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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部二章「百合葉の美少女落とし」
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第25話「ドリンクバーテンダー」

 机を挟んで両面に座る僕ら。比較的高身長な僕と蘭子のペアと、向き合う席には、譲羽、仄香、咲姫の三人が。「ご注文お決まりになったらお呼びくださーい」と言って店員が立ち去るのを合図に、仄香がグラスを持ったかど思えば、怪しく微笑んで僕と視線を交わす。



「はっけよーい?」



「仄香? それは相撲だよね? やるのは乾杯の音頭でしょ?」



「そっかー。音頭なら……どっこいしょー?」



「絶対ボケてるでしょアンタ……」



 狭い席で両手を交互に上げ左右へ身体を回し踊る仄香。だが譲羽も咲姫も迷惑がることなく、その揺れに乗っかっていたり。全く、相変わらず楽しくひとボケかましてくれるものだ。だけどそれも静かになったと思えば、ニンマリと期待するようなまなざしが僕に向く。そうして自然と皆の視線まで注がれる。



 ぼ、僕がやるの?



 しかし当然といえば当然かぁ。僕きっかけの、事件の中心人物になってしまったのだから。僕はポリポリと頬を掻きコホンと咳払い。



「それじゃあ? 勝利……を? 祝しまして……」



「へいっ! かんぱぁーいっ!」



「かんぱーい」



 四人がグラスをぶつけ、遅れて僕も手を伸ばす。



 僕……要らなかったじゃん……!



 土曜日の、ランチタイムにはまだ早い時間帯。平日と違って徐々に増える足取りを眺めながら駅前に集まった僕らは、ファミレスで勝利の宴とやらを開いていた。



 しかし、机の上には一人ひとつのプラスチック製グラスがあるだけ。



「乾杯は早かったんじゃない? 水しかないよ」



「んなもん勢いよ! 水だって酒じゃー! うたげじゃー!」



「ウタゲ……ジャー」



「炊飯ジャー!」



「……っ!? それは美味しくお米が炊けるという三種のジンギ……!」



「そうだぞぉ! こりゃあもう祝うっきゃない! はい、そーっれ! 一気! 一気!」



 と、一人で謎のテンションを振るい続ける仄香は掛け声は自分に向けた物なのか、一気飲みしだす……水を。そこにゆずりんも混じるものだから、当然……。



「えぶぅっ!」



「けほっ……」



「アホかいアンタたちは!」



「なにやってるのよぉ。もぉ~」



 せる彼女らに咲姫と二人掛かりで彼女らの口を拭く。



 ところで咲姫ちゃんがとてもお姉ちゃん感強いから、僕も噎せてみようかなんて思ったり思わなかったり。姉姉ねえねえ、僕も拭いてー、だなんて。やらないけどね。



「わりとまじでごめんよう……! 水なら余裕だと油断してたわ……」



「悪乗り……ダッタ……」



「はいはい。次からは気をつけてね」



 とは言いつつも、その内に似たようなことをしでかしそうなのは何故だろう。それは仄香がノリで生きているようにしか見えないからかもしれない。



※ ※ ※



「仏料理ってなに? ショウジンしちゃうの?」



「いや、精進料理じゃないから。フランス料理だから……」



「――ッ!? つまりはフランスは仏の料理が食べられ……ルッ!?」



「違うっ。フランスを漢字に当てたら『仏』ってだけ」



 そんなツッコミをしながらも、ゆっくりメニューを眺めて注文し終われば手持ち無沙汰に。今日は五人で行動するわけだから、誰か一人にアプローチをかけるのは難しく。僕が気遣いフォロー役に回って、皆が仲良くできるように手回しする方が良さそうだ。あまりに気が利かず嫌われてしまうのは、好きになってもらう以前の問題であるし。



