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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部二章「百合葉の美少女落とし」
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第38話「プリン紛失事件」

 一緒に保健室へと誘う蘭子から逃げるように部室の扉を閉めて廊下に出たけれど、蘭子がすぐに駆け寄ってきた。なに、まだセクハラするの? ストーキングレズ……?



 じとっと視線を送ったら、蘭子は弁明するように口を開く。



「私も勉強の集中が切れたから。何か買おうかなと」



「う、うぇー……」



 身をよじり体ガード。つい先ほどまで散々楽しんで、セクハラ三昧だった人間のセリフとは思えない。そんな身構えていたからか、蘭子は焦るように手を振る。



「だ、大丈夫だ。今はセクハラしないから。二人きりになったら、もう歯止めが効かなくなってしまう」



「そ、そう……なら良かった……」



 んっ? 良かったのかな? 歯止めが効かなかったら前の保健室みたいになるってこと? 怖いなぁこのレズは。



「なぁ、百合葉。あ、明日って空いてるか?」



「何? 突然……」



「明日、祝日だろう?」



「そうだねぇ、予定は今のところ無いけど……」



 そういえば、休日だ。せっかくだし、誰かと二人きりで遊んで仲を深めておきたいところだ。弁当を企む皆の不自然さとゴタゴタで、すっかり忘れていた。



「ならば……」



 と、蘭子が言ったところで「何やってんのー? 咲姫ちゃそちゃー」なんて仄香の声が。後ろのドアが開いてるのかな……? と蘭子と二人振り向けば、ひゅっと銀色の髪が部室に戻っていく。ストーカーの次は……覗き……? やだねぇ、変態的なレズ集団は。



 まあ、そんな変態にしてしまったのは僕という説もあるんだけどね……。いや、好意自体は嬉しいよ。



「……なんだあれは」



「わからない……。んで、なんだっけ」



「い、いや。やはり良い。確認出来ただけで……」



「そっか」



 彼女からのお誘いだったのかな。こちらから申し出たかったものだけれど、こう引っ込まれては、誘われ直すにしろ誘われないにしろ、何か考えがあるのだろうかと勘ぐって、誘えなくなってしまう。



 学院内に敷地を持つ学生専用コンビニ。校舎端の体育館側にあって、寮生も利用しやすいように、外出口と内出口と、入り口が二つあったりする。もちろんコンビニとはチェーン名を借りているだけで、夜九時には閉まってしまうのだけれど。



「飲み物は要らないしー、軽く、マシュマロでもあれば良いかな」



「マシュマロ?」



 期待顔で自分の両胸に手を当てる蘭子。



「違うから。もうレズジョークはおしまい」



「そ、そうか」



 本当に残念そうにしないで欲しい……。二人きりになったのに前のような強引さが無く、どうも調子が狂ってしまう。彼女自身、今の気持ちの揺らぎに戸惑っているのだろうか。



 何よりそのしおらしさが可愛いかったり。自信満々なはずの彼女が僕に風邪を引かせてしまったと思い込んでなのか、自分に制御を掛けているのが、なんともギャップ萌えである。



 蘭子はいつも食べているのか、迷うことなくチョコ味の栄養食を手にしたあと、ドリンクコーナーに目を止める。ニヤリと僕に微笑みかける彼女。それはどこか悪戯めいていて。



「なあ……。これとか譲羽が喜ぶんじゃないか?」



「えっ? ああ。これは確かに、テンション上げそう……仄香もだけど」



「仄香は年中テンション高くて、これ以上に上げようが無いだろう」



「あははっ、確かに」



 思わぬ雑談タイムだった。こんな風に彼女と仲間内の話で盛り上がるなんて、出会った当初は想像つかなかったなぁ。他人に無関心で冷たかった彼女が、積極的に僕らと絡んでくれるなんて。



 ただ一人、仲が不安な子も居るけれど。二人は肌が合わないのだろうか……。んんん? 『肌が合わない』? なら仲良くなればそれは……『肌が合う』……。ああ、なんと百合百合しいことではないだろうかっ!



「咲姫蘭かぁ……」



「んっ? どうかしたか?」



「いや、なんでもないよ」



 カップリングの妄想を口にするだなんてとんだ大失態だ。危ない危ない。妄想百合オタクの悪いところ。



※ ※ ※



「ちょっとぉー! 冷蔵庫に閉まっておいたプリンが無いんですけれどぉー!」



「な、何……」



 部室に戻った僕らに仄香から掛けられた第一声がそれであった。



「だ、か、らっ! 冷蔵庫にプッチンなプティング入れてあったんだよー!」



「し、知らないかなぁ」



「見てないぞ?」



 否定する僕ら。そこに額に人差し指を当てて、「ふーむ」と考えるポーズの譲羽が立ち上がる。探偵の真似なの……? 可愛いんだけど?



「仄香チャン。それは……いつから入れてアッタノ……?」



「昨日買って入れといたのー! ぐぬぬ、誰が食べたんじゃあーッ!」



 なんて、仄香は怒り心頭すぎて冷静さを欠いてしまっている。「むむむ」と考える譲羽と、そして保護者組三人は落ち着いているが。



「それなら昨日食べていたじゃないか。二つも」



「ちーがーうーっ! 昨日は三個買ったうちの二個食べたのー!」



「結構食べたのねぇ……」



「残しておいてそれが無くなったなら大変だねぇ。どうしたんだろう」



 と、冷静な二人だけでは心もとないと、僕は仄香に乗っかって探すふり。



「ここに入れて無くなったの? 食べたいときに無くなるとか悲しいよねぇ」



「そうなんだよぉ……見つけだしてよぉゆりはすぅ~」



「う~ん……」



 と、僕が親身に寄り添ってみるとようやくその怒りを弱める彼女。よし、このまま冷静になってくれれば……っ!



