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カードワールド ―異世界カードゲーム―  作者: 勇出あつ
王総御前試合編
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#9 王都立レクッド学院


 廊下を歩いているとカード学部の先生から声をかけられた。ハイロの顔が知れていたらしく、生徒たちにぜひカードを教えてやってくれないかとの頼みだった。

 さすがに一度は断ったのだが、


「アマチュアの大会とはいえホープ杯で活躍した若手からは、数々の名選手が生まれましたからねえ。まさか王都にいるということは御前試合に!?」


 俺たちがうなずくと、その女性は興奮気味になって、


「なんとまあ。みんな喜びますよ! 顔だけでも……いえ、やっぱりご迷惑でしたね。プライベートなのに……」


 こちらの反応が微妙なのをみて彼女も我に返り冷静になってくれた。

 別に子供にカードを教えるくらいならなんてことはないのだけど、さすがに王都へは遊びにきたわけじゃないからな。そういうところは俺たちもしっかりしないと。


「すみません。またの機会があったら……」


 俺がそう言いかけると、後ろでミジルがメモ帳とペンを構え「ファンサービス×、と……」とつぶやくのがきこえた。

 ハイロにメンバーでいてもらうためには、ミジルからの評価を落とすわけにはいかないんだよな。


「か、顔をだすだけなら、いいよな。ハイロ?」


「ええ!? ま、まあ別にちょっとならかまいませんが……エイトさん、けっこうこどもが好きだったり……?」


「いや別に好きでも嫌いでもないけど……」


「子供はあまり好きじゃない、と……」


 ミジルのやつ、ここぞとばかりにプレッシャーをかけてくるな。

 だけどたしかにこういうところで良い印象を与えておかないと後が怖い。


「いや好きだな。俺もこどものころカードで遊んでたからな、うん。ちっちゃいころの自分をみてるみたいで、なんかかわいいよね、うん」


「私もです。こどもはたくさん欲しいですよね」


 ハイロは純粋な笑みを投げかけてくれる。ミジルも悪いやつではないと思うのだが、なかなか姉妹といえど性格に方向性のちがいがあるな。


「あの、ハイロ選手。サインいただいてもいいですか? 私けっこう期待してまして……応援してますからね」


 このおばさん先生、カードファンだったのか。どうりでぐいぐい来るなと思った。ハイロはこころよく頷いて、色紙にサインを書いて渡す。

 そんなこんなでカード学部の学童たちとカードで交流することになった。


 子供たちには遠慮というものはない。顔を出すだけではやはり終わらず、ヴァーサスで対戦することになった。

 一番人気はハイロで、彼女のまわりに人が集まる。彼女がいいプレイングを見せるたび、歓声や拍手が起きている。


「ハイロ選手、すごい強いね! うちのお姉ちゃんも強いんだよ! いつかプロになるって言ってた!」

「プロですか……すごいですね」


 そんな会話がハイロのほうから聞こえてくる。ちらとみると、対戦した男の子と話しているようだった。

 会ったころはハイロは物静かな人なのかと思っていたけれど、意外とああやって人と話したりするのが好きみたいだ。

 俺は俺で、学童たちとボードヴァーサスの練習試合をしたりする。さすがに手加減はするが、どの子もふだんからカードの勉強をしているだけあってしっかりと考えたプレイングをしてくる。

 

 ミジルは俺の監視。フォッシャも人気で、かわいいかわいいと揉みくちゃに撫でくりまわされてなかなか酷い目にあっていた。


 ひと息ついたところで、なんとかこの場から逃げられないかと思いハイロたちに目配せする。さすがにこの広い教室にいる全員と対戦してたらいつ帰れるかわからない。おばさん先生もにこにこと様子をながめているばかりで、助けてくれる気配がない。


「やっぱり魔法のある学校なんだから、探検とかしてみたいな! なあフォッシャ!」

「……エイト。フォッシャたちは保護者として来てるワヌよ」


 ガッと変な声を出してしまった。お前に常識をつっこまれるなんて。


「な、なんかフォッシャに言われたのが悔しい……」


 というか、退散しようって合図なんですけど。気づいてくれよ相棒。俺はダメ押しでもう一度、


「でもやっぱり気になるな。なんか地下とかにカードとか隠してあったり……!」

「隠してあったとして勝手にもらっていいわけないワヌよね」


 だからなんでこういう時にかぎってそんな冷静なんだよ。お前そんなキャラじゃないだろ。


「ま、まあまあ。機会があればまたいっしょに来れますよ。その……ね?」


 そうだハイロ、気づいてくれ。もうそろそろ帰りたいんだ。俺は目で伝えようとするが、優しい微笑をしてくれるだけであきらかに意思疎通ができてない。


「そうか? よし、また今度ってことでとりあえず今日は……」


 俺のアシストに無言で、白い目を向けてくるフォッシャ。なんか機嫌でも悪いのかな。

 子供たちと楽しそうにあそんでたのに。どっかぶつけたりして痛めたか? いや、はっきり帰ると言えって考えてるのかもしれない。


「ハイロは私が連れて帰るから、あんたが一緒にくることはもう二度とないでしょうけどね。断言できる」


 ミジルはなにに反発してんだよ。授業参観の話はもういいんだよ。


「そうだエイトさん、こんど歴史を勉強してみませんか? 一緒に図書館に……その……」


 ハイロがここでいい助けを入れてくれた。やっぱり頼りになるな。


「そ、そうだな。じゃあそろそろ切り上げて――」


「フォッシャはラトリーに会いにいってくるワヌ」


「じゃあ俺たちも――」


 教室をでていったフォッシャにつづいて俺も立ち上がるが、


「ええ!? 兄ちゃんまだオレと勝負してないじゃん!」


「い、いやまた今度……」


 今度は別の女の子が服の裾をつかんできて、


「カードのこともっと教えてよ!」


「君たちは充分優秀だって。あ、でも、怪しいカードの交換とかもちかけてくるやつには注意したほうがいいぞ。ボッタくられるかもしれないから」


「はーい」


 元気のいい返事ですね。ってちがうちがうちがう。 

 帰るタイミングをまた逃してしまった。


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