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カードワールド ―異世界カードゲーム―  作者: 勇出あつ
王総御前試合編
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#26 巫女の一言

前回までのおはなし



 呪いのカードによって異世界に飛ばされてしまった俺。


 カードを実体化する危険なカードを探している相棒と共に、旅に出ている。


 王総御前試合という大会で優勝できれば、その手がかりとなる【探索】のカードを得ることができる。


 大会にむけて準備をすすめる俺たちだったが……


 なにもない平原を、ただひたすら機械馬車にのってゆられる。

 見渡す限り背の短い雑草でかこまれている。目や体に優しい環境だが、御前試合を前にしてのんびり自然にいやされている場合じゃないだろうに。


「大会まであと1ヶ月もないのに、なんでこんな王都から離れたところに?」


 思わず、イヤそうに言ってしまう。大会に向けて俺なりに計画があったのに、こんな遠いところきたらパーだ。


「あるいは大会よりも大事な場所かもしれないわよ?」


 ローグはそういうが、そもそも実体化のカードを探しても見つからず、確実な捜索方法として御前試合で優勝して景品である【探索】カードを俺たちがもらおうということになったのではなかったのか。

 彼女の言い草では、実体化のカードが見つかったというわけではないようだ。ストールを外して素顔でいるということはひと気のないところに行くつもりなのだろう。まあフォッシャが行くと決めたなら、俺も行くけどな。御前試合はチーム戦だから、俺一人でどうにかなるものでもないし。


「巫女ってなんなんだ、フォッシャ?」と俺は聞いた。


「あんたそんなことも知らないの?」


「お前にはきいてねーよ」


 かみついてくるミジルを牽制するが、彼女は意外にも丁寧に説明してくれた。


「いい? カンナギの札巫女ふだみこっていうのはね、とってもえらい存在なんだから」


「王総より?」


「くらべ物になんないわよ。世界の治安を守るためにオドに選ばれて特別な力を授けられた、超高貴な存在なのよ!」


 前にフォッシャの一族の説明を聞いたときのことを思い出す。たしか現代のほとんどの生物にはオドの制限がかかっていて大したスキルを持っていないんだよな。

 俺の場合、[逆境に強い]というスキルの才能があるらしい。フォッシャは特別な一族の末裔まつえいでカードを実体化するというトンデモ能力なのだから、その差はあきらかだ。

 それにミジルの話をてらしあわせると、巫女はフォッシャの一族とはちがって後天的に強大なオドの力を得るってことなんだろうか。


「慈善活動をしたり、その地のオドのコントロールなんかもしてるとか……まああたしも詳しいことはよく知らないんだけどさ、とにかくあんたは無礼のないように……」


 まあ、大して興味もないな。


 ミジルの話の途中だったが、いつの間にか俺は横になって寝てしまっていた。さいきん夜遅くまでカードの研究に時間を費やしていたから、寝不足だった。



「なにか危険なカードの気配はある?」


「うーん……まったく。強力な結界みたいのが張られてるのはわかるワヌ」


 ローグとフォッシャの声がして起きる。なにやらハイロとミジルが夢中になって外の景色を眺めているので俺も不思議におもって目をやった。

 幻想的な場所だった。霧がかったうつくしい草木に、カラフルな光の球が浮いてあたりを照らしている。

 なぜか空や雲がいつもより壮大に、より近く大きく見える。まるで王都とはちがう、人智を離れた光景だった。

 風車のついた不思議なデザインの塔が見える。あれが目的の場所か。

 やがて馬車が止まり、城壁の前で検問にかかった。犬のような獣人族の男と、人間の男性の屈強な兵士二人がローグとなにか話したあと、俺のほうに向かってきた。


「申し訳ありませんがあなたはここから先へは進めません」と、犬兵士が言う。


「え? なんで?」


「異常なオドが検知されました」


 えええ。ここまできて入れないのかよ。


「かまいませんよ。オドの導きによるものです」


 女性の声があたりに響きわたる。なにかこの景色とも似合う洗練された衣装をまとった彼女は、顔は見えない。なにか黒の厚いベールを頭につけていて、口元だけがあらわになっていた。

 彼女のうしろについている護衛ふたりにもおごそかな雰囲気があるが、あの女性自身にも不思議なオーラがある。


「マールシュ様。立派になられましたねぇ」


「巫女様もご壮健でなによりです」


 面識があるのか、巫女殿とローグは和やかに挨拶をかわしていた。

 真っ白で殺風景な部屋へと案内され、そこで二人は本題を話し始めた。

 その間特にすることがないので、紅茶を飲みながらミジルに小声で質問する。


「あの人がカンナギの札巫女ふだみこ?」


「たぶんね。光風こうふうを司る巫女様。私も初めてお会いするから……」


 声の震えで、ミジルが緊張しているのがわかった。フォッシャも別人のように真面目な顔つきでいる。王総の前ですらだらけていた彼女がここまでなるということは、巫女というのは相当格の高い人物なのだろう。

 マジで失礼のないようにしないとクビが飛ぶな。気をつけよう。


「と、そういうわけで、ぜひ巫女さまから王総殿下おうそうでんかに一筆いただけないかと……」


「なるほど、実体化のカードですか。そんなものがあるとは……いったいそんなことをどこで知ったのでしょう?」


「最重要機密であり……答えられません」


「……わかりました。それくらいであれば容易いことです。しかし……王総御前試合はほまれある格式高い大会。巫女の一言いちごんといえど、大会の制約には口出しができないかもしれません。あなた方はあなた方で、ぜひ尽力じんりょくして優勝なさってください。もし他の方が優勝してカードを手に入れても、そのときは私から言えばあなた方に所有権をうつせるはずですけれど、そんなやり方ではあなた方も納得がいかないのでは? 誇り高きヴァルフであるならば……正式に勝ち取りたいはずです」


 なるほど、ローグはそういう話をしてたのか。たしかにフォッシャの目的は実体化のカードを見つけることであって、御前試合の優勝はその手段にすぎない。


「それにできれば出ていただきたい。すこし気になることもあるので……マールシュ、あとでお話があります。それでどなたが……」


 そう言って、きょろきょろと巫女はあたりを見回す。ローグが俺のほうを見ているのに気づいた巫女は、こちらにゆっくりと歩み寄ってきた。


「お初にお目にかかります。わたくし、光風シャンツを司るカンナギの札巫女。今日はよろしくお願いします」


 いきなり挨拶されて俺は飛び上がり、とりあえず一礼して、


「す、スオウザカエイトです。元カードゲーマー、現ヴァルフ……よ、よろしくお願いいたします……る」


 なにがよろしくなのか全くわからないが、「ではエイト様、こちらへどうぞ」と巫女が言うので俺は戸惑いながら彼女と護衛の後をついていった。


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