタバタと興奮気味に指差した先には、放牧などでよく見られる枯れ草の塊が。丸くなっていて、確かにロールではある。譲羽も見慣れないのか、窓側に座る仄香と並んでガラスに張り付き、その塊を目で追っていた。



「きっとあれは巨人族のおやつに違いない……。一口で摘まめる、ほうじ茶的な渋い味ワイ……?」



「それもそれで微妙なような……」



 相変わらずの妄想ゆずりんだ。彼女は最近、自分の作り話を披露してくれるようになったから、この場に安心感を持てているのだろうと思っている。楽しくて良いね。



「ゆずりーん、抹茶マシュー」



「心得タ……っ」



 そんな妄想で口寂しくなったのか、仄香はお菓子の催促。お菓子担当のようで、譲羽は大きなリュックから袋詰めのマシュマロを取り出し、仄香の口に突っ込んだ。なんだか餌付けみたい……と思っていれば、譲羽はそれでニヘラとなんだか楽しそう……? ゆずりんに妙な嗜好しこうが無ければ良いけれど。



「やっぱ長旅にはお菓子だよねー。そないあれば嬉しいな――的な?」



「『備えあれば憂いなし』でしょ? 色々間違ってるよ」



「でも糖分接種……タイセツ」



「それねー。体力大事だからねー」



「それはスキーなどの、エネルギーが必要なときじゃ無いのか……?」



「まあまあ。着いたらそこそこ歩くかもだし」



 そう。これから行く先は眼前に湖を構えた桜舞う旅館なのだ。長距離の散歩道では無いにしろ、歩いて見て回りたいところ。



 と考えていれば、仄香が突然口をあんぐり。



「ああっ! ジュース忘れたんじゃないっ!?」



「――ッ!? シマッタ……!」



「ぐぇー。喉にマシュマロが貼り付くぅーっ」



 苦しそうに喉をく仄香と、その肩をさする譲羽。本気で苦しんでいるわけではなく、いつもの茶番の延長だと思えば良さそうだ。



「二人とも大丈夫よぉ~。ルイボスティーがあるからぁ~」



 そこに咲姫が、中くらいの水筒を取り出し、微笑みながら言った。



「るいぼす? なんぞそれは!」



「新種の秘薬……?」



「お茶の一種だろう」



「ほほうほう!」



 期待を膨らます二人。咲姫がゆっくりとカップによそい、仄香とそして譲羽が飲む。目でもう一杯と催促する彼女らに、咲姫はまた注いで渡す。



「うーむ……。牧草ロールを見ながらのお茶は風流じゃのう……」



「ワビサビ……」



「いやそれは無いと思う……」



 どうにも"ワビサビ"はお気に入りのようだけど。和風も何もあったものじゃない。



「どうしてルイボスティーなんだ? 麦茶などでも良かっただろう」



「ノンカフェインで体に優しいのよねぇ。美肌、冷え性、貧血とかに良いのよぉ~? 他にも生理痛とか腹痛にも良くて、体調不良には打ってつけなのぉ~」



「ノンカフェインなら、胃も荒れないし良いかもね」



「咲姫、生理で便秘なのか? 大変だな」



「う、う~ん違うけどぉ。これだけ女子が集まれば誰か体調崩すかもって」



 なるほど、気が利く姫様だ。比べて蘭子はデリカシーが無い……? いやこのくらい普通なのだろうか。僕は生々しい会話が苦手だから、お互いの身体事情しんたいじじょうにどこまで踏み込めるのか、未だ分からなかったりする。



