表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カードワールド ―異世界カードゲーム―  作者: 勇出あつ
王総御前試合編
80/170

真理追究<リサーチ>カード⑤


 ――なんかエイトのやつハイロにデレデレしちゃって、気に入らない。

 メンバーにハイロが必要だからああやってしてるのはわかるけど、呪いのカードのこともあるんだからキンチョーカンもってほしいよね、まったく。


 ラトリーに会いにきたら、教室前の廊下に人だかりができていた。いつぞやの王総の孫がいてそのまわりに生徒がむらがっているらしい。

 なんでこんなところに彼がいるんだろう。


「ラトリー、なにかあったワヌ?」


「あ、フォッシャちゃん! それがちょっとすごい人がきてて……」


 それがあの孫ってことか。


「ルシャヴィンさん。学院に通われるんですか?」


 と、王総の孫に向かって取り巻きらしき男の子がきくと、孫はえらそうな態度で、


「フン。下賎の者どもと学業などさいしょからそんなつもりはない。わしの目的はそう……このレクッド学院の宝部屋に眠るといわれる、秘密のカード!」


 秘密のカード?


「そんなカードがあるんですか!?」と男の子がおどろく。


「はっ。しまった……。ええい、ひっこんでおれ!」


「いや、待てよ。これだけ人がいたほうが警護の者もやりにくいか……。よし、キョウミのあるやつはついてこい。わしが許可する」


「ルシャヴィンさん、秘密のカードのこと教えてくださいよ~」


 そんなカードがあるとは知らなかった。そのためにこのルシャヴィンは来たのかな。

 いくら王総の孫とはいえ、勝手にそんなの探しちゃっていいのかな。本当にあるのかどうかも知らないけど。


「まあ教えてやってもよいが……探すためには四六時中わしにひっついている警護のものをどうにかしなくてはならん」


 ルシャヴィンの近くには日に焼けた恰幅のいい兵士が3人ほど護衛についている。

 ルシャヴィンはこちらのほうをみて、なにかいいものを見つけたという風に目を輝かせた。


「おお。ちょうどよい。おい! 野生のタヌキが校内まぎれこんでいるぞ! 者どもであえ!」


 タヌキ? いったいどこにそんなのが?


 あたりをみまわしてもそれらしき生き物は見当たらない。

 突然体が軽くなったと思ったら宙に浮き、ラトリーがやけに低いところに見える。

 首を斜めうしろにまわすと、警護の兵士のひとりが私をもちあげているではないか。


 っっって私かーーい!!!


 さすがに野生動物あつかいされてつかまるわけにはいかない。兵士の腕をすりぬけて、あえて教室のなかへと逃げ込み、机の下を駆け回って兵士たちを翻弄する。


 けっきょくその後も逃げまわりつづけ、しばらくしてからラトリーの関係者だという話が通じてことなきを得た。

 しかしルシャヴィンの姿がなくなっており、あわてて兵士たちが探しにいく。


「ルシャヴィンさんはどこにいったんでしょうね? 秘密のカードがどうとかいっていましたが」


「なんだかイヤな予感がするワヌね……」


「わ、私先生呼んでくるね」


 ラトリーの友達の女の子が、すたたと駆けていく。懸命な判断ワヌね。


「ラトリー、ついてくるワヌ」


 私がそういうと、ラトリーは不思議そうな顔をする。


 オドの感じでルシャヴィンの行ったところは追跡できる。危ないかもしれないから、すぐに引き止めないと。

 気配をたどり、関係者以外立ち入り禁止のエリアに着く。ボロい部屋の一角に目では見えない扉があり、隙間をカードで縫うと簡単にひらいた。


 すでに秘密のカードがある部屋へのトラップは二つほど解かれているようで、次々と部屋がつながっていた。


 やがてルシャヴィンたちと興味本位でついてきたのであろう数人の生徒の背中を見つける。聞こえてきた会話から察するに行き止まりだったらしく、道を変えるためこちらに引き返してくるようだった。

 すぐに説得をこころみたけれど、ルシャヴィンは聞く耳をもってくれない。


「わしはじい様の力を借りたわけではない。自力で調べて宝部屋の存在にたどりついたのだ。誰もわしを止められんぞ」


「で、でも絶対まずいですよ……」


 ラトリーの言葉もむなしく、


「じっとしてはおれんのじゃ」と悪びれもなく言い切るルシャヴィン。


「フォッシャちゃん、どうしよう……」


 カードのことになるとまわりが見えなくなる人なのかなぁ。今はここにいないあの人もカード探しのためなら危険エリアもざくざく冒険しにいっちゃうし。まったく、カード好きってみんなこうワヌ?


