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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部二章「百合葉の美少女落とし」
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第33話「妙な美少女たち」

 譲羽が重要なイベントのカギを持ってきてくれた翌日。僕は少し浮かれた気分で登校する。



 昨日は旅行の話がまとまり次第、皆が一様に用事があると帰ってしまったけれど、旅行の準備でも思い付いたのだろうか。水着……を着る予定は無いから私服? もし買い物だったのなら、みんなで行きたかったもの。



 春霞はるがすみのかかった柔らかな晴れ空模様。その優しい風に抱かれるように、桜の芽が赤ちゃんのほっぺたみたいに色付き始めていて、早いものだと五分咲きのものもあった。もしかすると、週末の旅行に満開になって花見も一緒に出来るかもしれない。行く先の旅館は湖と桜で有名なのだ。それが……。



 今週末……かぁっ。



「たっのしっみだっなぁーっ!」



 いつかのように僕はそう一人呟いてしまった。というか、叫んだに近かった。言って始めて周りを確認する。良かった、今回は誰も居ない。



 と、思えば……。



「何が楽しみなのぉ~?」



「うっひゃあぁあっ!」



 真後ろからの声に情けない悲鳴をあげてしまった。



「なんだ、咲姫かぁ……。驚かさないでよ」



「なんだってなによぉ……。わたしの王子サマに声をかけちゃあ駄目って言うのぉ~?」



「い、いや……そうじゃないけどね」



 まさか独り言を聞かれていただなんて恥ずかしい……。



「それなら……」



 言って咲姫は立ち止まった僕の背中へピトッと張り付く。そうすれば……。



「おはよぉう、百合ちゃん?」



 耳元で囁く彼女。その色っぽい吐息が鼓膜をくすぐり、ついぶるっと身震いしてしまった。



 すると、あざ笑うかのように「ふぅ~っ」と笑い息を吹きかけてくる咲姫。



「なあにぃ~? わたしの声を間近で聞くのが震えるほど嫌なのぉ?」



「ち、ちがっ。はひっ!」



 追撃の吐息でまた変な声が出てしまう。どうにも僕は耳が弱いようだ。



「んふふっ」



「もうっ、咲姫ったら。朝から僕をもてあそばないでよ……。僕が王子なら咲姫はSMの女王様だよ……」



「ん~なんの事やら~。でも、百合ちゃん相手だとこっちのほうが好みかなぁ……ってぇ~」



「ど、どういうこと……?」



「なんでもなぁ~いっ」



 そう、イタズラっぽく笑う彼女。う~ん、うちの姫様はどうやら小悪魔攻め路線を目指してしまうみたいだぞ?



 僕の左側に並び立ち歩く彼女。右手に掛けていたカバンは逆方向へ。かわいいマスコットやキーホルダーがほどよくついたカバンだ。ずいぶん中身は重たそうだけれど、やはり優等生だから全教科の教材を持ち帰っているのだろうか。僕は可能な限り学校で課題や復習を終わらせるから、最低限しか持って帰らなかったりする。全教科分持ち歩くとか大変だしね。



 教室の扉を開けてみれば、僕と咲姫の席には譲羽と仄香が座っていた。僕は早めに出たつもりだったのだけれど、彼女らいつもより早いなぁ。もしかして週末が楽しみで早く起きちゃった? ……それは気が早すぎるか。僕じゃああるまいし。