「百合葉、お腹の調子がおかしかったら、遠慮なく私に言うんだぞ? 流産したら困るし、すぐに産婦人科へ……」



「赤ちゃんなんて身ごもってないよ……。少なくともアンタの子は有り得ないよ……」



「百合葉……今お腹の中で蹴ったぞ!」



「だから身ごもりようがないって! お腹に耳当てるな!」



 だってレズジョークでこんなんぶっ込んでくるわけだし……。生々しい話が余計苦手にもなるよ。愛が重くて困る。



 そこで、飲み終わった仄香がレズレズしい空気を壊すようにプハァーッと息を吐く。



「いやぁーもう、ここまでお節介してくれるなんて、あれだねっ。咲姫おばーちゃんサマサマだねっ」



「だ、誰がお婆ちゃんですかぁっ!」



「だってそうじゃん? あたし、昔おばーちゃんにこんな感じにほうじ茶もらって面倒見てもらったもん。似てる似てる!」



「安心感……アル」



「ふ、複雑ぅ……」



 確かに、雰囲気がふわふわしてるという点ではあながち間違いじゃないかもしれない。ただ、お茶を貰っておいて『お節介』扱いだなんて……言葉を選び間違えていると思うけどね。



「僕は咲姫をママって呼びたいかなっ」



なんて、僕も冗談めかし言ってみたり。『それも違う!』という風にポカポカ叩かれるかと思っていれば……。



「わ、わたしは……百合ちゃんにそう呼んでもらっても……良いかなっ。将来的に、なんて……」



「んっ? どうして?」



 しまった、冗談が分かりにくかったかな。会話に齟齬そごが生じてしまった。



 だが、咲姫の勘違いをどう受け取ったのか、蘭子はむぅとしかめる。



「違うぞ咲姫。百合葉は私の子を産んでママになるんだ。パパなんぞ向かない君に百合葉が守れるか」



「あら、女も社会進出する今のご時世に、ダブルママがいけないと言うの? パパもママも決まってないのに、ずいぶん性差別者なのねぇ」



 それは決まってると思うけどなぁー。そもそも女同士じゃあ子どもが作れないよ……。不穏な空気が流れる中、僕は二人を手で制す。



「まあまあ。肩書きはどうでもいいから、みんなで家族とか楽しそうじゃない? 仄香とユズは娘っぽいけど」



「それだ! あたしはみんなに囲まれてニートになるっ!」



 話の流れが読めなかったけど、この二人が公然レズ修羅場を広げようとしているのだから、話を逸らしてみたり。案の定、仄香が乗っかってきたので、誤魔化しは効いたようだ。



「うーん、仄香に家事任せたくないから働いてね?」



「いーや! 家事もやらないねっ!」



「働けっ!」



 意外なところでとんでもない怠け者が居たものだ。こんな元気な娘を家に置いといたら、一日中ドタバタうるさいんじゃないだろうか。



「いい案……。アタシは在宅勤務目指すからカンペキ……」



「おっ! それいいねー! 家に居ながら仕事とか天才かよぉ!」



「か、稼ぐならいいけどね」



 仄香は向かい合う譲羽の両肩を掴んでわっしわっし揺らす。譲羽は在宅で小説家だろうか? 今度、将来の夢でも訊いてみう。



「んぁ……?」



「ウゥ……」



 と、そこで息を漏らし、黙り出す二人。



「んっ? どうしたの?」



「やば、オシッコ行きたいかも……」



「あ……アタシ、も……」



「アンタたち、子どもじゃないんだから……」



 おままごとの設定通りになってしまいそうだった。この子らは良い歳して幼すぎる。



「二杯は飲みすぎだったんじゃないか?」



「それはない! あたしの膀胱をなめないで欲しい!」



「知らないよそんなの……。気をつけてよね」



 トイレは余裕を持って行くのが当たり前である。耐える耐えれないの問題じゃないのに。全く、仕方のない子たちだ。



「……私は百合葉の膀胱を舐めたいけどな」



「朽ち果てろ変態」



 そんな合間でボソッと耳打ちセクハラしないで欲しいよ、蘭子ちゃん。最初はクールだと思ってたのに、禁欲が晴れたその反動みたいな? 無駄にかっこいい声なのが皮肉なもの。



「あっ」



 そこで携帯で調べ事をしていた咲姫が気まずそうに顔をあげる。



「ルイボスティー、利尿作用があったのねぇ……」

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