 なにかの音が鳴り響きはじめ、子供たちがおどろく。警報音だったようで、今まで通った扉が次々と閉められてしまい、戻れなくなってしまう。


「しまった……こんなトラップもあったのか」


 ルシャヴィンが固く閉ざされた扉をたたくが、びくともしない。


 こうなってしまってはもう四の五の言っていられない。子供たちには下がってもらって、【オドファイア】を使って扉を壊せないかためす。しかし、ほとんど傷すらついていない。


 完全に閉じ込められてしまった。灯かりもなく、私とルシャヴィンの【フラッシュ】のカードがすこしばかり部屋を照らすばかりだ。


 当然子供たちは心細くなって、みんな不安げな表情を浮かべ始める。


 雰囲気が暗い。私が一番お姉さんなんだから、どうにかしないと。

 そう思い、とりあえずラトリーの側に寄り添うと、やさしく頭を撫でてくれた。

 っていかんいかん。私が撫でてあげないと。でもまあいいか。


「今日は授業参観にきてくれたのに、ごめんね」


 ラトリーは優しい子なので、こんなときでも気をつかってくれる。


「いいってことワヌ。友達なんだから」


「お父さんとお母さん、カードの研究の仕事をしているんだけど、たまたま忙しくて今日は来れなかったみたいで。フォッシャちゃんたちがきてくれて嬉しかったよ」


「エイトには歴史の勉強させなきゃだめわぬね。カードのこと以外はなにも知らんワヌから」


 くすくすと、ふたりで笑いあう。ラトリーはだいじょうぶそうだ。だけど他の子は……

 どうしたらいいかな。でも、フォッシャにできることなんて……失敗してばかりの私がひとりでできることなんて。


 いやいや弱気になっちゃだめだ。私がみんなを守るって、決めたんだから。なんとか喜ばせるだけでもいい。なにかないかな。


 エイトだったらこういう時、きっと……

 カードを手にとって、にやっと笑って。


『どんなカードにも意味がある……そう信じたいんだ』


 ――あっ! そっか!


「アド得ワヌ……!」


 なにが最善なのか考えると良いってエイトは言ってったっけ。私にできることをやるんだ。


 子供たちの怖さをまぎらわすため、テネレモを召喚する。

 さいしょは「モンスター!?」と驚かれたが、


「だいじょうぶ! フォッシャの友達ワヌ! 怖くないワヌよ! ホラ!」と自らさわって仲良いところをみせ、子供たちの警戒心をとくとやがて打ち解けてくれた。

 テネレモもそんなにイヤじゃなさそうだ。


 さらに調子に乗って、テネレモのアドバンススキル【勇気の芽吹き<ドレインフラワー>】をつかい、なにもなかったはずの床にキレイな花々を咲かせる。


 子供たちから歓声があがる。泣きべそをかいていた子も、驚いている。


「これがカードの魔法ワヌ! フォッシャはこう見えて冒険士ワヌよ~」


 おお~と集まる羨望の眼差しがなんだか心地いい。


「ほう……お主、そこのしゃべるタヌキといい珍しい生き物をもっておるな。どこに忍ばせていたのじゃ?」


 ルシャヴィンがラトリーにきく。


「え? い、いえ、その……」


「タヌキじゃなくてフォッシャワヌ。ラトリーはお医者さんを目指してるから、生き物に好かれるワヌ」


「どういう理屈じゃ。……そういえばタヌキ、冒険士だと? 王総邸で会ったような気がするのう。気のせいか? もしそうだったら無礼を詫びる。あまりカード以外は興味なくての」


 いま思い出したんかい。まあ返事はしなくていいや、テネレモがルシャヴィンの注意を惹いてくれているうちに、あの閉まっている扉をなんとかしよう。

 気づかれないよう静かに『ゲルト・フィッシュ』を召喚する。


 扉を攻撃すると、簡単に壊れた。こちら側からではなく、向こう側からの衝撃で扉が崩れたらしい。


 エイトとハイロ、ハイロの妹さんのミジルが、こちらを見つけて嬉しそうに顔を明るくする。


 助けにきてくれたんだ。よかった。出られなかったらどうしようかちょっと不安だった。


 実体化の力のことがあって、私はまわりに迷惑をかけないように、ひとりで旅をしてきた。

 だけど今は頼れる仲間がいる。これもきっとオドの導きのおかげなのだろう。

 

次回の更新→あした5月8日17時ごろ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