#15 必要戦力
その日も早くから研究室にあつまる。俺とフォッシャがついたときには、もうミジルたちがそろっていた。
なにをしているかというと、前回の御前試合の記録動画をカードが映し出す立体映像で研究しているのである。
王総御前試合。特別に推薦されたり実力で名を馳せてえらばれたカードゲーマーやヴァルフが出場する、らしい。
ハイロが言うには、精霊杯のほうが歴史ある古い大会だがこの王総御前試合は比較的成立は新しいものの格上で、アマチュアトップレベルの結闘士が近隣諸国からあつまるのだそうだ。
しかし最低3人は必要なチーム戦であるため、メンバーの選出などについては主催者側がお願いすることもあったりとわりと曖昧らしい。代々伝わる由緒正しい儀式という面が強い精霊杯にくらべ、こちらは規定などが緩いが人気のあるお祭り的な雰囲気なのだそうだ。
それにしてもハイロに悪気はないのだろうが、そう何度も精霊杯が由緒正しい大会だと連呼されると、辞退したことに妙な罪悪感のようなものが沸いてきて後ろめたい。
とはいえこのカードの異世界という逆境で生きのこるためにした決断であり、後悔はまったくないんだけどな。
試合の映像をみるかぎり、御前試合のルールはエンシェント式に近いが、3人で同時にカードで戦っている。
「このコマンド・マエストラって役割の人だけは、ものすごい枚数のカードを使ってるな」
俺が画面を指差していうと、ローグが解説してくれた。
「コマンドはウォリアー2体と控え1枚に、トリックは規定20枚つかうことができるわぁ。最も多くのカードを扱うことになる、戦術の要ともいうべき司令塔のポジションね」
「それなら、俺がやりたいな。剣術は素人だけど、カードならけっこう得意だ」
水を得た魚のように俺ははしゃぐ。正直、このルールには安心した。エンシェント式は一対一の決闘みたいな形式だったから苦手だったけど、このルールなら俺の能力を活かせる。
「前衛を張るヴァングは私が。フォッシャちゃんは、クイーンをお願いします」
ハイロが自分の胸に手をあてていう。
「がんばるワヌ!」
「ハイロ、本当に御前試合にでるつもりなの?」
俺たちが盛り上がっているところに、ミジルが話に割り込んできた。
「何度も言ってるでしょ。私は本気です」
ミジルは悔しそうに唇を噛んで、「どうしてカードの大会なんて……」とつぶやく。
まあ彼女のことはいったん置いておこう。
実力カード共にそろってるハイロはいいけど、俺とフォッシャはもうちょっと工夫のあるカードが必要だ。
色々考えた結果、俺はあるイベントへの参加をきめた。
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それで今いるのは、怪しげな洋館というわけだ。
王都から遠く離れた、山の奥深くの辺境にある薄暗い森をさらに突き進んだ先の、不気味な森の中にある。
ところどころ内装が古く、仮装している人たちでごった返している奇妙な光景なのに、ホラーチックなおどろおどろしい雰囲気がある。
「てーぶるとっぷろーるぷれいんぐげーむ、だっけ。フォッシャこういうのはじめてワヌ!」
「俺もはじめてだよ。イベントをクリアするとカードの報酬がもらえるんだが……だれか経験者はいる?」
ミジルたちを振り返ってきいてみたが、微妙な反応をみるにみんな初心者らしい。
「なんでみんなついてきたんだよ……」
「遊びたかったんじゃないワヌか?」
楽天的に言うフォッシャ。そうなのかねえ。ミジルは思いっきり俺のことにらんでるんだが。
俺もこのイベントについて詳しいことはまだよくわかっていないのだが、とにかく目当ては報酬のカードだ。
御前試合まで1ヶ月は猶予がある。準備する期間がなかった精霊杯のときとは状況がちがう。かかっているものが大きい分、今回こそは負けられない。すこしでも勝つ確率はあげておきたい。
挑戦するのは、テーブルトップロールプレイングゲーム。またの名をペンアンドペーパーロールプレイングゲーム。いわゆるTTRPGと呼ばれる類の遊びらしい。
同じようなものは俺の元いた世界にもあったけど、カードで忙しくてなかなか触れる機会はなかったんだよな。
あたりがだんだんと暗くなり始め、不安感を煽るようなしずかな音楽が流れはじめる。すると広間の奥の舞台からタキシード姿の老齢の男性があらわれ、綺麗に一礼した。
次回の更新→来週5月28日火