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カードワールド ―異世界カードゲーム―  作者: 勇出あつ
ラジトバウム編
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#44 空中戦


 狙い通りだった。彼女の澄み渡るような声がひびくと共に、ローグ戦と同じく黒い雪が敵の魔法を打ち消していく。

 たぶんこの大技は相手の魔法を抑制するか、打ち消す効果があるのだろう。

 オドの魔力量の関係で何度も打つことはできないだろうが、わずかな時間でも影攻撃を止めることができればあの飛龍に近づくことができる。


 俺はハイロからもらった『四つ羽のヤタガラス』を召喚し、地上に氷の魔女を残してフォッシャ、テネレモと一緒にヤタガラスの背中に飛び乗る。

 テネレモを最前にして、俺の後ろにフォッシャがしがみついている。


 ヤタガラスの背に乗って、空を舞う。ヤタガラスは俺が思っていたよりもすばやく、飛龍の爪攻撃やしっぽ攻撃も見事にかわしてくれる。


 さらにフォッシャの【火精霊の炎弾<オドファイア>】と氷の魔女の【バブルスノウ】で、遠距離から相手に攻撃をぶつけていく。相手も飛び回っているためすべて命中するわけではなく、当たっても大きなダメージにはなってないかもしれないが、牽制けんせいとして敵の集中力を分散できるはずだ。


 飛龍の頭をこえたとき、俺は肉体強化魔法【セルジャック】で意識を加速させトリックヤタガラスからとびおり、ソードオブカードをかまえた。

 敵がこちらに向かって腕を振り回したと同時に左手で持っていた【クロス・カウンター】を発動、爪をかわすと共に顔に渾身の剣撃を叩き込む。


 この合わせ技には少なからず自信がある。セルジャックでパワーと反応速度を上昇させ、敵の攻撃をかわしたところにクロス・カウンター。これは精霊杯でも何度も使ってきた手だ。


 俺が地面に落下する前に、ヤタガラスが回り込んで背中で受け止めてくれた。


 右手にトリックカード4枚をかまえたとき、、飛龍がその場に留まりこちらに睨みをきかしただけで俺の右手が突然発破する。

 何が起きたのかわからなかった。せっかくハイロからもらった有能なトリックカードたちが破れ、カケラとなって空気に溶けていく。


 ここにきて新パターンか……!

 影の多彩な魔法は封じたと思っていたが、氷の魔女の魔法でもあの爆発は防げないようだ。何の前触れもなく起こるためテネレモでも防げない。

 いや、よく考えれば前触れらしきものはあった。最初に影が俺たちの体にまとわりついたとき、ただこちらの動きを妨害しているだけだと思っていたがあれがこの爆発の起因だったのかもしれない。


 なんにせよ右手はほぼ再起不能になってしまった。


 フォッシャと氷の魔女の遠距離砲撃など気にも留めていないかのようで、ゼルクフギアは悠然と巨大なエネルギー弾をこちらに放ってきた。

 俺はソードオブカードを握ったまま左手で2枚のトリックカードを切る。【魔法の付け焼刃<マジックシフトアップ>】と【弱魔法反射<リフレクション>】。

 即興アドリブのアクションだったがうまくいき、魔法を二枚重ねしたカードの剣で、エネルギー弾を打ち返し、ゼルクフギアにぶつける。


 間髪いれずにゼルクフギアは追撃を放ってくる。即時に放ってきた光線にテネレモの盾で対応したが、この至近距離では抑えきれずに盾が壊れヤタガラスとテネレモに直撃してしまった。

 空中でバランスを崩し、テネレモとヤタガラスは落下、俺とフォッシャもそうなるかと思いきや、ゼルクフギアの両腕が伸びてこちらの体を掴んだ。


 フォッシャと俺は捉えられて爪の中に収まる。凄まじい力に、抜け出すどころか呼吸さえもできない。すこしでも力を緩めば藁のようにしなってつぶれそうだ。


 ゼルクフギアの恐ろしい形相が目と鼻の先にある。俺たちを食べるつもりか、八つ裂きにするつもりか。


 なにかされるのをおちおち待っているわけにはいかない。とっさのアイデアで、両手のふさがっていた俺は口でくわえてカードを切った。

 なんてことはない『フラッシュ』という辺りを照らすだけの魔法だが、ゼルクフギアの目をくらませることに成功し、解放された。


 助かったわけではない。俺たちは空中から、下で燃え盛っている森林にまっさかさまに落下する。

 なにかカードを出すのもまにあわず炎の渦が俺たちを包み込もうという時、大きな氷のブロックが空中で俺たちを受け止めた。しかし衝撃でソードオブカードは氷の床を滑って沼へと落ちていってしまう。


 頼もしいことに氷の魔女が俺たちを助けてくれたようだった。

 地面に降りて、頭から爪の先まで泥だらけになりながらも体制を整える。 


 相手がひるんでいるここで仕掛ける。『宿命の魔審官』を召喚し、スキル【反逆の双弾丸】を発動。ゼルクフギアの両翼を撃ち、地面へと墜落させる。

 ハイロから借りたトリックカード【底なしチョコ沼】の出番がきた。虚底の沼地を戦場だと仮定したときから決めていた作戦だ。まあ正直なところ幾重も作戦は用意していたのだが、ほとんど相手の魔法で潰されてしまったなかでこれだけでもうまくいってよかった。


「トリックカード発動……今度はこっちが捕まえたぞ」


 その頑強がんきょう脚部きゃくぶでも、粘っこいチョコレートの底なし沼が相手では抜け出せまい。

 ハイロもよくぞ有効なカードを選別してくれた。この戦術を達成できたことについて、仲間の存在を誇らしく思う。


「……どんな弱いカードにも意味はある、か……」


 好機を逃さずに、俺はとっておきの必殺スキルを繰り出す。



「『宿命の魔審官』アドバンススキル……! 【断罪の銃爆<カルマメント・ガン>】」

 

 審官の銃から、赤い矢のような魔法が射出される。魔法は沼で身動きがとれないゼルクフギアに直撃し、刺さると共に空気が震えるほど衝撃の爆発を起こした。


 顔に泥が飛んでくるが、それよりもどれだけやつにダメージが入ったか目視で確認しなければ。


 これが効かないようでは――


 俺の期待とは裏腹に、絶望的なまでにゼルクフギアは健常そのものだった。影の魔法で器用に泥を避け、また空へと昇っていく。

 まるで効いていないのか。こいつを倒すのに、あとどれだけこの死闘を続ければいいんだ。


 状況を……状況をみるんだ。頭を働かせろ。

 ヤタガラスは気絶、氷の魔女とテネレモもすでに消耗しきっていて戦えそうにない。フォッシャのオドももう残っていないだろう。


 俺自身オドも体力もあまり残っていない。だがそれより先に、心が折れそうだ。


 油断が生じ俺はゼルクフギアが魔法を放ったのに気づかず、またあの影が左肩にまとわりついていたことを爆発してから気がついた。


 肉がえぐれるかと思うほどの威力だったが、オドの加護とやらのおかげか腕を失うことなく何mも吹き飛び泥のなかに倒れただけで済んだ。


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