「おおお、おっすおっすゆりはすー!」



「お、おはよう? 仄香、どうして焦ってるの?」



 妙に挙動不審な仄香は僕の姿を認めるなり、後ずさるように席から離れる。なんなんだろう。呼び方も、彼女がたまーにしか使わないあだ名だ。



 不審に思い見つめていると、彼女は指をくるくるさせ、視線は左上へ。



「うん、あれよっ! あれだから……ちょっと、落ち着かないってか……。今日とか六時に起きちゃったもんねー」



「……ネー」



 譲羽と顔を合わせ確認する彼女、なんで起きる時間まで息が合うのやら。



「へぇー。なんで?」



 だが僕が訊ねれば、「ほ、ほれはっ!」とか「あわわわっ」とか慌てふためく二人。お馬鹿な分、隠し事があるのが丸わかりだ。



「それはっ! あれよっ! あれがあれで……。そうっ! 個人情報……プライベートアイランドだよ!」



「アイランドって……島を所有してるの?」



「ソシキの……き、規則事項……デスッ!」



「それを言うなら禁則事項でしょ?」



 ダメダメであった。



「とりあえず秘密なのーっ!」



「暴いたら……メッ」



「そっかぁ」



 まあ彼女らがそこまで言うなら仕方がない。追求しないであげよう。そのように、首を傾げつつ気持ちを飲み込んだ僕に、蘭子が微笑みかける。



「百合葉?」



「な、なに……?」



「早弁はしないようにな」



「え、えぇー」



 なんだろう。僕が食いしん坊キャラに見えてたりするの? こう見えても一応女なんだから、ちょっと傷つくよ?



 咲姫は彼女らの異変に何か気付いただろうか……と思って見れば、こちらもこちらで思惑顔。ちょっとむくれている?



「さ、咲姫? 大丈夫?」



「えっ? ううん、ちょっと考え事……」



 うーん。妙な美少女たちだ。口裏を合わせて誕生日パーティーとかでは無さそうだし……なんだろう。



 その疑問は、昼休みに入ってから判明するのであった。



「えーっ!」



「だから。ここは園芸部と業者が立ち入って花の植え替え中なの。我慢してもらえるかしら」



「昨日はダイジョーブだったのにー!」



「たまたま業者が休みだっただけよ、準備は始めていたわ。明後日には使えるわけだし、我慢してちょうだいね?」



「んっぐーっ!!!」



 辺りに響き渡るほどの声で悔しがり、地団駄をダンダンダダンダッとリズミカルに踏み鳴らす仄香……アンタ楽しんでるでしょ……。



 ともかく仄香に事実を告げて怒らせた先輩。横髪から後ろ髪へ掛けて斜め一直線に切りそろえられたサラサラなセミロングが、春の風を浴びて揺れるのを上品に押さえ、そして眼鏡をくいと直す彼女。



 この人は、是非とも上司に欲しいお姉さま系クール女子の黒乃さんだ。男装女子部の副部長のはずだったけれど……。



「でも、どうしてあなたが?」



「こう見えて私、生徒会の副会長なのよ。だから立会人って感じかしら」



「んぬぬぬ。こんなところまで邪魔をするかぁー。男装女子部めぇーっ」



「ちょっと。バラ園とは関係ないし、それにこの間の勝負に黒乃さんはほどんど関わってなかったでしょ?」



「ちぇー。つまんないのー」



「ごめんなさいね。妙に関わってしまって」



「いえいえ」



 わざわざ謝ってくれる黒乃さん。顔はキリリとしているけれど、表情はどこか穏やかだ。気の強い人ばかりである男装女子部の癒やしとも言えそう。



「じゃあ、お昼はどこで食べましょうかしらねぇ~」



「教室に戻るか?」



「えーっ、んじゃーつまんないよぉー! でもお腹すいたぁーっ」



「変わった、場所が……イイ」



 一様にきびすを返しつつ、みんなが次の場所を模索する。弁当を広げられて、かつ特別感のある場所を。



 どうして昼休み早々、昼食も摂らずにこんなところに居るのかというのも、昨日のバラ園でピクニックでもしたいという発言が原因だった。



「せっかく弁当を持ってきたのに、こういう場所で食べられないのは残念だな」



「そうよねぇ~、ちょっぴり残念っ」



「まあ、バラ園は植え替え終えればいつでも開いてるわけだし、また今度にしようよ」



「うぬぬ……」



「仕方がないな」



「悲シイ」



「そうねぇ」



 先頭を歩く僕が振り向きつつ目配せをすれば、口々に残念がりつつも素直に着いてくる美少女たち。その手には目的の物が握られていて。



 みんなが持っているのは、それぞれの趣味が現れている色とりどりの包み。もちろん蘭子は真っ黒基調に薔薇だけど。それ本当に弁当用なの? いくら好みとはいえ、ちょっとどうかと思うよ?



 さておき、僕がやりたいと洩らしてお弁当イベントだ。ただで諦めるわけにはいかず。僕は振り向き後ろ歩きしながら、四人に微笑みかける。



「それじゃあその代わりに……。良い案があるんだけど、みんな行かない?」

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