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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部二章「百合葉の美少女落とし」
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第21話「いざ、男装女子部へ」

 食堂でひと息ついて。僕らは男装女子部の面々に削がれてしまった時間を取り返すため、やや急ぎ気味でご飯を食べている。とは言っても無言でかき込むのではなく、いつものように相変わらずお喋りしながらだけれども。



「本当に良かったのか? 百合葉」



「そうよぉ~。こっちには何もメリットが無いじゃない」



「あんな無理やりの入部届なんて、ムコーだね、ムコー。話に乗ってやる必要も無かったじゃん」



 食べている合間合間で上手いことタイミングを見つけて、蘭子と咲姫と仄香がそれぞれ文句を漏らす。全く持ってその通り。確かにそれもあるのだ。強引な相手に乗ってやる義理もない。しかし……。



「これ以上ちょっかい出されなく無かったからさ。ユズもおびえてたし」



 そう言って僕は譲羽の肩を軽く抱く。うつむいていた彼女の顔が上がり、こわばり顔が少し緩む。



「ごめん……ね……。アタシの……判断力ステータスが低いばかりに……」



「良いよ良いよ。僕に任せて」



「うへへっ。アリガ、トウ……」



 なんて、ちょい中二病をこじらせつつも不器用に笑ってくれるものだから、是非とも守りたいもの。そう。ここで逃げてしまえば、モテモテの百合ハーレムなんて、夢のまた夢だろう。目の前で怯える美少女を助けずに、何がイケメン女子か。



 そんな小動物系の譲羽だからなのか、咲姫も嫉妬もせずに、譲羽の頭を撫で始めた。僕ら二人に挟まれてゆずりんは気持ちよさそうである。そう。今は彼女の不安感や自責の念を払拭してあげるのが最優先なのだ。



 そうやって撫で撫で微笑ましい僕らとは対照的に、向かいではいつもゆずりんの面倒を見ている仄香がちょっとむくれ面。だが、仕方が無いと決心したように首を振ったと思えば、尖らせていた唇を開く。



「いやぁーでも、あーゆー人、ホントにいるんだねー。ウワサには聞いてたけどさー」



「ウワサ?」



白夜びゃくや――とかいう女の話か?」



「そーそー。二年生に学校のプリンスが居るってウワサはあったんだよねー。一年じゃあ知ってる人全然いないっぽいけど、二三にさん年生じゃあファンクラブまであるんだってさー」



「へぇー。すごいんだねぇ」



「確かにぃ~? 美形ではあったものねぇ~。性格はともかくぅ~」



「そうそれっ! 残念美人ってやつよ!」



「ギャグでしかないな」



「だいぶ頭のネジがぶっ飛んでたもんね」



 と、思い思いの感想を述べる。ちなみに君たちも大概だと思うけどね。アホの子レズにぶりっ子プリンセスレズにナルシストクソレズに。白夜さんはそれ以上にキャラがハマりすぎていて、印象強いだけなのかもしれないけれど。



 だが、そんな王子様を羨ましく思ったり。あんなにかっこいいイケメン女子でレズとか、そんなの、世間に許されるに決まってる。芸能人として一躍有名になれそうなタイプだ。僕にはそこまでカリスマ性を出せそうにない。未だに公共レズバレが怖かったりするのだから。



 とは言っても、皆が平然としているけど僕らのクラス自体、レズ率が高くてどうかとも思った。いや、嬉しいんだけど……困惑の方が大きい。ここの五人も概ねそれっぽいし、男装女子部のあかねさんとあおいくんと……それにみどりちゃんも入れたら八人だ。三十二人のうち八人ってつまり四分の一じゃないか。かなりのレズ率である。んんん? 百合厨が湧いちゃうぞ?