 と、ここで、譲羽がダンと立ち上がる。



「犯人は……この中に居ルッ!」



「えぇ……」



「……まあ居るだろうが」



「そうでしょうねぇ……」



 まさかここに来て、渋谷先生が食べたとかそんなオチは無いと思うし……。部員の誰かしらがプリンをどうかしたということで間違いないのだろうけど……。ちなみに咲姫ちゃんと蘭子ちゃんは最初っから仄香ちゃんを疑ってるよ? 訝しげな視線を送っているよ?



 しかし、どうしたものかと首を傾げる僕ら三人。ゆずりんは唸るばかりで絶対ちゃんと考えていない様子だけれど。全く探偵役に向いていないな……。ともかくみんな嘘はついていなさそう。



「おおう分かった! 犯人はゆーちゃん!」



「うぇっ!? なんで!?」



「一人だけみんなの顔色伺ってる!」



 なんて、彼女は僕の両頬をペシッと挟む。



「違うよっ! みんな本当に知らないんだなぁって考えてただけ!」



「なんでそんなこと考える必要があるのっ!?」



「プリンの行方を探すためでしょ!?」



 なんて話の通じないお馬鹿美少女なんだ……っ。



「そうだ、そうに違いない! プリンのユクエはーっ? ここだったのだ!」



「馬鹿っ! もう揉むなっ!」



 と、どんなこじつけなのか、彼女はまたもセクハラしてくるのだった。



「へーんっ! 今日はあたし揉んでないから許されるもんねぇー!」



「昼休み揉んだでしょ……!?」



「んっ? そうだったかな? いつもの話過ぎて覚えてないなぁ」



「そんなことをいつもの話にしないでよ……」



 呆れる僕。どうやら、もうすでに彼女の日課業務になっているようだ。はた迷惑この上ない。



 僕がセクハラ魔を払っている間、さすがにもうセクハラの気分にはなれないのか、他メンバーは黙っていて。その中、首を傾げたままあごに手をやり考えていた蘭子は、閃いたように手を叩く。



「仄香、昨日プリンを三個食べていなかったか?」



「へっ?」



「二個……は食べてたと思うケド」



「どうかしらねぇ」



「いや、間違いなく三個だ。重ねることなく散乱した汚いゴミを百合葉が片付けるのを眺めていたんだから。偉いぞ? うちの百合葉は」



「そ、そりゃあどうも。よく見てたね」



 まあ僕は部長ですし? 片付けるのは当たり前ですし?



「百合葉を一秒たりとも逃さず眺める事が私の趣味だからな」



「やっぱ散り果てろよ変態」



 相変わらず愛が重いレズジョークで困ってしまう。



「んあーっ!? そっかぁ! いっけねぇー! 昨日全部食べたんだったわぁー」



「つまり、被害者が犯人……事件は無事、解決ッ!」



 ぐっと拳を握る譲羽。彼女、何も役に立ってなかったけど? というか……。



「僕、揉まれただけで損してない?」



 むしろ被害が増えただけなのであった。



「ぐぅー、結局デザートは無しかよぉ……。甘いものぉー。糖分摂取ぅー」



 と、席についた仄香は買い物に行った僕らを見やる。そんな彼女の目に止まったのは蘭子が買ったバック飲料。すっかり忘れていた。



「んおっ! めっちゃ良いもの持ってんじゃーん。飲まして飲ましてっ!」



 だがそんなたかる仄香を無視して、蘭子は譲羽の前に"それ"をタンと置く。



「これを見てくれ、譲羽」



「えっ……? ……――ッ!? ら、蘭子チャン……ッ!」



「来たな」



「何がなのさ」



 僕がといかけると二人はお互いを見合わせて、



「「ダークチョコレートのオレ」」



 そう言った。



「「「ダークチョコレートのオレ?」」」



 テンション高く読み上げる二人と疑問全開に繰り返す僕ら。



「漆黒の闇を抱イテ、また一人、孤独の風に身を委ネル……ッ」



「はらりと落ちた桜の花びら、夜の静寂に君を重ねる」



「……良さげでしかナイ!」



「良いうたではないか」



「よくわからない……」



「チョコレート関係ないわよねぇ……」



「良いから飲ませろぉー!」



 なんだか中二病同士、気があってしまったようだ。ゆずりんファンタジーチックで蘭子は文学チック? 詩として上手いのか分からないけれど、二人とも本が好きだったりするからなぁ。



「まあまあ、落ち着いて仄ちゃ~ん。甘めにピーチティー入れたからぁ~」



「そんなものであたしが満足すると思うのかぁー」



「ひどぉい……」



「まあまあ、マシュマロあげるから」



「そんなものであたしが満足すると思うのかぁーッ!?」



「……もうっ。うるさい口だなぁ……」



 咲姫を悲しませた罰だ……と、僕はぐいっと仄香に顔を近付けて、やかましい唇を塞ぐ……マシュマロで。指から口へと唐突に突きつけられて彼女は目を白黒。咲姫ちゃんが入れてくれたお茶で飲み下す。



「……まあこれはこれで」



「やっと黙ってくれた……。さあ、甘いもの摂取したら課題再開するよっ」



「うむ」



「へぇーい」



「ワカッタ……」



 みんな再び課題に取りかかる。これで、下校までは集中して取りかかれるだろう。



 そんな中で仄香はちょっぴり顔が赤くなっていたけれど。仕返しは出来たかな?

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