第12話「お昼どうする?」
便乗するようにみんなで化粧水をしゅっしゅしたり、ふざけた仄香に首に掛けられたりという楽しい朝は遠い日のようで。
友人関係が早くも築き上がってきたし、授業のガイダンスや校舎案内などの授業の一環もまた充実していた。しかし、明日から少しずつ一般授業に入っていくと思ったら少し気だるい気持ちになる。
でも、毎日こんな美少女たちと会えるならへっちゃらだねっ!
そんな中で迎えた昼休み。四時限目が早く終わったからと休み時間にしてくれた、お堅いんだか気さくなんだか分からない担任には感謝しつつ。美少女達との昼休みを堪能しようじゃないか!
「お昼どーするー?」
前方の席から、譲羽を手に引きながら仄香が歩み寄ってくる。そういう、あたかも一緒に食べるのが当然という強引さには学ぶべきところがあるかもしれない。というか、普通の女子はそういうモノなのかな? 僕しばらくぼっちだったから、女子社会の感覚が鈍っているよ……。
友達との集団生活に慣れていない癖に百合ハーレム……ちょっと馬鹿なんじゃないかなって思う。
「わたしはお弁当だけどぉ~、食堂に行くぅ?」
「僕も弁当だよ、お揃いだねー咲姫ー。二人は何食べるの?」
咲姫の食堂案はアリだなと考えながら、視線を交互に投げ譲羽と仄香に訊いてみる。
「が、学食……」
「ベントゥー! じゃなくて購買だよーん」
なるほど、見事にバラバラではある。
「じゃあ食堂に持ち寄って食べようか」
「あ、あの……」
そこで珍しく口を開く譲羽。
「おおうっ! ゆずりん何か意見があるのかぁー!」
「ユズちゃんが意見なんて珍しいねぇ~」
「まあ別にいいでしょ。んで、どうしたの?」
昨日の今日でゆずりんの口下手イメージ固め過ぎでしょ……。思いながらフォローし訊ねる。
「アタシ……は、教室で食べて……ミタイ……」
「おっ? 机くっつけちゃいますかーっ? ありじゃね? ありじぇんぬ!」
「いや意味分からんけど」
「おーけぇ~じぇんぬぅ~」
「なにそのノリ!」
グッと両親指を立てる仄香とそれに続く咲姫。ノリは噛み合ってるのかな……? 楽しすぎかな……!?
しかしどうしようかなと教室を見渡す。
「うーん、机は持って来れそうに無いよね」
「せやなぁ」
仄香ちゃんいつから関西弁なんや……。ともかく、実行のため状況判断する僕……ってか机寄せるのに正反対の座席位置では、やるだけ面倒だ。それだけの話でしかない。
「前二人か後ろ二人、どっちかの席だね。僕と咲姫が隣同士だしスペース的にも隅だから、周りの邪魔にならなくていいかな」
「よっしゃー! それじゃあ椅子持ってくるかいなっ!」
答えると仄香は再び譲羽を連れて自分達の席に戻る……なんだかゆずりん、ペットみたいだ。ぴょんぴょこ歩いて……ゆずりんうさぎかな?
しかしその手も椅子を運ぶために離れてしまい、ダダダダダッと仄香が一人で駆けてくる。
「一番乗りっ!」
「いやそんなの無いから」
自分の椅子をストーンッと置いた仄香にツッコミ。楽しそうで何よりではある。
そうして落ち着くと、ゆったゆったと危なげに椅子を運ぶ譲羽を三人で見守る。
「手伝った方が良いよねーっ」
「そうだね。行こっか」
仄香の言葉に僕も賛同し「大丈夫?」と声を掛ければ「だ、大丈夫」と歩みを早める譲羽。いけない、かえって焦らせてし
まったみたい。
「お、おまたせ……」
ゆたゆたゆたーっと、ようやくすぐそばまで椅子を……。
と、その時――!
ガシャンッ!
大きな音がして僕ら三人はビクッと震え驚いてしまった。
「ゆずりんっ!」
「大丈夫っ!? ユズッ!」
「ユズちゃん!」
仄香と僕と咲姫が叫ぶ。クラスの子たちの心配の声も上がる。何が起こったのか。机の足に引っ掛かってしまったのだろう。僕たちの席まで後一歩というところで譲羽が転んでしまったのだ。
「いたぁい……」
今に泣きそうな譲羽。僕は彼女の脚に絡まった椅子を静かによけて立たせる。
「痛かったでしょっ!? どこか怪我してないッ!?」
僕が言うとすぐさま咲姫が譲羽の脚を触り見る。
「擦り傷とかは……大丈夫そうね。でも念のため保健室に行きましょうねぇ~」
脚を慎重にさすってくれる咲姫に譲羽は「うう」と呻きつつ、こくりと頷く。
「あたし保体委員だし、連れてくよぅ!」
宣言し譲羽と肩を組んで立ち上がらせる仄香。
しかしそこで、
「人に迷惑を掛けておいて、"ごめんなさい"の言葉も無いのか?」
転んだ譲羽の真横の席。静かに読書していた女子から冷たい一言が降り注いだのである。




