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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部二章「百合葉の美少女落とし」
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第36話「カラアゲさん」

「百合葉ちゃん……たくあんアゲル……」



「こってり物ばっかで飽きちゃったからなぁ。やっぱ、こういうのが一番落ち着くよ……」



 譲羽からもらったたくあんを爪楊枝で刺してポリポリかじりながら僕は言う。一緒に作ったはずの仄香のお弁当には入っておらず、これもまた譲羽セレクションなのだという。



「ほら、みんなも食べないと。昼休み終わっちゃうよ?」



 断固としてもう受け取らないアピールを続けたお陰で諦めてくれた美少女たち。そりゃそうだ、僕は僕のペースで食べさせて欲しい。玉子やこってり物ばかりでは飽きてしまう。



 途中までは料理上手咲姫ちゃんが優勢かと思ったけれど、最後には渋い選択の譲羽が優勢で終わった美少女お弁当対決。もう、一人でゆっくり食べたい……とマイペースに、たくあんとコンビニのからあげを頬張りつつ、おにぎりの残りを食べ尽くす。おかずに困らなかったお陰で、からあげをほとんど残したまま主食を食べ尽くしてしまった。それを見てみんなも遅れ過ぎているのに気付いたのか、全然進んでいなかった箸を急ぎ進める。



 だけれども、そうはいかない空気ブレイカーがひとり。



「ぬぬっ! ゆーちゃんのソレ、よく見れば『カラアゲさん』ではなかろうかぁっ!?」



「……そうだけど、なに?」



 もう……ゆっくり食べたいんだけどなぁ。でも美少女のわがままなら仕方がないと、相手をすることに。



「へいへーい! 食ーべさーせてっ!」



 僕が爪楊枝で刺したまま止めていた手元の唐揚げを、仄香が大きな口を開けて……食べ去ってしまう!? ちょっと! メインディッシュを取るとか禁忌だよ!? と、そんな事を思いつつも今は満腹が近いし、ハムスターの様に片頬を膨らませモグモグしている彼女を見ると怒りなんて沸くわけもなかった。美少女という存在は争いの気持ちを鎮めるのだ。平和の象徴過ぎて仄香ちゃん実に天使である。



 微かな間接キスを嬉しく思いつつも、好きな子をイジメたくなる心理は男女関係なしに共通であり……いや、男と一緒にされたくはないけれど……。僕はおちょくりたい気分になって……。



「やばいっ! アホの子が伝染るから爪楊枝洗わないと!」



 なんてふざけてみる。



「ひっどぉ! そんなのちっぽけなのじゃあうつんないよ! さっきだって玉子焼き食べてたじゃーんっ!」



「その言い分だとぉ〜、自分がアホなのは認める事になるわよねぇ〜?」



「人の大切なオカズを取っておいて、文句は言えないだろう」



「……重罪、エターナルフォースブリザードの刑」



「まじかよぅ! よくわかんないけどやばそう!」



 「チュチュチュチュチュ……」と仄香のほっぺをつつくゆずりん。「やぁーだぁー」なんて、仄香も満更ではなさそうだけれど。



 ところで、エターナルフォースブリザードは字面的に即死しそうな強さがあるよ……? 死刑だよ?



 だがその攻撃が止んだとき、悲しそうに仄香は僕の顔を覗き込む。



「そ、そんなに嫌だった……?」



「嘘だよ。友だちでこんなの気にしないから」



「……そこは気にしてよ」



「んっ?」



 おっと、ここは聞こえない聞こえなーい。急いで話を逸らさないと……と思えば咲姫がもうすでに手を伸ばしていたり。



「ほのちゃん、食〜べさ〜せてぇっ!」



「のあっ! あたしのイチゴがぁー!」



 手付かずのまま、密かに甘い香りを立てていた果実を、咲姫が奪い去る。それは悔しかったみたいで、仄香は何とも言えない歯を噛みしめるような顔に。



 と、仄香とは対照的に……。



「……うへへぇ〜! 百合ちゃ~んっ」



 咲姫ちゃんノリッノリであった。



「あっ、咲姫にセクハラおやじがうつったじゃん! どうしてくれるの仄香!」



「げっ!? あたしの責任!? てゆーかあたしオヤジじゃないしっ!? もっと美少女らしくナチュラルにセクハラするしっ!?」



「いや、いつもめっちゃ無理矢理だからね……」



「セクハラは認めるんだな」



「美少女だとゆるサレル……?」



「許されないです……」



 そんな仄香は「別に良いしっ良いしっ!」と言って、どさくさに紛れて僕から唐揚げの袋を奪い取る。



「ああっ! なにすんの!」



「へーん、意地悪するからだもんねー。……ううーん、からあげさんは美味しいなぁー。棒になってない所がまたグッドだなぁー」



「どっちが先に意地悪を……。ってかアンタ今は食べてないでしょ……」



 なぜか空になったはずの口をもぐもぐさせる彼女。



「妄想内では美味しく頂いてるのー! これで二度美味しいっ!」



「貧乏くさっ! そんな理科の実験みたいな匂いの嗅ぎ方までして……」



 劇薬じゃないんだから、手で扇ぎながら嗅がなくても……実にお馬鹿っぽい。



 しかし、彼女はその香ばしさにうっとり涎を垂らしつつ、横目でチラチラとこちらを伺っている。それも、わざとらしく唐揚げと僕を交互に見て。もうすでに一個、味わってしまった彼女が何を狙っているのかは明白だ。そう、みんなは『あーん』をしただけでしかないのだ。