 というか、



「へいっ! おしぼりスラッシュお披露目するぜ! この包みの端を摘まんでー? デコピンズバッと!」



「すごぉい! きれいにけられるのねぇ!」



「仄香ちゃんカッコイイ……アタシも……」



「これくらい余裕だぞ仄香」



「おうおうっ!? もう少し仄香ちゃんすごいコールを浴びさせてくれよう!」



「はいはい、すごいわねぇ」



「意外とヨユー……ダッタ」



「二人も出来てるしぃっ!?」



 仄香を筆頭にみんな自由すぎるから、僕がサポートするしかないのだ。



 そう思った僕は一瞬言葉が尽きたタイミングを見計らって立ち上がる。



「ドリンクバー、みんな何飲む? 料理はまだ来ないと思うけど」



「あぁ~、わたしピーチティ〜」



「ブラックコーヒー、アイスで」



「シロップー!」



「仄香? 本当にシロップ一杯のドリンク作ってあげようか……?」



「うぬぬ……すません、アイスティーとオレンジジュースで」



「二つも……? まあいいや」



 この子はどこまでもボケていないと生きていけないのだろうか……。もう慣れたものだ。



「ユズは何にする?」



「う、うーん……」



 斜め上の虚空を見つめ小首をコロコロかしげる。迷った彼女はメニュー表を広げるも……。



「そこに種類は載っていないよ?」



「……? はっ!」



 いつもの眠そうな目を見開く彼女。しかしそれでも眠そうなのには変わりがないなんてどれだけなの……。



「じゃあ、一緒に行って選ぼうか」



「ソレ、……名案っ!」



 言って譲羽はグッと握り拳を作る。名案だという事なのだろうか。可愛い娘である。



「スゴイ……。こんなに種類が、あるの……」



「もしかしてドリングバーとか初めて?」



「うん。もっとお高いものがあるところにしか来たこと……ナイ……」



 とても嫌みに聞こえそうだが、それは本心からの感想なのだろう。箱入り娘で親が理事長なのだから、そういうこともあるかもしれない。



 僕らは色とりどりに並ぶドリンクコーナーへと歩み出す。しかし、僕を追い越し、ジュース類とコーヒー類のドリンクサーバーを素通りした譲羽は、ホットドリンクサーバーの前に立ち、ジッと見つめる。



「どうしたの?」



「これ……二つ押したら、どうなるの? これとこれ……ホットイチゴチョコレートが、飲み……タイっ」



 イチゴオレとチョコレートオレを指差しながら、目を子どものようにキラキラ。意外とわがままな質問が来たぞ?



「うーん、自販機と一緒かな。先に押しちゃったほうしか出ないと思う」



「そっか」



 ガッカリと譲羽は肩を落とす。しかし、僕はその解決策を知っていた。



「ちょっと待っててね」



 言って僕はカップとプラスチック製グラスを手にして彼女の前に戻ってくる。何が始まるのだろうと言わんばかりに、キョトンとした彼女は口をぽっかり開けている。



「これをこうして……」

 僕はイチゴオレのボタンを押してカップに注ぐ……も、その途中で薄め液に切り替わるタイミングを見計らい、グラスに取り替えそこへ注ぐ。同様の流れをココアでも行い、そして出来上がったものはスプーンでかき混ぜて。



 すると、イチゴチョコレートミックスの出来上がりであった。グラスに残った方はただの薄め液なので、排水溝に流す。



「おまたせ。甘さ濃いめで美味しいよ?」



 オボンを受け取りながら彼女はカップにそっと鼻を近づけ匂いを嗅ぐ。それほど好きなのだろう。ニンマリと微笑む譲羽。



「なんという、ミラクル……! 稀代きだいのバーテンダーが、ココに!」



「おおげさだよ。途中でこぼしたら迷惑だから真似しないようにね?」



「うん、なら……。慣れてる百合葉ちゃんをアタシ専用のドリンクバーテンダーに、任命する……っ!」



「そ、そう。別にいいけど」



 つまりファミレスに来る度にゆずりんに呼ばれるのでは? まあ構わないか。



 もちろん、お嬢様にはそぐわない安っぽさ……子供っぽさはあるけれど、彼女のために作ってあげようと思ったのであった。このくらいで楽しんでもらえるなら本望である。

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