#12 進むためのドロー
次の日、研究室に向かうとハイロがいて、めずらしくあわてた様子でこちらに駆け寄ってきた。
「王総邸から褒賞がとどいたみたいですよ! エイトさんと、フォッシャさん宛てのようです……!」
高級そうな包みと、表彰状や記念章をいちどに差し出してくる。さすがに持ちきれず、中身のわからないものだけ残してあとはフォッシャに一旦持ってもらう。
包みをひらいてみると、中にはありえないはずのものが入っていた。
「『べボイ・トリックスタ』じゃないか!」
世界に2枚しかない非売品のカード。あまりの興奮に、手がふるえる。
「なんで俺の欲しかったカードが……!?」
「こっちはトリックカード【魔法の制御<オド・ブレスコントロール>】ワヌね。……あ! これを使えばまちがって実体化しちゃうのを防ぐことができるかも……!」
そっちもかなりのレアカードじゃないか。簡単には手に入らないぞ。
心臓が止まるかと思ったぞ。これはたまげた。
「王総がくれたんだよな。ひとつはゼルクフギアの報酬で……もうひとつは、この前お孫さんをたすけたお礼、とかだったりするのかな」
「それにしても、これ以上ない贈り物ですね。だれが選んでくれたんでしょうか……?」
俺たちは目を合わせ、すぐに答えが浮かんだ。言うまでもない、今はこの場にいないがこれだけの贈り物の[カードセンス]があって、王総に無理が言えるのはあいつしかいない。
このカードたちを選別してくれた意図はわかる。世のためにうまく使えという、彼女なりのメッセージなのだろう。
「練習はじめるとするか! だれかさんの応援もあるみたいだしな」
「はい!」
「大さんせい!」
準備をして席にどっかりと座る。ミジルはやっぱり今日もいて、こちらには興味なさそうに窓の外をながめていた。ハイロは時々彼女の話相手になりながら、俺たちの練習風景を眺めたり、フォッシャの手札を気にしたりしている。
フォッシャが山札のカードに手を伸ばす。【魔法の制御】のカードのおかげか、手札は実体化していない。心なしか学校での一件以来カードゲームに熱心になり、いつもより気合の入った表情をしているように見える。だが明るく溌溂としていて、フォッシャらしさもちゃんとある。
なにか良いほうに、変わったんだな。俺はそんなことを思う。
俺たちはカードを引く。希望のある明日に向かって、力強く進むために。
次回の更新→5月16日木17時ごろ