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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部二章「百合葉の美少女落とし」
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第30話「種植え」

 昼休み。春の景色をのどかに照らす太陽のもと、僕ら五人は校舎周りを歩いていた。良い天気で、譲羽も写真を撮るのが楽しそうだ。



「いい天気だね」



「こんな日は外に出るっきゃないよねー! じめった心をポカポカ乾かさなきゃだぜ!? 最高だぁ!」



「晴れは晴れでも、もし風が強かったらどうするんだ?」



「そりゃあもう、飛んでみようとするんだよぉ! フライハイよっ!」



「そ、そうか……」



 仄香の飛び抜けた元気っぷりに何も言えなくなる蘭子。天気につられてテンションが高い娘であった。そんな彼女なら、雨の日にもテンション高く濡れに走り出しそうなものだけれど。



 だが、そんな元気ハツラツなのは仄香だけで、僕ら四人は辺りをキョロキョロしていた。



「それで、ゆずちゃんが言ってた花壇はどこだったかしらねぇ」



「多分こっちの方だったと思うんだけど」



「花園の近く……としか聞かなかった……フカクッ」



「あっ、あれはどうだろ」



 細かく場所を教わらなかったことを落ち込む譲羽だが、間もなく僕の指さした先には、校舎に寄り添うようにしてひっそりと佇む花壇……というよりは、棒が刺さって枯れ草が巻き付いている一帯が……。歩み寄ってみる。



「枯れたアサガオをそのままに……って言ってたんだよね。これじゃない?」



「このようなところに……ヒミツの、花園が……。ここを活気づける命を、承っ……タッ」



「なるほどぉ! 助太刀しましょうぞっ!」



「仄香殿。共にここを色鮮やかに彩るのデスッ!」



「ガッテンガッテン!」



 その戦国ネタは定番なの? もしかしたら二人のマイブームなのかもしれない。



「隣のバラ園に比べて貧相だな」



「バラ園は庭師さんが手入れしてるらしいからね。でもこっちは範囲外なのかな。狭くて大したことも出来ないし」



「ここは楓ちゃん……渋谷先生がいじってたらしいんだけど、忙しくてここまで手が回らない、ミタイ」



 と、譲羽が説明する。



 そう、僕らは依頼を受けてここに来ていた。



 一時限目後に、担任兼写真部顧問である渋谷先生に譲羽が呼ばれ、何やら廊下の隅で話していたかと思えば、その話だったのだという。帰ってくるときには小さな袋を持っていて、今がそのときとばかりに、ポケットから取り出す譲羽。



 ところで、ゆずりんは先生のことを楓ちゃんと呼んだ? 先生も成績を心配していたし、やっぱり仲が良いのだろうか。



「これはアサガオ……こっちがヒマワリで……。その細長いのがコスモス……」



「わぁ~っ、懐かしいなぁ」



「アサガオの種とか昔集めたわよねぇ~?」



「そうそう! 切ったスイカみたいな形の種が並んでて面白いんだよねぇ」



「うん……それ。子どもの頃の宝物……ダッタ」



 なんて、想いせる三人。やはりこういうのは、お嬢様学校でも分かる子は居るもんなんだなぁとちょっぴり嬉しくなる。



 一方、仄香と蘭子は首を傾げている。二人とも、花とは縁がなさそう……いや、蘭子は薔薇をくわえてそうだけど。



「なんやなんやぁ~? これは。食べ物かぁー? シリアルに入ってるあれかぁー?」



 ほら、出たもん。食い意地娘が。



「はぁい、ほのちゃん。食べるぅ?」



「じょ、ジョーダンだよぉー! 流石のあたしでも、種をもっしゃもっしゃ食べたりしないようっ!」



「いやぁ、割と信じちゃうわ……」



 譲羽が取り出した種を一つ摘まんで咲姫は仄香に向けたので、ハムスターみたいに頬を膨らませた仄香が、ブンブンと手を振っていた。なかなか良い笑顔をしますね姫様……。



 あらかじめ用務員室から小さなシャベルと軍手を借りていた僕らは、枯れた草花をよけて種を植えるスペースを作り始める。



 そこで立ち上がり首を傾げた仄香が一言。



「ねぇ、これウチら、写真部じゃなくて園芸部なんじゃね?」



「まあ、みんなで集まりたくて作った部活だからね……。先生にはこき使われて当然だよ」



「実際、私らは写真部らしい活動はしていないもんな」



「じゃあこうすればいいじゃなぁい」



 顔をしかめる僕と蘭子だったが、何かを提案するように咲姫は、ユズがポケットに入れて持ち歩いている部活用デジカメを指し、合図を出して僕らを映してもらう。そして、次に彼女がそれを借りると、自撮りの要領で自分と譲羽も映るよう、作業の様子を撮る。



「これでみんな写真部でしょ?」



「そうだな。どんな写真と言えども、日常風景だって立派な写真だからな」



 「そうよぉ~」と言って咲姫は撮った写真を僕らに見せてくれる。小さなディスプレイにはばっちりと写った五人と園芸の様子が。



「今時コンパクトデジタルカメラってのも珍しいよね。子供のとき以来だ」



「スマホの写真でジューブンだもんねー」



「でも、スマホならポチポチ押して気に入らなかったら消しちゃうじゃない? デジカメだとそれが面倒だから残るのよぉ」



「まあしかし、インスタントカメラのようなアナログには敵わないけどな」



「それもそうねぇ~。時代の流れは不思議よねぇ~」



 なんてババ臭い話になっていたり。よくもまあ、インスタントカメラなんて知ってたものだ。



「んでも、自撮りっちゃあスマホがあるけど、デジカメじゃあ無理くない? 咲姫ちゃそすごくない?」



「大丈夫よぉ。携帯を持ってなかった頃によく練習してたからぁ~」



 「ほぇ~」と仄香は漏らす。確かにばっちり写っているのが奇跡みたいなものだ。 



「ほう。友だちとよく撮っていたのか?」



「ま、まあ。いつも一人だったんだけどねぇ……」



「そ、それは済まない……」



 目を泳がせる咲姫と、本当に済まなそうに謝る蘭子。二人ともぼっち気質なのだろうか。僕も分かってしまうのがまた胸に刺さる。自分が写った画像って自撮りばっかになっちゃうよね。

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