#6 力のコントロール
ひと気のない路地裏で休むとともに、ローグに頼まれて売店で買った長いストールを彼女に手渡す。
彼女はおもむろにストールを顔に巻きつけ、素顔を隠した。
「すごい人気だな。ローグ様だって……スターみたいな扱いじゃないか」
覆面の姿じゃないと出歩けないなんて、すこし大変だな。
「ええ……ここは私の生まれ育った町だから。どうしてもね……」
「ローグ、大会に出たくないのって、変に目立ちたくないからじゃないワヌか」
「それだけではないけど、それもあるわぁ。あの人たちも悪い人たちではないのだけれどね……」
「スターは大変ワヌよねぇ……わかるわかる」
フォッシャお前はスターではないだろ。適当なことを言うんじゃない。
「メンバー探しぜんぜんできなかったな……ハイロに任せきりじゃ悪いし、合流するか」
冒険士カードでハイロと連絡をとり、彼女が今いるというカードショップに向かった。
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カードショップの外で待ち合わせて話をきくと、ハイロのほうも難航していたらしい。
「やっぱりなかなかすぐにはみつからないかあ」
「そうですね……」
「フォッシャのスキルさえなんとかなってたらなぁ」
どうもフォッシャのスキルは彼女の意思に関係なく起動しちゃうときがあるんだよな。
仮にフォッシャに3人目のメンバーとして出てもらっても、御前試合の最中にウォリアーが喋ったりでもしたら大騒ぎになってしまう。
とそこで、俺に名案が浮かぶ。
「待てよ。……なんとかすればいいんじゃないか」
「ワヌ?」
「フォッシャの力を制御することができれば……」
じっと俺はフォッシャを見る。
「なるほどフォッシャが……えええええ!? フォッシャが大会に出るワヌ!?」
意外にも俺の意見にのってきたのはローグだった。
「正直あなたには大会に出て欲しくないけれど、力のコントロールの習得はしたほうがいいわね。幸いなことに、ゼルクフギアは完全には復元できていなかった。なにか一歩まちがって本来の力に復活していたら、いまごろラジトバウムの街は廃墟と化していたはず」
まあたしかにな。審官がいなかったらかなり厳しかっただろう。またあんなことがあったとして、次も勝てる保証はない。
「コントロールもカードも、俺たちが練習につきあってやるから大丈夫だって。ハイロもローグもいるんだしさ」
「ええええ……でもカードゲームはあんまり得意じゃ……」
「御前試合は団体戦ルールだから、役割分担ができます。エイトさんと私ががんばれば、フォッシャさんに負担はかかりませんよ。それに御前試合といっても、プロの大会ではないですから」
フォッシャはとまどっているようだったが、深呼吸して、考えをまとめたようだった。
「……いや、わかったワヌ。フォッシャがやらなきゃいけないことワヌよね。よろしく頼むワヌ、みんな」
フォッシャならそう言ってくれると、俺もハイロもわかっていた。
「カードに慣れるなら、カードゲームが一番いいだろうな」
「そうと決まれば、さっそくカードの練習をしましょう。まずはボードヴァーサスから。もう研究室は借りてありますよ」
カード研究会、王都支部ってところか。
「準備がいいなハイロは」
いえいえ、と謙遜しつつも顔を赤らめて喜ぶハイロ。
「カードゲームか……よーし、がんばろう!」
フォッシャは明るく言い放つ。それでこそ彼女らしい。
研究室へと向かう途中、俺はなんとなく雑談を持ちかける。
「そうそう。聞いてくれよ。ローグがなんかこの街じゃスターかアイドルみたいな知名度でさ。どこいっても通行人に追っかけられちゃって」
なるほどそれでストールを顔に巻いてるんですね、とローグをみて考えていそうな顔をするハイロ。
「ローグさんは大人の魅力がありますもんね……あこがれます」
ローグはため息まじりに、やれやれと肩をすくめる。
「……私は18よ。あなたたちと変わらないわぁ……」
…………
「「「ええええええええ!?」」」