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カードワールド ―異世界カードゲーム―  作者: 勇出あつ
ラジトバウム編
63/170

#45 このくらいのピンチ


 まずいことに、余計な一撃をもろに食らった。


 視界もぼやけて、思考もおぼつかない。

 ダメージのせいだけじゃない。体が重い。肉体強化魔法の反動が来ているのか。

 あのカードはエンシェントでも使うと次の日三日間は筋肉痛がとれなくなるくらい体に負荷がかかる。この世界で目覚めてから、このカードには頼りっぱなしだった。俺が思っていた以上に体に疲労が蓄積していたのかもしれない。

 体がふらつくのを剣を杖がわりにしてなんとかこらえるが、それがやっとだ。


 ダメージを受けた分だけ一時的にオドを強化するトリックカード【逆襲<ファイトバック>】を俺は手に取ったが――

 ぼんやりしているうちにまたあの影が体にまとわりついてきて、払うこともできずに首にまきつかれた。


「エイト!?」


「う……がはっ……」


 首を絞められ、息ができない。フォッシャの憔悴しきった顔と、ゼルクフギアが次の攻撃態勢に入っているのがみえる。なんとか、なんとかしないと――


 意識が朦朧とした時に、ゼルクフギアの光線がはっきりと視界に入った。

 俺は一歩も動けなかったが、フォッシャが俺の首元の影を取り払い、そして俺を突き飛ばすようにして身代わりになった。


 倒れた俺は顔の泥を拭いて、すぐさまフォッシャを探す。すこし離れたところに、痛々しい姿で少女が地面に横たわっていた。


「フォッシャ……!」


 呼びかけても、応答がない。

 フォッシャなしで……どうやって戦うんだ? 

 トリックカード? ハイロ? ローグ? 色んな案が浮かんでは、可能性が否定され消えていく。

 

 ………く……

 ダメだ…こいつには勝てない……俺の負けだ……

 もう……打つ手がない……


 水が揺れる音がして、顔をあげた先には審官がこちらを向いて立っていた。

 エースカードは俺になにかを訴えかけるかのように静かな視線を投げかけてから、ゼルクフギアへと突進していった。


 フォッシャが意識を失っても、カードがまだ実体化している……まだ逆転の芽はあるってことか!

 後ろでうめきごえがして、俺は振り返る。


「このくらいのピンチであきらめるなんて……エイトらしくないワヌ……」


 フォッシャが横になったまま、ふっと微笑んで言った。


 宙に審官のカードがあらわれ、白い煙と共にまぶしいほどの火花が炸裂する。焼き焦げて震える左手で俺はそれを手に取った。


 これは……!?

 審官のシークレットスキルがわかる……! カードから俺の心にイメージとスキルの名前が刻まれる。


 以前にも見た。まさか……これもフォッシャの力なのか。


 彼女は古代のカードを復元させる力があると言っていた。

 ただ復元するだけじゃなく、カードの眠っている力を引き出すことができる……

 フォッシャ第二のオドスキル。氷の魔女のとき、シークレットが使えたのはそれが理由だったんだ。


 それを確かめようにも、もうフォッシャは意識を失ってしまっている。土壇場になるが覚悟を決めて挑むしかない。


 ゼルクフギアを押さえ込んでいた審官が、一瞬こちらに視線を向けた。彼の眼差しに宿る強い意志が、俺に決意を与えた。

 

「……永続封印の儀式……エターナルフルーフ」


 審官のシークレットスキルが発動し、巨大な煙と光が混じってゼルクフギア・ラージャを包み込んでいく。

 飛龍の抵抗もむなしく、だんだん煙が小さくなっていくと共にゼルクフギアの姿も見えなくなっていった。

 俺は最後の力を使いきり、もう立っていることもできずに前のめりに倒れた。


 消えていく。俺のエースカードが、オドのカケラになってゆっくりと散っていく。自身を犠牲に、強大な力を封じ込んだのだ。

 彼は最後にふっとこちらを振り返って、微笑んでくれた。


 ゼルクフギアがカードに戻りきる前に、俺はフォッシャの元へと地べたを這った。

 意識さえもてば、あとすこしで彼女の可愛らしい顔を撫でることができそうだったが、伸ばした手はとどかなかった。


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