第23話「即興シンデレラ」
「シンデレラ……か。なかなか悪くない選択だと思うゼ」
「いいね、いいよキミ! それでいこう!」
「しかも文化祭の出し物設定なんだろ? 面白そうだよなぁ」
「じゃあ早速。開始さッ!」
「え、ええー」
葵くんと白夜さん、茜さんがそれぞれ好印象みたいで、すんなり受け入れられ始まった事に驚く僕。しかし、白夜さんは「ノンノン」と指を左右に振る。
「折角なんだから、この即興具合を楽しまないと。さぁて、ボクはシンデレラの王子様役かぁー。最後まで出番が無いのは残念だけど、致し方がないよねっ。ほらっ、採寸係!」
白夜さんは早速スイッチが入ったのか、仄香を指名して『採寸』を命じた。役も即興で決めていくようだ。
「じゃあ採寸させてーいただきますねーっと。あれっ? 白夜さんお胸がない? もしかして女子校なのに男が紛れ込んでるぅ?」
「ジーザスッ!? いきなりセクハラとはビックリな採寸係だねっ。ボクはれっきとした女だよ? それとも、証拠に今夜、ボクに抱かれてみるかい?」
「いえ、えんりょしときまーす」
どちらかというと攻め派なのだろう、サラッと受け流す仄香だった。
そこへ、ずいと挑み出る僕。
「さあ、シンデレラ役の咲姫ちゃんを連れてきたよ。これでメインキャラは一通り揃ったね」
「あ、お姫様やりまぁ~っす」
なんて、強行突破だ。僕は舞台の真ん中へ自ら躍り出る。
「メインキャラかい? シンデレラと言えば、残るは意地悪なお母さん役とお姉さま役……誰だろうね」
白夜さんはわざとらしく周りを見渡す。すると、まだ役割が決まっていない茜さんと葵くんがひそひそ。
「お前さんが母役やれよぉー。あたしゃあ勘弁だぞ?」
「オレだって、姉役もイヤだぜ。でも、他に配役が居ないんじゃあナ……」
二人は諦めたように肩を落とし、そしてずいと前に出る。
「オレ……わたくしが母役ですことヨ! さあ、シンデレラをいじめて差し上げますワっ!」
「あたしは姉役……って、何をする役だったかぁ?」
なんだか違う気がする。
しかし、その持ち前の度胸のお陰が、ギャラリーからはクスクスと笑い声が。失笑ではない。意外とウケているのだ。みんな顔は良いから、劇のNG集みたいな感じ? これはこれでありなのかもしれない。
「じゃあ、僕が作家を担当するよ。おっと、王子役のマントが無いかも……。白夜さん、探しに行ってください!」
「ふっ、早速仕掛けに来たね……。でも、そうは行かないよ。この、カーテンを切って使えば、マントの替わりに、なるのさっ!」
そう言って、カーテンを手にした素振りを大きく見せる白夜さん。相手の大将を違和感なく退出させるゲーム。流石にすんなりとはいかないか。
「じゃあマントの採寸をするんでー、白夜さん計りますねーッ!」
「ノンジーザスッ! お尻を揉む必要は無いんじゃないかい!?」
その中で、仄香だけはなぜかセクハラ三昧なのであった。
※ ※ ※
「なあ、譲羽。これって、シンデレラだったよな?」
「そ、そのハズ……」
舞台袖で眺める蘭子が譲羽に問いかけるのが聞こえた。僕も何が何やらだ。
劇が始まって十分くらいはたっただろうか。そろそろ、決着を着けたいそんなところで、即興劇の方向性はぐんと変わってしまった。
「ああ、ロミオ。どうしてアナタはロミオなの?」
「ボクはキミの小鳥になりたい」
……ロミオとジュリエットだこれ。
「さあ、小鳥になりたいというなら白夜さん。小鳥の衣装を探しに行ったらどうです?」
「ノンノン、百合葉ちゃん。今は演劇の内容を詰め込みたいんだ。衣装は後でもいいから、キミが用意しに行ってくれ」
「いえ、作家で監督役なので、この持ち場を離れるわけには」
「じゃああたしが行ってきまーす」
「ちょっ! ……仄香、衣装係には居てほしいなぁ」
「いや、むしろ。衣装係なら、彼女に任せた方が良いんじゃないカナ? 行ってきてくれ」
「はーい」
「仄香……」
なんて、彼女は自ら退出してしまったのだ。どうしてっと目で問いかけると、
「だって、もう茜ちゃんも葵ちゃんも退出してるし? ゆーちゃんとさっきーに任せた方が案外面白いかなって!」
「さ、さようでっか……」
最初の白夜さんへの嫌悪感はどこへやら。ゲームにノリノリな仄香なのであった。
しかし、内容はいよいよクライマックス。立ったままの咲姫を抱くように両腕を当てて、そして天を仰ぐ。
「ああ、愛する人よ。死は君の命を吸い上げてしまったが、まだ君の美しさには力を及ぼしてはいない。君はまだ征服されていない」
よくもまあ、そんなセリフを覚えているなと感心して声も上げられなかった。しかし、彼女は続けて演技に熱を入れる。
「君が飲んだ杯にキスをしよう。望むべくは、まだ毒が残っていることを!」
毒の杯を手に、白夜さんは飲み込んだフリをする。キスシーンが無いのは、白夜さんなりの気遣いだろう。そうして、彼女は倒れ込む……。
一方で戸惑う咲姫だが、"ロミオとジュリエット"の演目通りに彼女は起き上がり……。んんん?
「おいおい死んじまったよ……。これってどうなるんだぁー?」
「さあ、わからないナ」
白夜さんは横になったっきり、起きあがらなかった。