 そうして。ついにやってきた放課後。板書をしながらも僕はお題とやらに悩まされているうちに、一日全ての授業が終わってしまった。この後どうするかと五人が集まり、それを待っていたのか、ゆっくりと近付いてくる茜さんと葵くん。どうやらお待ちかねという様子。



「やあ、オレのお姫さま。迎えに来たゼ?」



「ゆりはすがあたしらの仲間になるかと思えば今からワクワクだなぁー?」



「勝敗はまだまだ決まってないからね? ほら、さっさと案内してよ」



「お任せアレ」



「迷子になんないようにしっかり付いて来なよー?」



「ま、たとえ迷える子羊になっても安心しなヨ。このオレが暗闇の中からキミを見つけだすからナ?」



「あー、はいはい」



 ノリノリな二人に僕は呆れた視線を送りながら返すも、そんな僕の態度は気にも留めないようで、二人はニンマリ微笑んで先をゆく。ナンパばかりする人は、素っ気ない対応をされても、おくする事なんて無いのだろうか。その鋼の心はある意味で羨ましい。



「そういやー、ソッキョーゲキとやらの内容は決まったのー?」



「それがね……ちょっとぼんやりしたままで……」



「即興とは言え舞台設定自体、劇作家がやるようなことなのだから、難しいだろう」



「物語を書くって意味だものねぇ」



「でも……下地だけでイイ……らしい」



「まあね」



 僕らは前を歩く二人から少し距離を置きつつ相談する。その様子を見たのか、チラチラ後ろを確認しつつ先導する二人。相談中だという雰囲気から察してくれたようだ。



「一応シンデレラ……とか良いと思ったんだけど、内容を覚えてるワケじゃあ無いもんね。僕自身あいまいだし」



「あっ、それやりたぁ~い」



「そうだな。その案から広げていけば、良いかもしれない」



 僕の案に咲姫が挙手し、蘭子も賛成を表明する。



「マジ? そんな簡単なのでいいの? 意外とよゆーじゃん」



 そして口をアホっぽく開ける仄香。不覚考えることが苦手なのかこういう考えることとなると蚊帳の外になってしまいがちだけど、良い流れと見たのか途端に気を緩める。



「それが余裕でも無いんだよね。このストーリーから相手のリーダーを退出させるワケだから、物語通りじゃ駄目な気がする。白夜さんの意図に沿っていないと」



 そう。脱出させるための即興劇なんて言われてもよくわからないのだ。物語のキャラクターと舞台と背景設定さえ決められれば良いのだとは思うけれど。



 と、僕があごに手をやって考えていれば、譲羽がちょいちょいと僕のカーディガンの袖を引っ張る。萌えキャラかよ。



「そこまでしか、決まってないなら……あとは、アタシが……決めタイっ」



 そして重たいまぶたの奥でキリッと目を輝かせながら、可愛らしくビシッと挙手する。う~ん、萌えキャラかなっ。



「そう? 大丈夫?」



「劇という名の世界の創造……好き、ダッタリ……する!」



「ならお任せしようかな。時間は短いけど」



「うん。任サレタ」



 そう言って意気揚々とした彼女は真剣な表情で考え出した。この子、さっきまでは怯えていたのに、自分の好きなジャンルだからなのか途端に元気に……。うんうん、オタクってそういうところあるよね……。好きだよ……。



 部室まで三分くらいの間だろうか。ゆずりんは小説を書いていると言っていたし、得意分野なのかも。それとも、責任を取りたかったり?



 静かになり、僕ら四人は顔を見合わせ頷く。もう思索に入ったのか、譲羽はぶつぶつ唇を動かしながら黙り出す。間に合うかな……。しかし、どっちにしろもう時間が無いのだ。それを言い訳にしてもいいし、彼女にはプレッシャーを掛けず、ただ見守るだけに留めておこう。



「もう着くゼ?」



「覚悟しろよぉ?」



 葵くんと茜さんが言う。しばし歩いた先は部室棟四階の一番端。広い間取りの教室の前に来た。形は音楽室のように見える。窓などは無く中の様子は眺められないが、その壁にはホストさながらに男装女子部の面々のキラキラ合成済み顔写真が貼られていた。



 この人たち、意外とそれらしい活動はしているんだな。



 ゴクリと喉を鳴らしドアに手を掛ける二人を見る。準備は良いかと、問いかける瞳。僕は頷いて二人に返す。



 すると、執事さながらに葵くんと茜さんは一礼し、挨拶を。



「お姫様方。本日はゆっくりとお楽しみくださいませ」

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