 ただ、僕から唐揚げを取ったのは失策だと思うけどね……。



「おいしそうだなー」



「食べないなら返してよ」



「へへーん、やだねぇ〜っ!」



「それ僕のだからねっ?」



 つまりは僕が『あーん』をするまで返してもらえず、そんな困惑する僕をもてあそびたいだろう。



 チラチラと見る他三人。流石に時間も迫ってあるから、食べつつ動向を伺っているようだ。となると下手な刺激は出来ず。そうすんなりともいかなさそう。



「返して欲しいんだったら、頼み方ってのがあるんじゃないかなぁー? 『仄香様お願いします!』じゃないのぉー? もーしーくーはー?」



 やっぱり唐揚げの爪楊枝を指をはじいてアピール。でも『お願いします』って、たかだか唐揚げ如きで何故そこまで頼み込まなければいけないのだろう……。しかし、美少女相手ならそれも辞さない所存……。でも素直に言うことを聞くのもつまらない。



「じゃあ仕方がないなぁ」



「うむうむ、分かっておるではないかぁ」



 僕はゆったりとした動作で、奪われた袋から爪楊枝をつまみ出し唐揚げに刺す。その手を仄香の口元に寄せたかと思えば、



「えっ……?」



 いたずらカップルしかり、僕は三個目の唐揚げを食べてその爪楊枝を元に戻すのであった。



「はい。もう僕は満足したから、残りはあげるね」



「そういうことじゃないのに……」



「えっ、なんだって?」



 ああこれは失敗した。美少女四人も居てまたも聞こえなかったフリは厳しいかもしれない。



「ほら、早くあたしにあ〜んして食べさせてよ」



 もはやドストレートである。



「そうだなぁ。はい、あーん」



「あ~」



 口を開けて待つ彼女もアホっぽくて可愛らしい。しかし、再びここで口の前まで差し出した唐揚げをひょいと戻す。



「またもーいじわるっ! 早く食べさせて!」



「はいはい」



 もう唐揚げで彼女をもてあそぶのも限界だろう。諦めて、彼女の口に唐揚げを収めようとすれば……。



「うゆぅ~んっ!!」



「へっ?」



 彼女の唇に唐揚げが当たり、それはぽとりと落ちる。一瞬の沈黙ののち、仄香は期待の眼差しから、いつもの小馬鹿にするようなあざ笑い顔に切り替わる。



「んんんーっ? ぷぷー! ねぇ、何で今コケちゃったのぉ? 一人でイキナリ倒れてきちゃって、実はドジっ子キャラ狙ってるのぉ? あっはっはっは!!」



「ち、違……咲姫どうしたの?」



「んっ? なにかなぁ~。わたし何もしてないけどぉ~?」



「デモ……咲姫ちゃん今……」



「百合ちゃんがいきなり手を滑らせちゃっただけなのよねぇ~?」



「は、ハイ……。ソウデシタ」



 笑顔で圧力を掛ける咲姫ちゃんに負けたゆずりんであった。



 ちなみに腹を抱えて僕を嘲笑っているが、笑い上げてもう一つのカラアゲさんも地面に落としてしまっている。そんな彼女が愛らしい。



「笑うのは良いけど手元見てみなね?」



「んー? ゔぇっ! まだ一個しか食べて無いのに! ゆーちゃんなんてことしてくれるの!? エターナルチュチュチュの刑だっ!」



「冤罪だ!」



「業が深いな」



「アタシも食べたカッタ……」



 そうだなぁ、仄香で遊ばないでみんなに分ければ良かったと少し後悔。ちゅちゅちゅと突ついてくるし。なんなんだこの子は。



 そう思っていたところで、



 キーンコーンカーンコーンと。



 昼休みが終わり、次の授業の予鈴だ。



「さっ、からあげは諦めて、早く戻ろっか」



 言いながら僕はティッシュで落ちた唐揚げをくるみ、空いていたコンビニ袋へ。"あーん"してもらえなかった上に全然食べられなかった仄香は、



「あー食べ足んなーい。ゆーちゃんのせいだー」



「知らないよ……」



 どこまでも僕のせいにしようとする仄香ちゃんだった。

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